- 90年代型メタルに憎悪のエネルギーを多量にプラス
- 超速ドラムにターンテーブル、パーカッションなど多彩で厚みある演奏
- 後の作品に通じるキャッチーさも少なからずあり
急逝したジョーイ・ジョーディソンの追悼として、久々に本作を聴き込みました。学生時代から聴いてきた音は、やはり1回聴き直すだけで当時の記憶が蘇ってきますね。とにかく衝撃的な音です。
90年代最後の年、アメリカはアイオワ州デモインから現れた9人という大所帯ヘヴィロックバンドの、記念すべき1stフルアルバム。
ヘヴィミュージックを好む人であれば誰でもその名前を知り、母国のチャートでNo.1を獲得、バンド名を関したフェスを世界各国で行うまでになったビッグバンド。これほどまでメジャーフィールドで活躍していますが、そんなバンドのデビュー作がこれほどまでに熾烈な音というのがまず凄い。これが世間一般に受け入れられたというのが凄い。
もう本作がリリースされて20年以上が経つわけですが、ここに込められた音の破壊力は今なお鮮烈なインパクトを持ってリスナーに襲いかかってくる。怒り狂った感情をダイレクトに演奏に込めて、どこまでも深い闇を纏ってくるヘヴィサウンドは一切古色を帯びない。
メンバー全員がグロテスクで恐ろしげなマスクを着用し、一般的なロックバンドの編成にプラスして、ドラム以外のパーカッションやサンプラー、DJまで含むという特殊部隊、地獄の底から響き渡るような極悪のデスヴォイスに、しかとメロディーを歌い上げるメロディアスな歌唱法、ラップのような高速ヴォーカルまで使い分ける非常に高い歌唱力、ポップで楽しげな音楽をプレイしようという意思がクソほども感じられない超弩級ヘヴィサウンド。何から何まで刺激的という言葉では足りない。
90年代のロックシーンは、僕はリアルタイムでは経験していませんが、80年代の享楽的サウンドが廃れ、ヘヴィで陰鬱、徹底してリアルな世界観を描いたバンドが大受けした時代。彼らもそんな90年代的ヘヴィネスを打ち出したバンドな訳ですが、そこへ溢れ出る怒りのエネルギーや、いかがわしいダークさを大幅増量、単にモダンなヘヴィさを押し出したバンドとは一線を画す個性を、1stの段階から提示することに成功しています。
なんと言ってもあまりに不気味なイントロから続く、彼らを代表するM2「(sic)」、コリィ・テイラーによる憎悪表現100%のシャウトが本領を発揮するM3「Eyeless」、後の名盤『Iowa』のキャッチーさに通じるメロディアスさが表出され、聴きやすさすら感じさせるM4「Wait And Bleed」という名曲が連打されるオープニングの勢いが凄まじい。この4曲目までの流れでこのアルバムの本質が剥き出しになると言ってもいいでしょう。
人間業とは思えぬジョーイの高速ドラム回しに度肝を抜かれ、その興奮冷めやらぬまま濁流のように押し寄せるエクストリームサウンドで、リスナーの興奮の沸点を軽々超えていく。
ドラム缶をぶっ叩いているかのようなカンカンした殴打音、要所で取り入れられるターンテーブルのスクラッチ音、本当に気が狂っているのではないかと思わせる叫び、アグレッシヴ極まりないものの、どこかキャッチーに響いてしまうコーラスなど、「オモクソヘヴィで激しい」というサウンドに加えて、「音楽的に面白い・個性的」という面をうまく織り交ぜたことこそが、本作を、ひいてはSlipknotというバンドそのものをヘヴィロックバンドの一部ではなく、メタルシーンのトップにまで到達させることができた要因なんだなと。
ただ多少のキャッチーさはあるとはいえ、これ以降のSlipknotのアルバムと比べると徹底してダーク&過激路線であることは疑いようがなく、この熾烈な楽曲を50分以上立て続けに聴くのは、さほどエクストリーム感性の高くない僕にはちょっと聴き疲れが(笑) 最後の楽曲であるM14「Scissors / Eeyore」は途中の無音時間含めて19分以上になっており、前者は8分にわたってドロドログチャグチャした暗黒音を垂れ流す楽曲なだけに、せめてトラック分けして聴きやすくしてほしかった。
今のエクストリームメタルに慣れた耳でも強烈に残る極悪メタル。こんな轟音の中でもしっかりと存在感を主張するアグレッシヴ極まりないドラミングは見事という他ないな...。つくづく惜しい人を亡くしたと思わされるものです。
個人的に本作は
"キャッチーさを最低限まで抑えて極悪にヘヴィ、9人の演奏により個性をも肉付けした衝撃サウンド"
という感じです。