新型コロナウイルスの流行以降、どうしても足が遠のいていってしまった規模の小さいライヴハウスにようやく行くことができました。
日本が誇るメタルコアバンド・HER NAME IN BLOODが、ゲストアクトとして超実力派デスメタルバンド・WORLD END MANをゲストに迎えての強力ツーマン。ライヴの日程が発表されてすぐにイープラスでチケットを取っていました。
しかしコロナの影響で2度も日程の延期。結局本来やる予定だった日から1年も待つハメになってしまったライヴ。いろいろと調整も難しかったでしょうに、よくぞここまで引っ張ってくれたものです。
そんなわけで3度目の正直となった本公演、以前もHER NAME IN BLOODを観た渋谷のclubasiaへ。例によってアルコールは提供できないため、ドリンク券をオレンジジュースに引き換えて掻っ込み、フロアの方へと足を運ぶ。入場者数を絞っているため当然満員になることはありませんが、開演直前にもなるとそこそこの入りだったように思います。
WORLD END MAN
リリースした音源こそ少ないものの、既に海外でのライヴ活動の実績を豊富に積んでいる真正のデスメタルバンド。そして元HER NAME IN BLOODのドラマーであるUmeboさんが在籍していることでも知られています(むしろ僕はUmeboさんがハーネーム抜けてから、またバンドやりはじめたという点からこのバンドを知りました)
Ikepyさんにも負けないような屈強な肉体を持つ大男たちがSEも無くステージに上がり(特に上手側のNaotoさんの上腕筋がハンパない)、ズンズンとしたヘヴィなブルータルリフを繰り出していく。
そしてしばらく重たいリフで焦らしてから、ヴォーカルのKiyoさんがセンターへ登場。インタビューの画像などから、大変失礼ながら"陰"の雰囲気を漂わせている人だと感じていたのですが、髪をバッサリ切ったことが影響して、かなりサッパリしたルックスになってたのがちょっと意外。「好青年」なんていうデスメタルとはほぼ無縁の言葉すら想起したほどです。
しかしライヴが始まると一変。両手でマイクをガッチリと握りしめ、ステージ上をゆらゆらと蠢くように回りながら、極悪のグロウルを連発。ステージからの距離が近かったのもあって、凄まじい音圧に打ちのめされましたね。ハードコア成分のない、純然たるデスヴォイスでここまでの破壊力を感じ取れるのはなかなかない経験でした。
そんな凶悪ヴォーカルが目立つ中、バックの演奏はテクデスのようなピロピロしたスイープなどは皆無で、ギターソロらしいソロもまったくない。楽器陣が「ここが見せ場だ!」と言わんばかりに前へと出てくるといったこともなく、あくまでヴォーカル主体のライヴパフォーマンス。
しかし勢いよくプレイすれば突進力である程度ごまかせるわけではない、デスメタルという確かなテクを持っていなければできないジャンルを標榜し、海外でも揉まれてきたバンド。もちろんソロが無いからといってバンドサウンドに物足りなさは全くない。恐ろしく速いピッキングでヘヴィリフを刻み、ハードコアばりのシャウトコーラスで攻撃性を高め、少ないドラムセットながら高速のビートを叩きだす。ライヴのクオリティーの高さという点ならハーネームを凌駕していたのではないかと思います。
ただ途中でUmaboさんがセットリストの曲順を思いっきり間違えるというハプニングが発生。しばし演奏が停止し、リハーサルのようにみんながドラム周りに集まって音を確認していくという時間が挟まれる。「スタジオでやれ!」とヤジが飛ぶなど、極悪な時間の中で唯一のホッコリタイムになっていました。
「こいつ(Umeboさん)ハーネームにいたときもやったんですよ。みんなでLamb of God合わせようってスタジオ入ったのに、全然練習してなくてタジ君とケンカになったって」と裏エピソードも暴露されたりする中、調子を取り戻してすぐさまデスメタルの世界へ。
正直メロディックデスではない、純正のデスメタルを聴くことはほとんど無いので、ライヴを100%楽しめるのかという懸念がちょっとあったんですが、これは予想以上に良い物を観られましたね。どうしても似たような曲調になりがちなのに加え、Kiyoさんの曲名コールもデスヴォイスのため聞き取るのが難しく、明確に分かったのは「Use my knife」くらいでしたが、難しいこと考えずにひたすらヘッドバンギングする良き時間でした。
HER NAME IN BLOOD
お次はお目当てであるHER NAME IN BLOOD。何気に僕がライヴを観た回数トップクラスなんじゃと思えるほど観てきているバンドですが、今回は間が開いたのもあり、さらに期待感は増している。
