- パンクとヒップホップというレベルミュージックがやれる事
- 両極端の強烈なメッセージ
- 2020年の今だからこそ聴くべき
2017年にシングル『不倶戴天』収録曲の「ラストダンス」で共演を果たしたBRAHMANとTHA BLUE HERBのILL-BOSSTINOさんが、コロナウイルス騒動の中再び相まみえた両A面シングル。
ハードコアパンクとヒップホップという反体制のレベルミュージックを標榜する二者が、世の中が混沌とする中で新たに書き上げた新曲。当然ながら楽曲に込められた痛烈なメッセージ性の強さは、これまでのどの楽曲よりも際立っている(歌詞がストレートだから伝わりやすいだけというのもあるかもしれませんが)
M1「CLUSTER BLASTER」は、2020年という今この時代だからこそ生まれた怒りがBOSSさんのラップによって力強く、真っ直ぐにズンズンと聴き手の心にのし上がってくる。
ここは合衆国保護領 ようこそ 地獄行き決定だぜ お前等 税金泥棒
それなりにやっているフリだけ装う 同時に悪っぷりも隠さねえのにも驚く
前半は上記のような現政治家たちへの怒りをストレートにブチ撒けるリリックが続く。ただこの楽曲がこういった怒りを発散するだけのヘイトソングかというと、それも違う。
TOSHI-LOWさんのヴォーカルが入ってきた段階で、単なる怒りの叫びから、今の世の中を生きる人間たちへの警醒へのメッセージが色濃くなっていきます。
優しさとは 目を閉じる事ではなく 目を見開く事とも知らずに
誰のための人生の物語が続いていくんだよ
あんたがやれよ じゃねえと始まんねえよ よその誰彼を アテにするのはやめろ
ここは独りで生まれ独りで死ぬまでの ステージじゃねえの? 自分を踊らせろ
ここで向き合っとかなきゃ そろそろ話になんねえよ でしょ?
あんたが主役のシナリオなんだぜ ONCE AGAIN
これはあんたが主役のシナリオなんだぜ 2020
こんな世の中になって「まだ他人事でいる気なのか」「まだ行動しないで生きていくのか」と、現実から目をそらす人間の心に突き刺さるメッセージの数々。賛成/反対の立場の違いはあれど、このメッセージに何かを感じ取らないわけにはいきませんね。
しかしそんな痛烈なM1に反して、至極和やかなムードで繰り広げられるのがM2「BACK TO LIFE」。
"日常へ戻ろう"というタイトルを冠している通り、仲間たちとのいつもの飲み歩く日々を淡々と描き出すリリックが特徴で、M1の殺気立った雰囲気からは一変している。BRAHMANの楽曲には穏やかな叙情性を放つ楽曲はいっぱいありますが、ここまで庶民的な癒やしを描く楽曲は初めてではないでしょうか。
これ前確か美味かったよね 色々頼み わいわい賑やか楽しい
食ってくために働いて 更に食わせてくってなったらより大変
すっかり腹一杯になったね 久々こんな笑ったぜ
ほんといつ以来なんだっけ? やっぱこの店来た甲斐あったね
M1はBOSSさんのラップとTOSHI-LOWさんの叫びが中心で、歌メロらしいものは皆無と言えるほど(しいて言えばバックのコーラスくらい)だったのですが、この曲においては明確にサビと呼べるメロディーが存在する。「Fibs in the hand」あたりにも通じる緩やかで優しい歌声に聴き惚れてしまう。
しかしそんな日常的な幸せを語る楽曲でも最後には
続いていく予感しかなかった 決まりはない 始まりなんて今しがた
後の事はやってみないと分かりゃしない やってみるだけタダだしさ
やる気あるかい皆様 行く気あるかい皆々様
少し挑戦的なリリックを含めているあたりに、これからの世界に対してアクションを起こしていく決意みたいなものを感じさせるあたりが、レベルミュージックらしいところです。
「ハードコアと民族音楽の融合」というのが基本線のBRAHMANとしては、本作に収録されている二曲は、決してBRAHMANらしい楽曲とは呼べないでしょう。このバンドに民族音楽からの影響が濃い哀愁のメロディーと、ハードコアパンクとしての激情を期待している僕としても、本作は音楽的な満足度が高いとは言いません。
しかし本作はそんな音楽としてどうこうという言及は必要ないかもしれません。音に込められた言葉にどれだけ感銘を受けるか、それだけだと思います(いや、バックのサウンドは文句なしにカッコいいですが)
「シングル曲はどうせアルバムに収録されるだろうから、それを聴けばいいや」という楽曲ではありません。2020年の今聴くからこそ意味がある。
個人的に本作は
"未来への警醒と、あるべき日常の大切さを2020年を生きるすべての人間へ伝えるための言葉"
という感じです。
BRAHMAN feat. ILL-BOSSTINO (THA BLUE HERB)「CLUSTER BLASTER 」MV