ひとりごと ~Music & Life-Style~

HR/HMを中心としたCD感想、足を運んだライヴの感想をメインにひとりごとをブツブツつぶやくブログです。

映画『THE FIRST SLAM DUNK』 リアルな動きで描かれる劇的な試合に感動の涙

スラムダンクが映画化される。

そのニュースを聞いてから、どれだけその日を待ち望んだでしょうか。

 

 

スラムダンク

もはや説明不要の作品だとは思いますが、軽く紹介すると、1990年から1996年にかけて週刊少年ジャンプにて連載された、高校バスケットボールを題材とした少年漫画作品。

 

コミックスの発行部数は1億を超え、90年代のジャンプ黄金期を『ドラゴンボール』『幽遊白書』と共に彩った、国民的人気作です。

 

このブログでも何度か書いたことありますけど、僕は学生時代にバスケをやってまして、当然ながらスラムダンクは愛読していました。そりゃあもう夢中になって読んでました。94年生まれの自分は本来まったくもって世代ではなく、むしろ『黒子のバスケ』世代のはずなんですが、僕の中では「バスケ漫画 = スラムダンク」の図式が完全に成立していたのです。

 

チームメイトもみんながみんな愛好しており、バスケットプレイヤーなら知ってて当たり前、好きで当たり前の偉大なる存在。僕の青春時代において大きなウエイトを占めている、目と心に幾度となく叩き込んできた作品なのです。

 

そんな作品が映画化される。リアルタイムで新作が見られる。こんなことが起こるのかと。

 

映画公開前には、テレビアニメ版とは異なるキャストが発表されて色々文句を言われていたようですが(笑)、僕は原作ファンであり、アニメは通ってきていないので特に不満はない。むしろ必要以上に既存ファンに媚びたり、変に懐古的になりすぎておらず、今できる新たな形で制作しようという意図が感じられて、好感すら持てたくらい。

 

とはいえ、期待感が溢れる反面、やっぱり不安もあったわけです。

 

先ほど「懐古的でなくて好感持てる」と述べたばかりでこんなことを書くのもアレですが、昨今のアニメのような味付けが施されて、当時の原作が持つ空気感が損なわれてしまったりしないか、とかはやっぱり気になってしまう(と言っても僕は中学入学あたりからアニメはほぼ見なくなってしまったので、最近のアニメについては全く知らず、偉そうなことは言えないのですが...)

 

それにお話の内容がどうなるのか。桜木がリハビリを終えて、バスケ部に復帰するアフターストーリーとなるのか。それとも、晴子との出会いのところから、陵南との練習試合くらいまで描くのか。中盤の大きな盛り上がりとなる、神奈川県IH予選の試合が展開されるのか。どっからどこまでを、どのように一本の映画としてまとめるのか。それによってお話の面白さも変わってくるはず(もちろんどこを切っても面白いエピソードばかりなんですけどね)

 

さらにさらに、90年代の連載時と現在においてバスケットボールは、前後半の時間の区切り方、ジャンプボールシチュエーションのボールポゼッション、さらにはコートの形状に至るまで、かなりルールが異なっているが、あの時のままのバスケになるのか、それとも2022年現在のルールでフルリメイクするのか、その辺の線引きはちゃんとされるのか、とかね。

 

しかも監督・脚本は、原作者である井上雄彦先生自らが担当しているということで、どうあってもこれが正式なスラムダンクとなる。大好きで、大好きで、大好きな作品だけに、映画を見てガッカリするようなことだけは、何としてもあってはならない。

 

大きな期待と少しの不安。それを胸に抱きながら12月3日、公開初日に映画館へと足を運びました......

 

 

 

 

 

結論から言うと、泣いた。

 

いや、今まで映画を見て感動したり、「良い話だな〜」と胸を熱くしたりといった経験は少なからずあるんですよ。

 

しかし、大袈裟でもなんでもなく、熱でも出たんじゃないかと思うくらい体が熱くなって、実際に落涙までしてしまったのは、本当に初めての経験(小さい頃にホラー映画を見て泣いた時を除く/笑) まさか映画で、それも結末を知っているお話でこうも感情が動かされるのかと。自分でも驚きました。

 

どうやってこの感情を文章にできるのかがわからないのですが、何とかしてこれから順を追って、映画の感想文を仕上げていきたいと思います。

 

注意!