いつものロッキーの登場SEは無く、ツラツラとステージに上がって来て、おもむろに演奏を開始。相変わらずド迫力の屈強な肉体を前面に押し出したIkepyさんが真ん中に登場して、「BEAST MODE」~「LET IT DIE」という幕開け。
先ほどのWORLD END MANと比べると、全体的に音響がゴチャッとしていて、各楽器の音がちと聴き取りづらい。僕がかなり右端の方にいたからというのもあるのでしょうが、クリーンヴォイスによる歌唱はIkepyさんもMAKOTOさんも通りが良くなく、イマイチ音程が伝わらない。DAIKIさんのギターソロは埋もれながらもなんとか聴けましたが、TJさんのソロはタッピングがまるで聴こえず。ちょっと音響面で損をしてしまっていたかな。
ただやはりバンドのパフォーマンスはさすがと言える安定感で、「ZERO (FUCKED UP THE WORLD)」のシンガロングパートは、気圧されるほどのド迫力、「POWER」はバンドの持つ明朗な部分が強調され雄々しいことこの上ない。メタルコアらしいヘヴィリフでリードしつつ、サビは3拍子で非常にキャッチーになる「Calling」も堂々たる迫力で迫ってくる。
先ほどのWORLD END MANが徹底的に残虐なデスメタルで、アンダーグラウンドな雰囲気を醸し出してたのに対し、やはりハーネームはどれだけグロウルに破壊力があっても、どこか健康的ともいえるムードがありますね。
MCでは今回共演したWORLD END MANのドラムのUmaboさんについて触れ、「時間が解決してくれるから。今日こうやって一緒にやれて嬉しいです!」とかつてのバンドメンバーとの対バンに思いを馳せる。あの不祥事が発生したときはHER NAME IN BLOOD・GYZE・NOCTURNAL BLOODLUSTという超強力3マンライヴがキャンセルとなってしまい激しくガッカリしたものですが、シチュエーションは違えどまたこうやって彼らの勇姿を観られて僕も嬉しい。
そして「俺らの昔の曲を聴きたいか!?」とIkepyさんが煽り出す。Umeboさんがいる中で昔の曲をやるということは「Unexpected Mention Effected Big Offer」か?あの極悪デスメタルナンバーを今のハーネームがやるのか?と期待しましたが、プレイされたのは「Invisible Wounds」。もちろんこれはこれでカッコいい曲ですが、ちょっと当てが外れた感じ。
ライヴ定番であるキラーチューンの「GASOLINES」では、ラストのリズミックなリフと共に会場を揺らす。これまではヘドバン&メロイックだった僕も、ここぞとばかりに思いっきりジャンプ!サビで「イェェェェェーーーー!!」と叫べないのは若干もどかしいですが、生で体を揺らしながらこの曲を爆音で浴びれるのは、やはりエクスタシー以外の何者でもないな!!
本編終了後のアンコールでは(これも声は出せないため手拍子のみでしたが)、またまた「昔の曲を聴きたいか!?」と訊ねてきたため今度こそ「Unexpected~」かなと思ったけれど、ライヴでもプレイされやすい「Decadence」。不規則なリズムで繰り出される不穏なリフ、途中で挟まれる不気味なベースソロと、彼らの楽曲の中でもかなりアンダーグラウンド寄りの楽曲で、WORLD END MANとのツーマンの締めくくりとしては相応しいでしょうか。
コロナの影響により延期に延期を重ね、集客数を搾り、さらに密集したモッシュピットは作れないという状況下でしたが......いやいや、これほど熱量の高いライヴになるとは思いませんでしたよ。モッシュができず声も出せずという制約こそあったものの、ステージから発せられるエナジーに打ちのめされまくり、非常に満足度の高いライヴになりましたね。
しいていえばHER NAME IN BLOODのときの音響に若干の難がありましたが、そんな小さな不満を吹き飛ばしてしまうほどのライヴパフォーマンスでした。小さく薄暗いライヴハウスで、バンドの生パフォーマンスを間近で観る。この久しく経験できなかった体験を、今一度させてくれたバンドマンに心から感謝を伝えたい。ライヴ後の耳鳴りも久しぶりだな!
そんな満足感と共にフロアを出ると、恰幅の良いお兄さんが、WORLD END MANのタンクを着た気合いの入ったお兄さんに「外タレのライヴによく行ってますよね?」と話しかけているのを発見。僕はいつもライヴは一人で観て、終演後は一目散に帰ってしまっているので、こういう「ライヴハウスの中での人との繋がり」みたいなものが皆無なんですよね...。友達作りたくてライヴに行ってる訳ではないのでいいんですけど、ちょっと寂しさを感じてしまったのも事実だったり......(笑)