個人的には「細長い」という以外にあまり意識したことがない、南米チリから新たに出現したメロディックメタル界の超新星。
結成は2018年、本作以前に二枚のシングルをリリースしたのみという非常に若いキャリアにも関わらず、フロンティアレコードからいきなりのデビュー。日本のメタル系レーベルのTwitterアカウントでも大々的に宣伝が行われていた印象です。
ただこのバンド自体はかなり新しいものの、個々のメンバーについては南米のメタルシーンである程度アルバムリリースの経歴もあるようです。まあそうでなきゃいきなりこうも注目される形でデビューすることは厳しいでしょうしね。
そんな彼らの1stフルアルバムですが、これがまた華々しい(あくまで狭いメロディックメタルのシーンにおいて)デビューを飾れるのももっともだ、と言いたくなるほどのハイクオリティーっぷりに驚かされました。南米のメタルシーンなんて、ANGRAとHIBRIAくらいのバンドしか知らん僕ですが、まだまだこんな逸材がいるのかと唸らされますね。
あまり疾走感を押し出さず、モダンなヘヴィさ(モダンヘヴィネスにあらず)を貪欲に取り入れたリフで突き進み、そこに熱く歌い上げるヴォーカルが乗る。スタイルとしてはDYNAZTYにかなり近い感じでしょうか。
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DYNAZTYの場合、ニルス・モーリンという絶唱ヴォーカルが大きな武器となっていますが、彼らSinner's Bloodのヴォーカルのハメス・ロブレードもかなり強力。ヒロイックな熱量こそニルスには劣るものの、南米人らしい(?)濃く、適度に暑苦しい歌いまわしは、単純な歌唱力の高さもあって、楽曲を一段とパワフルなものにビルドアップしています。
演奏陣はさほど難しいことや派手なプレイはせず、比較的堅実な演奏に徹しているような感じですが、決して地味な印象はない。ギターは重厚な音作りでパワーを感じさせるし、前に出過ぎない範囲で、実に効果的にメロディアスな味付けを施すキーボードの使い方も絶妙。骨子となるサウンドが高いクオリティーで安定しているため、楽曲の満足度も必然的に増加します。
そしてなんと言っても歌メロのキャッチーさ!これがかなりの高ポイント。
ほぼすべての曲に渡ってメロディアスな音楽として普遍的な魅力を持つ(つまりクドいほどのクサさは無い)歌メロが息づいています。非常にわかりやすく、かつメタルとしてクールなメロディーの数々は、キャッチー&パワフルなヘヴィメタルを好む僕のツボにガンガン響きます。
特にM2「Phoenix Rise」のサビなんか戦闘系アニメのバックで流れてても違和感がないのではと思うほどに熱いし、M5「The Path Of Fear」は軽快な疾走感、メロディアスなツインリードと相まってガッツポーズもののカッコよさ!わかりやすいキラーチューンをしっかりと生み出せているのも頼もしい限り。
これほど耳に馴染みやすく、かつ誰が聴いてもカッコいいと思えるメロディーを量産できるギタリストのナッソンのセンスは驚異的です。願わくば今後のアルバムでこのセンスが枯れないことを祈るばかり。
欠点としては、全体的にコンパクトな歌重視路線で、メロディーが非常にわかりやすいがゆえに、アルバム後半に至ると若干飽きがきやすいこと(後半の曲がつまらないという訳では決して無い) これはキャッチーさを売りとするバンドとしてはなかなか難しいところかもしれません。次回作以降はアルバム終盤においても、集中力を減退させない曲作りを期待したいところ。
あとバラードのM6「Forever」、ヘヴィ寄りのM9「Who I Am」というスローチューンが比較的メロディーのフックが弱いのもちょっと気になりました。歌メロのセンスに秀でているので、こういった曲にもそのセンスを注入して、メインコンテンツまでの伸し上げてほしかったですね。
上記した小さい不満点も、彼らのこれからの期待値が高いからこそ。メロディックメタルバンドとしてのポテンシャルは非常に高いと思われるので、これからの名曲・名盤と日本での人気向上に期待をかけていきたいです。新たなメタルシーンの有望株ですね!
個人的に本作は
"安定感抜群の演奏と、非常に豊かなキャッチーさを持つ歌を併せ持つ、モダン・メロディックメタルの新星"
という感じです。
Sinner's Blood - "The Mirror" - Official Music Video