これから映画本編の内容について思いっきり突っ込んで感想を書いていきます。未見の方はネタバレになりますので、ここから先はブラウザバックでお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレになりますよ?いいですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よし。

 

 

 

 

冒頭、沖縄の海が見えるバスケットコート。二人の兄弟が1ON1に取り組んでいる。当時9歳の宮城リョータ、そしてその3つ上の兄、宮城ソータ。

 

宮城家では早くに父親を亡くしており、嘆き悲しむリョータたちの母親・宮城カオルを支えるために、ソータは「俺がこの家のキャプテン、そしてお前が副キャプテンだ」とリョータに言い聞かせていた。

 

ソータは地元のミニバスにおいて名選手として活躍しており、チームの優勝に大きく貢献し、最優秀選手賞を何度ももらうほど。そんな兄にリョータは幼い頃からバスケットを教わってきていた。

 

もう一度1ON1をやろうとせがむリョータだが、友達と海釣りの約束をしてたソータは「もっとドリブルの練習しろよ」とリョータに言い残し、船に乗って沖まで行ってしまうことに。約束を反故にされたと感じたリョータは泣きじゃくりながら「もう帰ってくるな!」と吐き捨ててしまう。

 

そして皮肉にも、リョータの言葉通り、ソータは帰ってこなくなってしまう。釣りに行ったまま水難事故に遭遇し、帰らぬ人となってしまうからだ。

 

そんな導入部を経て、舞台は7年後の広島。高校バスケットボールインターハイの2回戦。神奈川県代表・湘北高校秋田県代表・山王工業高校の試合が今まさに始まろうとしていた。

 

そう、今回の映画の主役は、本来の主役である桜木花道ではなく、宮城リョータ。そして描かれるのは、スラムダンクの全試合の中でも最高峰の試合といえる山王戦。まずここで、なるほどそうきたか!と。

 

と言うのも、原作を読んでいた人ならわかってもらえると思うのですが、クライマックスの山王戦において湘北スタメン5人のうち、最もクローズアップされる機会に恵まれていなかった(と僕は感じている)のがリョータだったからですね。

 

キャプテンの赤木は、かつてのチームメイトからあまりのストイックさに煙たがれていた過去から、一緒に戦えるチームメイトを得ることができた現在までの想いが綴られているし、三井は「もうオレにはリングしか見えねえ」「静かにしろい この音が......オレを甦らせる 何度でもよ」に代表される、あまりにもカッコ良すぎるシーンのオンパレード。

 

流川は沢北との1ON1で叩きのめされながらも、最大のライバル・仙道との勝負を通して得たパスという選択肢を武器に、高校No.1プレイヤーの沢北と同等とも言えるような覚醒を見せる。

 

そして桜木は言わずもがな。圧倒的身体能力を活かしたリバウンドで、満身創痍の湘北に攻撃のリズムをもたらし、追い上げの切り札として躍動。さらには後半の決死のルーズボールで、選手生命に関わるほどの怪我を負いながらも、懸命なプレイと逆転の合宿シュートで試合を締め括った。

 

こんな風に、湘北メンバー各人は山王戦において大きな見せ場を持っているのですが、そんな中リョータだけやや控えめな活躍と言わざるを得ない。もちろん安西先生から「湘北の切り込み隊長」と称され、ゾーンプレスを破るきっかけになったり、彩子から「No.1ガード」の称号を渡されたりといった場面もあるにはあるんですが。

 

映画パンフレットにおいても、監督である井上先生は宮城を主人公とした狙いとして、こんな風に述べていました。

 

リョータは連載中に、もっと描きたいキャラクターでもありました。3年生はゴリが中心にいて、三井にもドラマがあるし、桜木と流川は1年生のライバル同士。2年生のリョータは間に挟まれていた。そこで今回はリョータを描くことにしました。

 

原作においてはやや描写が(他メンバーに比べて)不足していたリョータを、ここにきて主役へと抜擢する。斬新だとは思いましたが、納得感のある人選でした。漫画をそのまんま映像化するのでは(それはそれでメチャクチャ面白いでしょうが)、意外性や新鮮味はあまりありませんからね。

 

本作は、山王戦を比較的忠実になぞりつつ、合間にリョータの回想エピソードを挿入していく作りになっている。

 

