- ハードコアシーンきっての天才が生み出した楽曲群
- メロディックメタルに通じる泣きまくりのテクニカルギター
- 男らしさ全開のカッコ良すぎるヴォーカル
前回ジャパニーズ・ハードコアの重鎮であるGAUZEのアルバムについて書きましたが、その流れに乗って本作のことも取り上げてみます。
show-hitorigoto.hatenablog.com
ジャパニーズ・ハードコアシーンの伝説的存在であるDEATH SIDEにも在籍し、2007年に熱中症でこの世を去ったギタリスト・CHELSEAさん率いるハードコアバンドの2009年発表のフルアルバム。彼の死後、二年も経ったタイミングで発表された理由は不明。知っている方がいましたら教えて下さい。
このCHELSEAさんという人、彼について書かれたコラムなどを読むと、どうやら相当ヘンテコリンな人間だったようですが(笑)、彼のソングライティングの才覚、そしてギターが生み出すサウンドは、単なる疾風怒濤のハードコアのそれとは一線を画する凄まじいものがあるのです。
パンクだけでなくメタルにも精通していたらしい彼の紡ぐ音は、単に技術的に優れているというだけではない。メロディックな泣きの旋律を得意とするメタル・ギタリストの如く、美しいリードで泣きメロを奏で、さらにはテクニカルな速弾きソロをバリバリ弾きこなす。
M1「Fly on the ship〜Cry of the sheep」から、泣きに泣いた美麗なリードが登場し、とてもジャパニーズハードコアに属するバンドのアルバムとは思えないオープニング。
もちろんハードコアらしいノイジーな歪みを効かせた荒々しいリフもバンバン登場。M3「ヤマアラシ」のアグレッシヴなリフは最高にカッコよく、中盤のギターソロはメタルのテクとパンクの荒さをかけ合わせ凄まじくスリリング。M5「雪解け」のポジティヴな中にも強烈に泣きを帯びたリードギターにはたまらない物があるし、M13「脳天バップ」もキメの多いリフに、さらに勢いを増したギターソロが熱すぎる!M16「出発 -Travelling-」のリードなんかIRON MAIDENみたいだ(笑)
このハードコアらしいテンションMAXの熱さと、ハードコアとはとても思えないほどの泣きとテクニックを合わせたギターが、ほぼ全曲に渡って暴れまわる。これだけでもインパクト絶大なのですが、本作はそれだけでなく曲自体の出来、作り込みにも驚かされます。
ハードコアパンクっていう音楽は、多少の幅はあれど、基本的にはメッセージ性の強い日本語歌詞を無愛想なヴォーカルが叫び、汚なめなサウンドで疾走するというものだと思います。本作も音楽の基本線は紛うことなきハードコアパンクなんですが......
前述のメタルに通じるギターはもちろん、明るい管楽器の音色を大胆にブチ込み、さらに歌自体にもメロディーを持たせることにより、衝動性一発に陥らない音楽的な聴きどころを持たせているのが最大のポイント。
歌メロはキャッチーながら容赦なく爆走するハードコアチューンから、ロックンロール寄りの聴きやすさを重視したミドル曲、やけに耳に残る怪しげなコーラスを取り入れた曲、どこか穏やかな哀愁を放つパワーバラードに、挙句の果てにスナックで流れているようなムーディーな女性ボーカル曲や盆踊りまで!直情的なハードコアバンドでありながら、この音楽的な引き出しの多さは一体何事なのでしょうか...
ここまで雑多な要素を詰め込んでもハードコアとしてのスタンスは(一部を除いて)全く崩れない。これはCHELSEAさんの非凡なソングライティングのセンスはもちろん、あまりにも熱くカッコ良すぎるヴォーカルによるところが大きいのかも。こんな声で叫んでみてえ。
ジャパニーズハードコアとしての怒涛の音圧を持ちながら、強烈なエモーションを放つギター、凄まじい攻撃力で押しまくるヴォーカル、管楽器を取り入れた楽曲のアレンジや練り込みなど、独自極まるドラマチックさにただただ驚かされる一枚です。もし今もCHELSEAさんが存命でハードコアシーンに残っていたら、どんなサウンドを量産していったのかな...
個人的に本作は
"メロディー、アレンジ、演奏、ヴォーカル、全てが高次元のドラマチック・ジャパニーズ・ハードコア"
という感じです。