ひとりごと ~Music & Life-Style~

HR/HMを中心としたCD感想、足を運んだライヴの感想をメインにひとりごとをブツブツつぶやくブログです。

NO USE FOR A NAME 『The Feel Good Record Of The Year』

  • ベテランパンクバンドのラストアルバム
  • 全曲にわたって共通する哀愁の美メロ
  • 日本のエモ/メロコアバンドに多大な影響を与えた叙情性

 

ちょうど亡くなってから10年が経つのか...と思い、ここ数日はよくNO USE FOR A NAMEをよく聴いてます。

 

アメリカ西海岸パンクの代表的存在であり、ここ日本のメロディックハードコアバンドにも多大な影響を与えたNO USE FOR A NAME。そのフロントマンであり、メインソングライターであるトニー・スライは、今から10年前の2012年7月31日にこの世を去りました。

 

当時僕は高校3年生、メロディックハードコアというジャンルに入れ込んでおり(メタルはさして知らなかった時期)、もちろんこのニュースを聞いたときは驚いたものです。

 

ただ、そのときは国内のバンドを追うばかりで手一杯というか、あまり海外のパンク事情について追っているわけではなく、せいぜい「名前くらいなら知ってる芸能人の訃報」くらいのテンションであり、さほど大きなショックは受けていなかったというのが実際のところ。

 

その後大学時代にアルバイトを始めて経済的な余裕が多少生まれるようになり、過去の名盤を買いやすくなったことで彼らの音楽に本格的に触れる事が可能になりました。そこからNO USE FOR A NAMEというバンドが、いかに優れた楽曲を生み出してきた偉大なバンドであったのか、という事実を深く知っていくようになったのです。

 

2008年に発表された本作は、トニーが永眠する前に残した最後のフルアルバム。「ラストを飾るに相応しい」とも言えるし、「ここでバンドの歴史が終わってしまうなんて残念極まりない」とも言えるような、非常にクオリティー高く仕上げられた名作です。

 

海外の、特にアメリカのパンクバンドっていうと、メタリックなサウンドを取り入れアグレッシヴに攻めたり、はてはかなりポップな方向に振り切ったりといったイメージがどうしても強いんですが、本作で聴ける音はそういったスタイルとは別のもの。

 

まあ、本作でギターを弾いているデイヴ・ナシーは本作発表後にバンドから脱退し、エクストリームメタルバンド・BLEEDING THROUGHに加入する(!)だけあって、そこかしこでメタルに通じるソロを弾いたりはしているし、1stアルバム『Incognito』は、後期とはかなり距離のあるハードめなサウンドなので、パンクメタルスタイルとまったくの無縁ってわけではないんですけどね。

 

本作に収録された楽曲はどれも叙情美たっぷりのメロディーに満ちた、哀愁メロコア路線。実にフックに富んだ歌メロが盛りだくさんな内容はBAD RELIGIONとかに通じるものがありますが、土臭さや渋い男臭さが目立ちがちなあちらと異なり、よりエモコア的で、誤解を恐れずに言えば、日本のメロコアバンドに通じるようなメロディーセンスが支配的。

 

この歌メロに宿った胸焦がす叙情性、締め付けるように迫ってくる哀愁の泣きメロはかなり魅力的で、トニーのヴォーカルも実にマッチしていますね。彼らからの影響が特に大きく感じられるNorthern19のソングライターの笠原さんとかは、この哀愁にヤられてしまったクチでしょうきっと。

 

M1「Biggest Lie」はオープニングを飾るにふさわしいアグレッシヴな疾走チューンで、速弾きギターソロも飛び出す、これぞ高速メロディックといった楽曲。しかしそんな中にも歌メロは哀愁バリバリのキャッチーさがあり、こういったフックの設け方にバンドのセンスが表れています。

 

そのままM2「I Want To Be Wrong」はこれまた哀愁際立つリフに、仄暗い歌メロの出だしからサビに至るまで美しく切ない。ミドルチューンのM3「Yours To Destroy」も、淡々とした中にしっかりとメロディーが宿り、疾走曲には出せないエモコア/パワーポップ的な叙情性が煌めく。

 

アコースティックな小曲から、いかにもメロコア的な疾走曲、比較的ポップさを強めに押し出したミドル〜アップテンポの曲まで、メロディックハードコアというジャンルに期待される曲は一通り揃っており、それら全てに共通して言えることは、哀愁叙情美に満ちたメロディー。下手にポップパンクめいた能天気な明るさは皆無と言っていい。本当に全曲美メロ。ここまでメロディアスさに徹底した海外のパンクというのも珍しい。

 

捨て曲なのはもちろん存在しませんが、個人的に特に気に入ったのはM9「Night Of The Living Living」。メロディーが良いのは言わずもがなで、特に強烈なのが中盤のサビ→美麗コーラス→ギターソロにかけての一連の流れですね。どこを切っても切なさ全開のメロディーばかりで、疾走感に合わせて畳み掛けてくるのだからマジでたまらない。そこからノンストップで続くバラードのM10「Ontario」もまた心に染み入るな...

 

全14曲と、この手のジャンルのアルバムとしてはやや曲数が多いのですが、一番長い曲で3分ちょいというコンパクトさなので、スッキリ聴き通すことができるのも嬉しいところ。

 

これほどまでに優れた泣きのメロディーを生み出したトニー・スライという人物、どれほど素晴らしいソングライターであったのかが、本作をあらためて聴き込むことで、今一度思い知らされました。まさに"The Feel Good Record"というタイトルに偽り無しですね。

 

 

個人的に本作は

"全ての曲に泣きの叙情メロディーが息づいた、哀愁メロディックハードコアの決定盤。日本のメロコアに一切引けを取らない美メロの宝庫"

という感じです。

 


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トニーの死後、彼に捧げられた日本のメロコアバンドの曲。死してもなお、彼のDNAは遠く離れた島国のバンドたちに引き継がれています。