オープニングテーマとなるThe Birthdayの楽曲に合わせて、徐々に鉛筆画で描かれている湘北メンバー。ゆっくりと画面手前に歩いてきて、ぎらりとした目つきで正面を睨み付ける様が実にカッコいい。会場の9割が山王ファンであるが故に、悪者になった彼らに、チバユウスケさんのしわがれまくった声質がマッチしている。

 

そして相対する山王工業のメンバーも描かれ、コート中央に10人が集まりTIP OFF。コートの形状とオフェンス時間が30秒であることで、この作品が2022年現在の世界観ではなく、純粋に当時の山王戦を描いたものだとわかる。

 

試合が始まって、まず驚かされたのが、3Dモデルによるキャラクターの動き方です。「うわ!バスケットボールの試合を見てる!」という衝撃。

 

「バスケのアニメなんだから当たり前だろ」と思うかもしれませんが、本当に現実のバスケットの動きを、かなり忠実に再現し、落とし込めてるんですよ。シュートモーションやフォロースルー、パスキャッチ時のミートの仕方や、ステップの踏み方、ダンクを叩き込んだ後の体の揺れ動きなど。

 

映画制作にあたって、まずスタッフでバスケットボールの練習を実際にやってみたというだけあり、各キャラクターの動きが現実のバスケの動きをかなり高レベルで再現して、本当に試合観戦をしているかのような臨場感を味わえることにまず感動。

 

これからディフェンスをする際に、一旦フロアを両手で叩き、腰を落とす体勢になるところとか、パスをキャッチする際に左ウィングあたりの位置で、左足・右足の順にストライドステップを踏んでシュートに入ったりとかは、学生時代の部活でしこたま練習でやってきた動きなだけに、メチャクチャ懐かしい気持ちになる(笑)

 

さらにダメ押しとばかりに、山王サイドのベンチ入りできなかった部員たちの応援ですよ。「一本!そーれ一本!」「いいぞ!いいぞ!深津!いいぞいいぞ深津〜!!」の掛け声を聞いた瞬間、「うわ〜〜〜!懐かしい!この声出しやったわ〜〜〜!!」と、本筋とは関係ないところで、すでに脳汁が出まくっていました。

 

そんな流れるような試合の最中、しばしば原作と全く同じフォームのプレイとかまで出てくるものですから、原作で読んだ圧巻のプレイが、そのままリアルな試合として描写されているのです。これを見て興奮しない訳がない。

 

そのまま前半をかなり早い段階で終えて、怒涛の後半へと突入していく。ここからまたリョータの過去の描写が増えていく。

 

亡くなった兄との一番の繋がりであったバスケットボールを、兄と同じ7番をつけて続けるリョータ。しかし相手チームからは「お前の兄ちゃんと試合したことあるけど、弟は大したことないな」と言われ、観戦していた大人たちからも「やはり兄のようにはいかないな...」と評価される。

 

母であるカオルは、悲しみを全くもって拭うことができず、思い出してしまわぬように、ソータの部屋に飾っているトロフィーやユニフォームを片付け、この家からも引っ越そうと言い出す。

 

しかしリョータは「兄弟だからって同じ番号にすることないよね!」という母の言葉に反発するように「7番がいい」と言い切り、兄の番号を背負ってバスケを続ける道を選び続けた。ここで母とぶつかり合い、カオルとリョータの仲がこじれていってしまうことに。

 

僕は家庭を持っていないので、このシーンはどうしてもリョータに肩入れしたくなってしまうものですが、逆に息子がいるような人たちからすると、カオルの心情に共鳴する人の方が多くなったりするのかなー...と思っていました。

 

中1からは現在も住んでいる神奈川に引っ越し、新しい学校生活が始まるものの、初っ端から近づくなオーラバリバリの無愛想な挨拶をかますことで、新しいクラスメイトからの心象は最悪。不良っぽい連中からは暴力を受け、バスケ仲間もできず、孤立した生活を送ることとなる(とはいえ現在もチームメイトである安田とは同じ中学のため、どこかで仲良くなったはずなのですが)

 

高校に入学してからも、彼の抱える行き詰まり感は解消されることはない。カタブツの赤木とは相性が悪く、試合には出してもらえない。「そこでパス出せるだろ!オレを出せよ...!」とベンチで文句を口にしながら、3年生の引退試合を観戦するリョータ。イライラが抑えきれない。

