最新作『Ømni』が素晴らしい出来だったブラジルを代表するメロディックパワーメタルバンド・ANGRAの来日公演に行ってきました。ANGRAを観るのは初めて、そしてファビオ・リオーネを観るのも初めての体験。
当日は週のド真ん中平日ということもあり、開場からのアクセスが悪くスケジュールも読みにくい僕は行けるか不安でしたが、何とか間に合いそうな時間に仕事が終わりそうだったので一安心。
しかし!定時直前になって他部署の人からの厄介なメールが送られてきて、その対応にかなり時間を使ってしまったためスケジュールが狂う。FUCK!!
なんとかひと段落ついた頃にはもう間に合うか間に合わないかの瀬戸際の時間。ダッシュで駅のホームまで駆け込み電車に飛び乗る。会場となるTSUTAYAO-EASTがあるホテル街は迷路のように入り組んでいて相変わらずわかりにくいことこの上なく、しばし息を切らしながら走り周り、フロアに入った時にはすでに会場は暗転、観客が手拍子でバンドを迎え入れている最中でした。
ホテル街で迷ったときはもうダメかと思いましたが、ダッシュの甲斐ありなんとか頭から観ることができました。今のアクセスの悪い職場にいる以上は平日のライヴは毎回こんな感じなのかな...。いや、今日はあの野郎が送ってきたメンドクセーメールのせいだけどな!
ダラダラしたたる汗をハンカチで拭いながら上手側後方で待機していると、いかにも南米人といえる(ファビオはイタリアだけど)濃ゆ~い顔した面々が登場。オープニングはミドルテンポのプログレッシヴナンバー「Newborn Me」。ライヴの幕開けを彩る曲としてはちょいと地味に感じられなくもない。
しかしヴォーカルと演奏の素晴らしさを観た瞬間、そんなことはどうでもよくなる。とにかく上手い。芸術的なまでに上手い。
ANGRAは音源からして単なるメロパワバンドにとどまらないスキルとセンスを活かし、非常に芸術的に楽曲を仕上げていますが、その高度かつ崇高な楽曲が完全に生の音で再現されている。
特にファビオ・リオーネの歌唱は想像以上で、単純な上手さはもちろんのことながら安定感が半端じゃない!CD音源にも劣らない太く伸びやかな歌声が序盤から終盤にいたるまで一切ブレない、驚異的な歌唱力を披露していました。頻繁にマイクスタンドを持ち上げるアクションもキビキビしてて、フロントマンの風格は文句なし。
演奏陣もパーフェクトと言えるパフォーマンスで、キコ・ルーレイロの代役であるマルセロ・バルボーザ、中心人物でありテンガロンハットみたいな帽子がおよそメタルヘッズには見えないラファエル・ビッテンコート、何となくEvoken Festで観たDerdianを想起してしまった(笑)ベースのフェリペ・アンドレオーリの3人のテクがまたすさまじく、タッピングを多めに取り入れた超絶技巧をここぞとばかりに披露。涼しい顔してスゲエや。
ただリズム隊の面々はプレイこそ文句なしなれど、ルックスが普通すぎるので、せめて服装くらいはもっと気合い入れてもいいんじゃないですかね(笑) ファビオも普段着っぽい感じだったけど華がありますからねあの人は。
ファビオとオーディエンスで「Nothing To ~...?」「Say!」と掛け合いを行った後に民謡パワーメタル(?)である「Nothing To Say」をプレイ、さらに劇的なリードで疾走する「Running Alone」までも飛び出し前半からスゴイ熱量を放出。
そして最新作の中でもひと際民族音楽のムードが漂う「Caveman」がプレイ。冒頭の部分も同期音源のみではなく、実際にラファエルとフェリペにより歌われ、劇的極まりないサビではファビオの卓越した中音域歌唱が素晴らしく魅力的に響きます。
その後はブルーノ・ヴァルヴェルデ によるドラムソロ。そして彼のテクがまた恐ろしいことになっており、適度にオーディエンスとの掛け合いを挟みつつ、手数足数の凄まじい超速連打を披露。
この手のソロタイムは長くてちょっとダレてしまうこともあるんですが、彼はそこのところをわきまえているのか、長すぎず短すぎずのいい塩梅でまとめ上げてくれていたのが良心的。とはいえあれだけのテクニックはもう少し長くても全然良かったなあ。
ただそれとは対照的に、ライヴの後半におけるファビオのロングトーン自慢とオーディエンスの掛け合いはだいぶ長いことやっており、あそこはもう少しまとめて欲しかったなあ(笑)
「ARCH ENEMYのアリッサ・ホワイト・グラズが参加した曲だ」とラファエルの紹介で始まった「Black Widow's Web」では「わざわざ名前出ししたってことはアリッサ来るのかな?」と一瞬思ったものの、ゲストシンガーは迎えられずにファビオとラファエルで歌われる。
さすがに原曲の持つ女性らしい艶やかなクリーンはラファエルの歌唱では再現できないものの、ファビオはなかなかに本格的なデスヴォイスを披露。さらにはホイッスルヴォイスと思えるような超高音の金切り声まで使い分け、改めてそのシンガーとしての実力と声量、器用さに驚かされました。
そして「Carry ON」「Nova Era」と並びANGRA最強のキラーチューン「Spread Your Fire」が飛び出す!...のですが...
