その存在が発表されるやいなや、メロデスファンを中心に、メタルシーンを沸かせに沸かせたスーパーグループの1stフルアルバム。本作と同日にARCH ENEMYの新作も発売されるというのですから、メロデスファンにとっては快哉を叫びたくなること請け合いだったでしょう。
慟哭ギターの元祖的人物、イエスパー・ストロムブラードをはじめ、IN FLAMESに関わった人物たちで構成された、メロディックデスメタルバンド。先日のDownload Japanでのライヴも記憶に新しいですね。
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個人的には今のIN FLAMESも好きなのでそうは思わないのですが、大方のメロデスファンとしては、「これこそが真のIN FLAMESだ!」ってくらいの熱量で迎えており、いかに慟哭メロデスとしてのIN FLAMESが日本で支持されているのかがわかります。
そんな本作の出来ですが、『Whoracle』〜『Clayman』あたりの、メタルとしての整合感を増して、かつ叙情的なリードギターが支配的だった頃のサウンドを彷彿とさせるもの。『Lunar Strain』で歌っていたミカエル・スタンネがヴォーカルとはいえ、1stの頃のようなアンダーグラウンド臭プンプンのデスメタルにはなっていません。
「Embody The Invisible」のようなわかりやすく抜きん出たキラーチューンこそありませんが(しいて言えばM8「Feel What I Believe」かな)、ミドル〜アップテンポナンバーを中心に、適度にアグレッシヴ、ヘヴィな叙情リフで押し進み、ここぞというところでイエスパーの真骨頂たるリードギターが鳴り響く。これぞイエテボリサウンドの真髄よ!
そんなサウンドに絡むミカエルのヴォーカルは、さすが「世界一美しいデスヴォイス」なんて称されていただけに、しわがれたような独自の味を誇り、耳への馴染みが気持ちいいですね。哀愁叙情デスメタルによくマッチした歌声。
ただ、出だしからハッとさせられるようなインパクトの強い楽曲は、前述のM8など一部のみであり、全体的にはやや地味め。デスメタルとしては少々落ち着いた無難な印象が強いのも確か。一番のキモはメロディックなギターなので、そこがしっかりしてればさほど気にはなりませんが、もう少しエクストリームな勢いがあったほうがハマったかな。
M1「Shadowminds」こそ、オープニングトラックとしては地味な楽曲ながら、ピックスクラッチからの必殺リードギター、メロディックな旋律を損なわないリフが堪能できるM2「Days Of The Lost」、より哀しみを湛えたエモーショナルなイントロに、疾走感ある出だしで勢いを見せるM3「The Needless End」、低音部をバキバキに這うベース、叩きつけるドラムに合わせてザクザク進み行くリフが実にメロデス的旨味を放つM4「Conditional」という、前半の流れは非常に聴いてて気持ちいい。
前半の流れが良いだけに、中盤ちょっとインパクトが弱く感じられる瞬間もありますが、どの曲にも湿った哀愁は常に保持していてじっくり染み渡るように聴き通せる。M6「Gateways」のギターソロなんて、哀愁リードの見本みたいな出来です。
そんな中で、不意に本作随一のキラーであるM8が来て、後半にかけてグッと緊張感が増す構成も嬉しい。その後の激情リフに次ぐ激情リフの連打がたまらんM9「Last Of Our Kind」もイイ。
僕個人の好みからすると、ヘヴィメタルとしてのダイナミズムと攻撃性を強調しているARCH ENEMYの新作の方がツボにはハマりましたが、このメロデスでしかなし得ない哀感を求めているリスナーは、やはりこのサウンドこそが求めているものでしょう。由緒正しきメロディックデスがここにある。
全体通してちょっと無難になりすぎな感はあるので、次作があるのだとすればもう少しエクストリームメタルとしての疾走感やアグレッションを出してくれると嬉しいかな。
個人的に本作は
"かつてのIN FLAMESが描いた、イエテボリスタイルのメロデスを現代に伝えるサウンド。少々地味ながらもイエスパーらしい叙情ギターはたっぷり"
という感じです。