 

なお、この試合が終わったあとの控室にて、負けたというのに平気な顔をしている3年生が、後輩たちに対して「カタブツと問題児、うまくいくわけねえよな?おまえ(宮城)は夏までもたねえな」と言い捨てた際に、赤木が「宮城はパスができます」と、毅然とした態度で言うシーンがあり、リョータが赤木のことを「赤木のダンナ」と呼び慕うようになったのは、この頃からなのかなと思いました。

 

そして、原作でも少し描かれた三井たち不良グループに屋上に絡まれる場面。恐怖で手が震えながらも、「不良漫画かよ。ホントにあんだ、こういうの」と、笑っている。兄ソータの教えである「心臓バクバクでも、一生懸命平気なフリをする」を守っているのかのよう。

 

三井たち不良グループがリョータを襲った理由として、原作では彩子が「バスケ部期待の新人だったからではないか」と、想像するだけにとどめていましたが、この映画ではバスケに対して希望を失っている三井が、期待の新人であるリョータにからかわれることでリンチを提案したり(堀田は単に生意気だから潰そうというくらいにしか考えていなかったと思われる)、カバンからこぼれたリョータのバッシュを、憎らしくも憂いを秘めた表情で見下ろしたあとに蹴飛ばしたりしていて、彩子の想像通りであったことが読み取れるようになっています。

 

多勢に無勢なままボコボコにされるリョータ。原作では、このまま三井とともに入院生活を送ることになるのですが、本作はやや異なっており、顔中に血を流しながらも自力で帰宅。その後、半ば自暴自棄に陥ったかのようにバイクを猛スピードで飛ばして大事故を起こして入院、という流れになっていました。

 

ソータとのつながりであるバスケットボールをずっと続けてはいるものの、部には馴染めず、試合にも出られず、さらに不良たちからは因縁をつけられ...と、まったくもってうまくいかない。さらには母親との関係性も改善されることがない。何もかもが嫌になって自暴自棄に陥ったかのような描写で、どことなくアメリカ留学に失敗し、バスケをやめて激突事故を起こした矢沢を彷彿とさせる一幕でした。

 

事故の瞬間、故郷である沖縄の景色が浮かんだリョータ(走馬灯的な何かかもしれない)。その風景に吸い寄せられるかのうように、退院後に一人で幼い頃過ごした自宅、学校、バスケットコート、そしてソータと過ごした海辺の秘密基地へ。こういうふうに、ちっちゃい頃過ごした場所を見て回るの、ノスタルジーがすごそうだな...。今度休みとれたら札幌帰ろうかな。

 

秘密基地にて、幼い頃使っていた埃被ったボールと、「最強山王」の文字が踊る月刊バスケットボール(原作に出てきた、赤木が初めて買ったもとの同じ表紙)

 

そこにはかつて、「山王に入るの?ソーちゃん?」とリョータに聞かれた際に、「どうせならこっちだろ!」とソータが黒マジックで書いた「(最強山王)に勝つ!」という手書き文字があった。ソータは沖縄代表として、インターハイに出場し、打倒山王を夢見ていた。

 

「ごめんソーちゃん...俺、母ちゃんを困らせてばっかりだ...」とつぶやくリョータ。ソータの志、それに比べて何もうまくいっていない自分の境遇、家族の関係など、現状の自分への不甲斐なさがここにきて爆発し、大粒の涙を流しながら叫び続けた。

 

そうして自分の中に溜まった負の感情を全て発散することができたのか、泣き止んだリョータの顔は憑き物が取れたかのような表情に(この時の顔がメチャクチャに良い)。すっかり古びてしぼんでいた、かつてのバスケットボールを使ってドリブル練習。海辺の砂浜に足を取られながらシャトルラン。完全にバスケへかける気持ちを取り戻した。

 

原作では復帰したばかりの安田との1ON1で、「全然衰えてないじゃないか!」と驚かれていましたが、その理由は退院して学校に来ない間に、こうやって自主練を重ねていたからなのかもな...と思いました。

 