イントロのリードギターから思いっきりキーが下がっている!!
ファビオのヴォーカルも問答無用でガッツリと下がっており、原曲が持つ異常なまでの高揚感が圧倒的に不足していて違和感が半端ではない!!
歌声自体は極めて安定しているのにも関わらず音が全然違うという、なんとも不思議な不完全燃焼感にかられました。これは自分の持ち歌はしっかり歌えるけど、マイケル・キスクの曲は全然ダメなHELLOWEENのアンディ・デリスにも通じるところがありますね。
意外にもギターヴォーカル然とした姿勢が違和感なくハマっているラファエルが「The Bottom Of My Soul」にて、センターでメインヴォーカルを務め、その後はアンコール前のラストナンバーである「Magic Mirror」をプレイ。
「えっ、この曲がラストなの?悪い曲じゃないけど、ラストにしては結構地味じゃない?」と、5人並んで深々と礼をするステージ上を見ながら思ってしまいました...(笑)
アンコールではまずラファエルが一人で出てきて、今回のツアーについて少し長めに語り出す。その後一人ずつステージ袖から名前を呼んでバンドメンバーの紹介を行いましたが、ソロの演奏の見せ場があったのはベースのフェリペのみで、あとの3人は名前を呼ばれて登場したはいいものの、ひとしきりラファエルとコミュニケーションをとったあと速攻ではけていきました。
これだったら最初から全員ステージに立って手短に紹介した方が良かったような気も...。
ラストは「Rebirth」からの超名曲「Carry On」「Nova Era」のメドレー。やはり「Carry On」のイントロが鳴り響いた瞬間が最もオーディエンスの反応が大きく、いかにこの曲が高い人気を誇っているかを思い知らされる。
ただ個人的にはアンドレ・マトスの歌声がやや苦手なこともあって、「Nova Era」や「Spread Your Fire」の方が好きですけどね(笑)
しかしこのラスト2曲においても原曲の音程は全然キープできておらず、ファビオの歌唱もメロディーを追えていないため、何だかとっても微妙なことに...。曲の良さで高揚するんだけれども違和感バリバリで心の底から楽しめない...。
そして何よりも最新作『Ømni』の発表におけるツアーであるにも関わらず、その『Ømni』のオープニングであり、個人的2018年のメロパワアンセムである「Light Of Transcendence」をやってくれなかったことが最大の不満点です。
何故やらないんじゃ!!別の日にはしっかりやってるっていうのに!!あの曲を一番聴きたかったんだぞ俺は!!
いくら「Running Alone」が聴けたとはいえ...(泣)
最も聴きたかったキラーチューンの不在および、代表曲の高揚感不足のため、必ずしも大満足とは言い難いライヴにはなってしまいましたが、それでも彼らの並みのパワーメタルとは一線を画する、アーティスティックな世界観とプロフェッショナルなパフォーマンスは十二分に堪能することができました。
コレが聴きたかったんだけどなあ~...