- 深淵・特濃な音世界を描き出す
- 概して難解、前作のわかりやすい突進力は控えめ
- バンドの描く世界観に深く浸るように聴こう
V系という枠を超え日本が世界に誇る...なんて枕詞ももはや聞き飽きた感のある、国産ヘヴィロック/エクストリームメタルバンド・DIR EN GREYの、前作『The Insulated World』より4年ぶりとなる11thフルアルバム。
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ここ最近の彼らは、営業終了前の最後の新木場STUDIO COASTのアクトを飾り、全音源のストリーミング配信を解禁したり、今年結成25周年というメモリアルな年であるため、ファンたちにライヴで聴きたい曲を投票形式で募る「DIR EN GREY楽曲バトル!」という企画でTwitter上を賑わせたりと、海外でのライヴができない中でも印象的な活動を続けていました。
このDIR EN GREY楽曲バトル、ファンに下手に媚びずに孤高の存在感をアピールしてきた彼らにしては、「らしくない感」は感じてたものの、ちょいちょい自分の好きな曲に投票してました。やはりファン層はバンギャの人が多いからか、自分が好きなエクストリームな楽曲よりも、初期のヴィジュアル系色の濃い曲が選ばれやすかった感じでしたが。
songbattle2022.direngrey.co.jp
ちなみに意外なことに、この企画の最初の発案者は京さんなんだそうです。一番そういうのやらなそうな人だと思ってました。京さん曰く「ファンに対して『となりのトトロ』で男の子が傘を貸してくれたときみたいなヤツをやった」とのこと。トトロ、ちっちゃいときに見たことある気がするけど、お話の内容なんにも覚えてないな...
そんな企画を挟んで、満を持してリリースされた本作。タイトルのファラリスとは、古代ギリシャの拷問器具「ファラリスの雄牛」から来ており、ジャケットもそれそのもの。なんでも黄銅製で中が空洞の雄牛の像で、その中に人を閉じ込めて雄牛の腹下に火を焚き炙り殺す、というなかなかエゲつない代物らしい。中の人間の苦しみに満ちた声は、雄牛の口を通して周りの人間にしっかり聞こえるのだとか。悪趣味すぎ。
ちなみに僕がこのファラリスの雄牛という器具を初めて知ったのはアニマル連邦です(笑) 後日、本作のリリース情報が流れたとき「アニ連のやつじゃん!」と思ったものです。
アニマル連邦『ファラリスの雄牛』 pic.twitter.com/ZULBxFvwNQ
— あべまん/『ネコダマシ』18:30 (@841_MUSCLE) January 31, 2020
まあアニ連どうこうは置いといて、本作の内容について。前作がハードコアパンク的な荒々しいアグレッションが目立っていたのに対し、本作はそこまで勢い重視ではない。ブラストビートが飛び出たり、DIR EN GREYらしいキレたヴォーカルパフォーマンスで疾走する曲もありますが、全体通して暗く、重く、深淵な世界観を広げていくかのよう。
レコーディングのエンジニアは、BULLET FOR MY VALENTINEやSTONE SOURなどの名バンドたちを手がけた人物らしく、彼らの音楽性の要でもあるヘヴィさはしっかりとキープ。ヘヴィロックとしてのサウンドのパワーは担保されているので、そこまで落ち着いた印象もありません。
先行シングルとなったM6「落ちた事のある空」が、癖の強いプログレッシヴな楽曲ということもあってか、概して難解で掴み所のない(というか見つけるのが難しい)アルバム。前作、前々作に比べて初聴でグッと魅力が掴める瞬間は少なめですね。エクストリームで勢いある楽曲が少ないのもその印象を強めています。
彼らならではのドロドロとした暗さ、陰鬱なまでの世界観は特濃。全11曲と数字だけ見ればコンパクトながら、一切軽さを感じさせない楽曲作りはさすがの一言で、この世界観に魅せられた人ならずっとずっと聴き浸っていられそうな深さがある。
何せアルバムのスタートを飾る楽曲M1「Schadenfreude」は、美しいアコギで始まったかと思えば、京さんならではのグロウル、金切りシャウトを交錯させた狂気的ヴォーカル、疾走パートも静寂パートも織り交ぜて、10分近くに渡ってDIR EN GREYの世界が繰り広げられるのです。最初から要素全部盛りって塩梅で、とにかく濃い。"行けども地獄か"のシンガロングがインパクト絶大。
他にもブラストビートとシンフォニックサウンドの融合により、ブラックメタルじみた美醜の世界を描くM3「The Perfume of Sin」、変幻自在に表情を変え、人を食ったような奇妙な歌い回しが全開になったM7「盲愛に処す」などで、さらにトリッキーな印象へ。
そんな中、本作中際立ってとっつきやすいキャッチーさを描き出すM2「朧」に、ずっしりとしたヘヴィなサウンドは健在ながら、どこか「美しい」という形容が似合うメロディーを劇的に歌うM4「13」あたりはかなり聴きやすく、こういった即効性のある(あくまで比較的に)曲が挟まるおかげでメリハリもついている。
ラストを飾るM11「カムイ」は、これまた9分以上ある大作ですが、M1のようにありとあらゆる展開で翻弄するようなことはせず、アコギを効果的に用いて裏寂しく淡々とした音を展開。終始落ち着いていて、ある種バラードと呼べる曲だとは思うのですが、温かみのある叙情性は皆無で、概して冷たく、そして不気味。
僕は基本的にはわかりやすくキャッチーな楽曲が好きなタイプのため、本作はやや敷居が高いのですが、リスナー側に媚びず、ここまで徹底して自身の世界を表現する彼らのスタンスはやはり素晴らしいものだなと。とにかく暗く、そして濃い作風なので、しっかり腰を据えて聴きたくなる一枚です。
まあ、本音を言えばもう少しわかりやすいと嬉しいし、美しさと暴虐性を併せ持ったキラーチューンがあるとなお良かったんですけどね。
ちなみに自分が買ったのは2枚組の初回盤で、「mazohyst of decadence」「ain't afraid to die」のリレコーディングが収録されたボーナスディスク付き。ヴォーカルのV系らしい癖が和らいでいて、僕としてはだいぶ聴きやすくなりました。
個人的に本作は
"わかりやすいアグレッション以上に、暗く難解な印象を与える一枚。バンドの世界観がより濃く、より深く表現されている"
という感じです。