こういった過去描写を挟んでからは、いよいよ試合の方も佳境へ。フラフラになりながらも決死のスリーポイントを放ち続ける三井、かつてチームメイトから煙たがられてばかりだったが、今は頼れる仲間たちとバスケができている喜びを噛み締める赤木、バスケかぶれの常識は通用せず、最強山王からことごとくリバウンドを奪う桜木、高校No.1プレイヤー・沢北に打ちのめされながらも、パスという選択肢を得てチームを復活させゆく流川と、各メンバーへの活躍を描きながらの最終局面。

 

このあたりは何度原作を読んでも胸の奥が熱くなる瞬間のオンパレードですが、今回はリョータの家庭によるエピソードが追加されているため、「こんなでけーのに阻まれてどーする...ドリブルこそチビの生きる道なんだよ!!」のところが熱い。超熱い。

 

ソータを喪った悲しみを引きずるカオルは、リョータが7番をつけてバスケットをする姿を見るのが辛かった。そのせいで小学生時代のリョータの試合を観終わったあと、リョータの意向を無視するかのように、ソータの遺品を片付けてしまった。

 

それでも、リョータに一度も「バスケを辞めろ」とは言わなかった。

 

それについての感謝の言葉を、広島に行く前日の夜に書かれたリョータからの手紙を読んで受け取ったカオルは、会場まで駆けつける。本来はソータが立つはずだった舞台で、リョータが山王と戦っている。そんなリョータを見つめながら、カオルは「行けっ!」と心中でつぶやいた。

 

その流れからのリョータの低いドリブルによる突破、カオルの後押しを受けたかのように躍動するリョータの姿。これまでの回想を全て咀嚼し、すかさずかかるテーマソングの「第ゼロ感」を聴いた状態で見たこの場面は、本当に感情が爆発してしまっていて、体は熱を帯び眼球が潤んで仕方なかった。完全に落涙まで行きましたとも。

 

激動のラストはBGMも効果音もほぼ無く、心臓の鼓動と残り時間を刻む時計の音のみがこだまする。この辺の緊迫感たるや凄まじく、既に原作で結果を脳まで刻み込んでいるというのに、まるで初めて観る試合のようなドキドキが味わえます(ちなみにこの演出を、WEBライターのダ・ヴィンチ・恐山さんは「無音の音質が良い」という表現をしていた。なるほどねー)

 

プレスをかわすためボールを受け取り、そのままドリブルでシュートエリアまで突っ込む流川、そのすぐ横でパスを受け取り合宿シュートを決める桜木。スローモーションでボールがネットを抜ける様は、わかっていても鳥肌が立ってしまう。

 

そして桜木と流川のタッチ、湘北メンバーが駆け寄ってきて喜びを分かち合いながらフェードアウト。試合を終え、地元神奈川の海辺にてリョータとカオルが顔を合わせ、「おかえり」「ただいま」と挨拶を交わす。ずっとしまいこんだままだったソータの写真が食卓に置かれ、少しだけ家族の関係が変わったような、そんなシーンでした。

 

そしてラストなんですが、ここでちょっとしたサプライズが。湘北戦を終え、アメリカ留学をした沢北。現地の日本人記者の質問に、「日本との違いはフィジカルっすね。周りが全員河田さんみたいなもんなんで」と受け応える。

 

そして地元チームとの試合が始まるのですが、相手チームのポイントガードとして出てきたのがなんとリョータ。彼もまた、更なる高みを求めてアメリカのバスケへと挑戦した一人。ジャンプボールからボールをキャッチしたリョータと、そんなリョータのドリブルに真っ向から対峙する沢北。そんな二人が激突する段階で映画は幕を下ろす...

 

 

 

 

まるで本当の試合を観ているかのような臨場感、各キャラクターのリアルなバスケットの動き、リョータの過去を中心としたドラマと、全編にわたって没入して楽しめる映画だったと思います。原作最高の試合である山王戦において、原作そのままのフォームで各キャラクターが躍動するシーンなんかね、相当制作側が原作の動きを大切にしながらバスケットシーンを作り上げたのかがわかる。

 

クライマックスでBGMを廃した演出を採用したのも素晴らしかった。確かに31巻の怒涛の流れを映像化するならば、余計な音は排除するのが最適解だと僕も思います。

 

そんなわけで、スラムダンクという作品を愛好する人ならば絶対に観にいくべき(まああらかた観ているとは思いますがね)、素晴らしい作品でした。もう3回も劇場に足を運びましたとも(笑)

