前作『Reaching Into Infinity』より2年ぶりとなる本作が世に出ようとするまさにその時、長年バンドのベーシストとして活躍していたフレデリク・ルクレールが、ドイツのスラッシュメタルバンド・KREATORに加入するため、バンドを脱退するという大事件が勃発しました。
ライヴ中にはデスメタル、ブラックメタルのタンクを着ていたり、SINSAENUMを組んで来日公演を行ったりと、彼のエクストリームメタルフリークっぷりは以前からうかがい知れていましたが、確かにそんな人にとってドイツの国民的スラッシュメタルバンドからの加入要請は断るわけにはいかないでしょう。そしてこのダサいジャケットに納得いかないのも当然でしょう(笑)
しかし長年連れ添ったメンバーの脱退というのは寂しいものですが、近作はフレデリクが曲作りにも深く関わり、DragonForceにエクストリームな自分のカラーを出そうとしていたらしく、その結果前作のようなイマイチメロディーが冴えわたらない作品が出来上がっていたとするなら、フレデリクはこれから自分の好きなタイプの曲を存分にプレイでき、DragonForce側は彼らに期待されるメロディックな楽曲を制作しやすくなるであろう今回の転身劇は、収まるところに収まったという感じなのかもしれません。
ちなみにいつの間にやらキーボーディストのヴァディム・プルジャーノフまでバンドを去ってしまっており、本作のキーボードパートはEPICAのコーエン・ヤンセンが担当しています。
そんな人事の面で話題の尽きない本作ですが、他のバンドにはない超特徴的な音楽性を武器にしていただけに、もちろん大きな路線変更などはない。ハーマン・リとサム・トットマンによるクレイジーなギターソロのコンビネーションと強烈な疾走感、明るくキャッチーな歌メロを組み合わせた、まさに"エクストリーム・パワー・メタル"な内容。
ジャケットから想起されるようなSF映画のBGMやゲームミュージックからもインスパイヤされたらしく、所々にそういった無機質で近代的なアレンジが飛び出すのですが、それでもあまり冷ややかな印象を受けないのは、やはりマーク・ハドソンによるハイトーンヴォーカルととっつきやすいメロディーのおかげですかね。
初期のようなヤンチャでバカっぽい雰囲気というか、やりすぎなまでのハチャメチャ感は薄く、マーク加入後から顕著なシリアスさは本作でも健在で、(あくまで昔の彼らと比べると)少しおとなしくなってきているのは賛否別れるところかもしれません。
僕もそんな彼らの楽曲にちょっと思うところはあるものの、昔のようなバラード除いて全部6~8分くらいの爆走ピロピロメロスピというスタイルは聴き疲れがハンパじゃなく(笑)、現在はスロー~アップテンポナンバーを程よく混ぜ込むことでだいぶ聴きやすくなったということでトントン、といったところかな。
それに先にも述べた通り、ギターがピロピロギュワンギュワン・ドラムがドコドコドバタバタバタのスピード狂っぷりはブレてないので、持ち味が無くなってしまった訳では決してないですから。特にM6「Razorblade Meltdown」、M8「In A Skyforged Dream」のギターソロなんてかなりカッコいい!
M10「My Heart Will Go On」は言わずと知れたセリーヌ・ディオンの超名曲のカバー。彼ららしいピロピロ爆走チューンに様変わりしており、まあある種のブチ壊しカバーなんでしょうが、原曲のメロディーが良すぎるからか、DragonForceらしいメロディックスピードメタルとして違和感のない仕上がりになっています。
全体を通して前作よりメロディーのキャッチーさ、わかりやすさが戻ってきており、際立ったキラーチューンこそないものの(しいて言えばM6)従来からのファンであれば充分楽しめる良作です。
M1「Highway To Oblivion」 MV
M4「Heart Demolition」 MV