- ホラー映画モチーフの演劇的な魅力がたっぷり
- 爆走パートにおける尋常じゃないテンションの高さ
- 恐ろしさとカッコよさを両立した見事なアレンジ
アメリカはマサチューセッツ州出身のメタルコア/ポストハードコアバンドの、2018年に発表した現時点での最新作。
以前より「映画音楽のような劇的さを持つメタルコア」という評判を聞いており、このタイミングになって初めてフルアルバムに手を出してみました。
活動初期はスカコアをプレイしていたらしいのですが(今の音楽性から考えるとちょっと信じられない...)、今はすっかりモダンでヘヴィなリフ、デスヴォイスとクリーンヴォイス共に非常に達者なヴォーカルが彩るメタルコアになっています。
メタルコアといっても、一般的なメロディックメタルコアと違って、音作りやヴォーカルの声質からポストハードコアの要素も多分に残っていますね。正統的なメタルに強くこだわる層はともかく、個人的にはこの手の音も好きなので楽しめます。
ただこういったモダンメタルコア/ポストハードコアバンドって、どうもメロディーのキャッチーさが不足しがちというか、メロウさはあってもメロディックメタルのような哀愁が足りない、単にテクニカルでヘヴィなだけという印象が強いのも事実。しかしこのバンドの音はそういったバンド群とは一線を画する。
モダンメタルコアの音に彼らはシアトリカル要素を大胆にブチ込み、時にはシンフォニックなサウンド、コーラスも取り入れ、非常に劇的な楽曲を生み出しているのが特徴。演奏のパワーやヴォーカルの上手さ、表現力も一流で、没個性に陥りがちなこのジャンルにおいて異例とも言える個性を演出することに成功しています。
また先程「映画音楽のような」という記述がありましたが、本作の楽曲は実際の有名映画をモチーフにして作られたのだとか。どの映画も誰しもが名前を知っているような有名作ばかりですが......恥ずかしながら、僕ほとんど見たことないや(爆)
いや『ソウ』とか『シャイニング』とか『シザーハンズ』とか見よう見ようとは思っていたんですよ？でも機会を逃しているうちにズルズルと時間が経ってしまって......。今度U-NEXTあたりで色々と見てみよう。
基となった映画がホラー映画(『13日の金曜日』とか『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』とか『悪魔のいけにえ』とかやたらおっかなそうなヤツばっか)であるためか、シンフォニックな装飾も、シンフォニックメタル的に楽曲を豪華に彩るというよりは、恐怖感を演出するような使われ方をしています。これにより恐ろしくもカッコいいという、バンドの個性を形作る音を生み出すことに成功している。
スクリーモらしいハイテンション絶叫からドスの効いた低音デスヴォイスで疾走する曲、過剰なシアトリカル要素を抑えた比較的ノーマルなポストハードコア、クリーンヴォイスの説得力の高さを活かしたミドル曲にバラードと、アルバム一枚で飽きさせない配分がされつつ、そのどれもが高い完成度を誇っています。捨て曲は無し。
特に本作の路線をわかりやすく象徴する冒頭のM1「The American Nightmare」、M2「Thank God It's Friday」の二連発、ブチ切れた絶叫と共に爆走しまくり、恐怖感を煽るコーラスと共にブレイクダウン、唐突なクリスマスソングから急に切り込むギターソロと聴きどころ満載なM11「Merry Axe-Mas」、ミュージカルチックな語りのイントロから管楽器とシャウトが交錯し爆走、そのままの勢いで突っ走るサビがあまりにもドラマチックなM13「IT Is The End」(名曲！)が特に気に入りました。
「モダンなポストハードコア路線直系のメタルコアなんて、どうせ形骸化したDjentとか似たようなバンドばかりでしょ？」と思っている人ほど、目からウロコなシアトリカル・メタルコアの名曲が詰まった驚きの一枚でした。メタルにドラマ性を求めてるなら買いです。
個人的に本作は
"映画音楽のような劇的なメロディーとアレンジを違和感なく溶け込ませた、ドラマチックなモダンメタルコア"
という感じです。
Ice Nine Kills - The American Nightmare (Official Music Video)
Ice Nine Kills - Thank God It's Friday (Official Music Video)
