- 希望の見えない美醜の旋律
- 疾走曲によるリフの慟哭は相変わらず最高峰
- デスラッシュに収まらない要素をどう捉えるか
魂の慟哭リフを弾かせたら世界でもトップクラス、メロディック・デスラッシュの代表的存在であるAt The Gatesの最新作。前作『To Drink From The Night Itself』より、約3年ぶりとなるフルアルバムです。
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再結成を果たしてから3作目ということで、ここ直近2作は「これこそ慟哭のデスラッシュ!」と声を大にして叫べる、悲壮感に満ちた名盤でした。ひたすらに鬱屈とした嘆きが支配的な泣きのアルバムです。
もちろん本作においてもその方向性は一貫してブレることはなく、トーマス・リンドバーグのしわがれたデスヴォイスは、相変わらず泣きの表現力がピカイチだし、ヒリヒリした緊張感とともに刻まれるリフはまさにイエテボリサウンド、At The Gates節と呼べるもの。
静かなイントロから悲壮美満載のド迫力のギターで幕を開け、従来と何も変わらぬ慟哭リフでの疾走、あまりに哀しく美しいギターソロで琴線を掻きむしるM1「Spectre Of Extinction」、ミドルテンポでも泣きの旋律を失わないリフ、バックで繊細さを醸し出すアコギが絡み、静と動のコントラストも鮮やかなM2「The Paradox」、ずっしり重たい展開で、低音が効いたベースと胡散臭いクリーンギターで鬱々した空気を見事に表現するM3「The Nightmare Of Being」という出だしで、今までと変わらないAt The Gatesならではの美醜が堪能できる。
しかしその後からは、At The Gatesらしさはキープしつつも、ちょっと様子が違ってきます。M4「Garden Of Cyrus」は直前のM3と同様にスローで気だるく進む楽曲ですが、そこに大胆にもホーンセクションを導入。最初聴いた時は「At The Gatesがホーン!?」とちょっと面食らいました(もちろんパッパラパー♪な能天気さは微塵もなく、悲壮感を際立たせるメロディーラインを吹いている)
さらにM6「The Fall Into Time」はギターと同じくらいにストリングスも目立っていると言ってもいい大作。ストリングスを取り入れた大作は、前作にも「The Mirror Black」という名曲がありましたが、途中のベースとドラムのリズム隊がリードする静かなパートは新鮮。
M9「Cosmic Pessimism」もベースが主役を張り、つぶやくようなヴォーカルとともに浮遊感あるサウンドで引っ張っていくもの。ラストのM10「Eternal Winter Of Reason」もミドルチューンで、切れ味鋭いリフ以上にリードギターによる旋律が耳を引きやすい。そんなこんなでデスラッシュとは趣を異にする瞬間が多い。
正直彼らにはテンポの速い遅いの違いはあれども、叙情性満載の悲痛なリフでガシガシ進む冷徹なデスラッシュを求めていたので、今回のややトリッキーな作風は少し期待を外された感があるかな〜...。過去2作と比べると、サウンドから得られる興奮、痛快さは及ばないと言わざるを得ない。
ライナーノーツでは本作の方向性をして「さらなる前進」と表現していますが、僕としては「思ってたのと違った」という印象の方が強くなってしまったかな。
しかし、たとえどんな要素を取り入れたとしても、At The Gatesらしさ、すなわち鬱屈とした希望の光の見えない泣き、これに関しては全く変化していないのはさすが。これまでの作品が気に入っている人であれば、なんだかんだ一定以上の満足感は得られるはずかと。
個人的に本作は
"やや毛色の異なる要素も貪欲に取り入れた、良くも悪くも意欲作。デスラッシュらしい突進力は控えめだけど、慟哭っぷりは変わらず冴えてる"
という感じです。