台湾の国民的パンクロックバンド・Fire EX.とのコラボレーションによる新曲と、これまでのキャリアにおいて発表してきた楽曲のうち16曲を収録したBRAHMAN初の台湾盤。Fire EX.が運営するFIRE ON MUSICからのリリースとなります。
過去の楽曲からセレクトされた曲たちに加えて、新曲が1曲収録されているという点から、よくある「新曲を含んだベスト盤」の役目を果たすアルバムかと思いましたが、曲目を見てみると決してそういうわけではなさそう。
既存曲16曲のうち、ミニアルバム『grope our way』から1曲、1st『A MAN OF THE WORLD』から2曲、2nd『A FORLORN HOPE』から2曲、3rd『THE MIDDLE WAY』から2曲、4th『ANTINOMY』から1曲、5th『超克』から3曲、6th『梵唄 -bonbai-』から5曲という選曲(インディーズ期の楽曲はリレコーディング作である『ETERNAL RECURRENCE』の音ですが)。
すなわち収録曲のうち半分が直近二作の曲で、そのバランスには大きな偏りがある。この内容を「ベスト」と呼ぶ人は恐らく誰もいないでしょう。20年以上のキャリアを持つバンドの歴史をCD1枚のみで構成するというのがムチャですし、そもそも2015年に2枚組ベストの『尽未来際』が出ていますからね。
そして曲順を見てみると、「The only way」「賽の河原」で幕を開け、序盤に「BASIS」「SEE OFF」を叩きつけ、「ANSWER FOR…」「警醒」でTOSHI-LOWさんが客席へ飛び込み、そのまま「鼎の問」「PLACEBO」をオーディエンスに支えられながら歌った後、ラストに「真善美」...。まさに現在の彼らのライヴのセットリストを再現するかのような流れ。
このことから本作の狙いは"過去に発表した楽曲を包括する"のではなく"現在のバンドの姿を伝える"ことなのだろうと思われます。
もちろんライヴ盤ではなく、あくまで収録済みの音を集めただけにすぎないので、本作を通してBRAHMANのライヴのダイナミズムを感じ取れるかというとちょっと厳しいところはあるのですが、彼らのライヴの流れを簡易的にでも味わうことはできますし、オリジナルの音源と違う順番で聴くことで、曲の表情が異なって聴こえてくる楽しみもあります。
個人的にはやはりM10「A WHITE DEEP MORNING」~M11「ARRIVAL TIME」という激情の名曲二連発が一番グッとくる瞬間。特にM10の"零れては落ちた~"からの大サビはいつ何度聴いても感動と鳥肌を覚えてしまいます。
『梵唄 -bonbai-』ではオープニングナンバーであったM17「真善美」は、ラストに来ることでオリジナル盤とはまったく印象が異なって聴こえますね。武道館で聴いたときのように、これからの未来のシーンに向けたバンドの意思、情念のようなものを感じます。前のM16「今夜」が終わって余韻に至っているときに、クリーントーンのイントロが流れ出すことでハッとさせられる。
とまあここまでは彼らが今まで残してきた名曲について書いてきましたが、なんといっても本作の神髄はFire EX.とコラボレーションしたタイトルトラックのM1「兼愛非攻」でしょう。
とにかくカッコいい。BRAHMANらしい民族音楽直系のオリエンタルな叙情性、ハードコアパンクとしての破壊的なアグレッション、そしてシンガロングを交えつつ力強く進行するサビ......どこをどう切ってもBRAHMANというバンドが持つ熱量が100%伝わってくる。
そして極めつけは二度目のサビが終わったあとに来るFire EX.のSamによる台湾語のソロヴォーカルに、そこから流れるドラマチック極まりないリードギターパート。
コラボレーションなんて言いましたが、そんな生易しい言葉では表現できないほど互いの魂を燃やし、これでもかと信念をぶつけ合って、そしてたどり着くこのクライマックス。そのままラストの疾走するサビに至った時には、完全に感情が沸点まで達してしまうのです。
初めてこの曲を聴いたのは会社帰りの電車の中でYouTubeで公開されたばかりのMVを見たときなのですが、スマホの小さな画面と安いイヤホン越しからでも伝わるその激情に、胸の奥からあふれ出る熱気を抑えられず、「うおおおおおおおおおお!!!おおおおおおおおおお!!!」と叫びたくなってしまうほどでした(さすがに公共の場なので控えましたが/笑)
必ずしも入門者向けのベスト盤という選曲ではないため、あくまでファン向けのアイテムの域を出ないのかもしれません。ですが2019年現在のBRAHMANというバンドの姿を描き切り、最高の新曲まで収録された本作は、過去作を持っている人でもぜひ手に取ってほしい。そしてBRAHMANというバンドの魅力を改めて隅々まで感じて欲しい。
少なくとも過去のアルバム全てを何度も聴いてきた僕は、本作を通して「BRAHMANを好きで良かった」と感じ直すことができました。
M1「兼愛非攻」 MV