ひとりごと ~Music & Life-Style~

HR/HMを中心としたCD感想、足を運んだライヴの感想をメインにひとりごとをブツブツつぶやくブログです。

摩天楼オペラ 『Human Dignity』

摩天楼オペラ 『Human Dignity』

これまでサポートで音源・ライヴにおいてドラムを担当していた響さんが正式加入、久方ぶりに5人編成での新作となった8thフルアルバム。前作フル『PANTHEON -Part 2-』から1年半、さらに間にシングルを1枚挟んでいるという、相変わらずのコンスタントな発表が頼もしい限り。

 

従来の彼らの作品は「現代的なものと伝統美の融合」というコンセプトに則り、シンフォニックメタル、メロディックスピードメタルの要素を多分に含みつつも、モダンなJ-ROCK/J-POPとしての側面も持ち合わせており、完全にメタルと言い切れる音楽性ではなかったわけですが、本作はそれに輪をかけてヘヴィメタルっぽさは希薄。

 

インタビューにて「凝ったことはせずシンプルに作った」みたいなことを言っていましたが、その言葉通りの作風。過去作の『喝采と激情のグロリア』『地球』にあった大仰なアレンジや劇的な展開を削ぎ落とし、できる限りシェイプアップしたようなシンプルな楽曲が並んでいます。もはやシンフォニックメタルという呼び名が相応しいとは思えないレベル。

 

サウンドの核ともいえるギターとキーボートのプレイもそれほど派手に舞うことなく手堅くまとまっており、正直言うと最初聴いたときの印象はあまり良いものではありませんでしたね。「なんかずいぶんこざっぱりしちゃったなあ。もうちょっと仰々しく盛り立ててくれないもんかね」と。

 

しかし何度か聴いていくうちに、そのしなやかで美しい歌メロが徐々に心に染み入ってくる。彼らは元々苑さんの透き通る歌声を活かした歌モノロックを得意としてきたバンドでもあるため、こういったシンプルなサウンドでもしっかりと聴かせてくれる。

 

M1「Human Dignity」は最初の印象こそ「オープニングにしてはフツーな曲」といった感じでしたが、サビやラストにかける歌メロがなかなかにドラマチックだし、続くM2「Dead by Daybreak」は特にストレートな疾走感と即効性に溢れる曲。

 

ポップで爽やかなものからシリアスで不穏なもの、哀愁を効かせたものまで、どのメロディーにも聴きやすさ満点のキャッチーさを保有しており、苑さんのクリアなヴォーカルワークと合わせて耳にすんなりと入り込みやすく、かつ味わい深い。たとえアレンジがシンプルになっても、普遍的な魅力を持つロックとして楽しめるのが美点です。

 

また本作は後半に良質な楽曲が並んでおり、集中力が途切れず飽きが来にくいのも良いです。美麗なピアノと幻想的なムードが魅力的なM8「actor」、スローな出だしから途中の不穏な疾走、コーラスを交えたクライマックスまでドラマチックに展開するインストのM9「Cee」、アコギとヴォーカルのみで構成される哀愁のバラードM10「見知らぬ背中」と、この時点でフックある良曲が並びますが、特にラスト2曲が強力。

 

サックスの音色が絶妙にマッチした、タイトル通り冷たい雪景色を思わせるM11「SNOW」、本作中随一の壮大なメロディーが味わえる、現在の摩天楼オペラの王道と言えるM12「The WORLD」という名曲2連発が個人的ハイライト。どちらもサビのメロディーが素晴らしいのですが、特に後者はアルバムを締めくくるに相応しい劇的な幕切れを演出してくれます。

 

シンフォニックな大作や、熱くヒロイックなメロスピチューンが無いことに対して物足りなさはあるものの、耳に良くなじむ豊かな歌メロの出来は確かなものがあります。メタルを期待するとだいぶ肩透かしを喰らうかもですが、彼らのキャッチーな側面を気に入っている人にとっては良作と呼べる作品のはずです。

 

M1「Human Dignity」 MV / 本作のトレーラー