 

まあ、もちろん気になる点が無いわけでもない。

 

名場面尽くしの超濃密描写が連続する原作を、たった2時間弱くらいの一本の映画としてまとめるのですから、どうしても入りきらない場面があるのは仕方のないところです。山王戦の全てがおさまらないのは至極当然のこと。

 

しかしそれでも、赤木がずっと欲しかった仲間を得たことで「なぜこんなことを思い出してる。バカめ」と涙を流すシーンはカットしてほしくなかったな...。まあ、仲間が得られた実感を味わう瞬間は、チャージングで倒れた際にメンバーに起こされ、「オレの願いは叶えられてる...!」と心中で呟くシーンで描けているため切ったんでしょうけど。

 

また、山王戦よりも前の原作のシーンは、部分的に回想シーンで出てくるくらいで、ストーリーの大筋なども一切語られない。完全に「スラムダンクという物語を知っていること前提」の内容になっている。

 

そのため、「スラムダンクの内容まではよく知らないけど、話題作だから観てみるか」という人にとっては、「なんだかすごい試合だということはわかったけど、これどういうストーリーなん?」と思うこと必至。頻繁に挿入される回想シーンも、原作を読み込んでいないと時系列がわけわからなくなると思う。

 

そんな内容になったことで、一番割を食ってしまったのが流川。日本一の高校生になるという目標を安西先生から諭されたり、仙道との1ON1でアドバイスをかけられるシーンなどが無いため、それらのバックボーンがあるからこそ映える、パスの選択肢を得て沢北に並び立つシーンの説得力がやや欠ける。

 

赤木にバックパスを出してバスケットカウントを呼び寄せたシーンにて、彩子が「あの流川がパスを...!?」と驚いているシーン。1ON1でもゲームでも、プレイスタイルがほぼ変わらないセルフィッシュなプレイヤーであることがわかっているなら違和感がないのですが、この映画のみを観ているだけでは「なんでパスしただけでそんな驚かれるの?」という風に思われそう。

 

現在日本の漫画・アニメ界隈では、物語どうこうというよりも、気に入ったキャラクターに愛を傾ける"推し"の文化が盛んですが、僕のような箱推し(この言葉、人生で初めて使った)ならまだしも、流川推しの人にはだいぶ物足りない内容だったかも知れません。

 

その他にも、中学生のリョータと三井が初めて会ったとき、三井はまだその髪型ではなかったんじゃないの?とか、リョータが湘北1年の時の夏の大会は、対戦相手は陵南だったのでは?とか、赤木は2年生のときはすでに現在のような髪型になってて、番号は8番だったのに、なんで坊主頭で10番つけてるの?とか、細か〜く気になる点は散見されます。

 

漫画とは異なり、リアルな(ところどころスローモーションはあるが)動きの中での演出をする以上、原作のニュアンスとは違う印象を与えられるところもありました。

 

赤木のシュートが外れたところを「入ってろ!」と桜木が叩き込むシーン、漫画ではそこで時が止まったかのようなドラマチックさを誇る場面ですが、本作では試合の流れに沿って描かれるため、演出としてはややあっさりめでした。桜木の驚異的なリバウンド力を目の当たりにした野辺の「何で?」もしかり。スローばっかり使ってるとクドくなるし、リアルな試合の臨場感を損ねていないため、必ずしも悪いとは思いませんが。

 

これは静止画を自分のペースで読み進められる漫画と、強制的に映像が流れていってしまう映画とで、表現技法が全く異なるために、漫画で読んだ時とは印象が異なってしまうのはある程度は仕方ないのだろうと思います。

 

しかし、そんな細かな点をねじ伏せてしまえるだけのパワーが、やはりこの山王戦にはあるんですよ。先ほども述べた通り、リョータが深津・沢北のディフェンスの間をすり抜け、「第ゼロ感」が流れるあの瞬間の感情の昂りは、本当にたまらないものがあります。

 

現実のバスケットの動きに可能な限り近づけた試合のシーンも、バスケット経験者ならより楽しめるし、制作側の「試合をこれ以上ないほど劇的なものにしよう」という狙いもしっかり感じ取ることができる。改めてスラムダンクという作品が持つパワーというものを認識させられました。

 

スラムダンクが好きで、そしてこの映画を観ることができて本当に良かった。

 

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