ひとりごと ~Music & Life-Style~

HR/HMを中心としたCD感想、足を運んだライヴの感想をメインにひとりごとをブツブツつぶやくブログです。

SLANG 『Glory Outshines Doom』

  • PIZZA OF DEATHから初のリリースとなったフルアルバム
  • ヘヴィでハードなSLANGサウンドはそのまま
  • 全編日本語詞で綴られる怒りと絶望

 

日本が誇るジャパニーズハードコアの重鎮・SLANGが2012年に発表したフルアルバム。

 

SLANGは自身のレーベルであるSTRAIGHT UP RECORDSを持っていますが、本作は有名インディーズパンクレーベルPIZZA OF DEATHからのリリースとなっています。

 

PIZZA OF DEATHからCDを出そうというお話は、実は本作発表よりはるか前からあったようなのですが、自身のレーベルを持っていることもあり、ずっとお流れになっていたそう。それから東日本大震災の被災地を回るツアーにて、PIZZAの社長の横山健さんとようやく話を取り付けることができたようです。

 

ポップパンク、スカコアメロコアというキッズ向けのイメージが強いレーベルから出たCDではありますが、当然ながらSLANGはジャパニーズハードコアの精神を貫くバンドであるため、レーベルが変わったからといって音楽性が歪むなんてことはありえない。ひたすらにハードでヘヴィ、無骨な男らしさを含んだタフなハードコアを徹底しています。

 

従来とちょっと変わった点としては、歌詞がほぼすべて日本語詞になったこと。BRAHMANもそうですが、震災の悲劇的な光景を目の当たりにしたことが、少なからず影響を与えたのだと思われます。

 

このことをギタリストのKIYOさん(現在は脱退)は、「詩の朗読」と表現しています。たしかにハードコアのヴォーカルは、メロディーを丁寧になぞる歌とは対極と言っていいくらいなので、その表現も当てはまるのかなと。朗読というには声があまりにもイカつすぎますが(笑)

 

日本語で綴られる歌詞は、明るい展望のようなものは感じられず、ひたすらに絶望、惨たらしさ、現実の虚しさを突きつけるようなもの。対訳を経ずとも聴いていてダイレクトに伝わるだけに、これまでの楽曲よりも痛烈に突き刺さってくるように感じます。

 

権力者たちへのこの上ないほどの怒りを表したM2「糞の吹き溜まり」のような、反権力のハードコアらしい歌詞もありますが、ほとんどの歌詞はパワフルなハードコアマナーとはやや趣を異にするもので、普段から詩集などをよく読むKOさんの感性が表出しているのかも。それが日本語になることでダイレクトに伝わりやすくなったのでしょう。そんな詞世界を聴かせるためなのか、ハードコア的シンガロングはほとんど無し。

 

サウンド面では、これまでの作風とほぼ変わらず、パンクのレベルを超えるほどにヘヴィに荒々しく刻まれるギター、無骨な印象をさらに際立たせるベース、その破壊的サウンドの土台をタイトに築くドラムと、SLANGらしい獰猛なハードコアが展開される。

 

前述のM2や、残酷さを容赦なく突きつけるMVも作成されたM5「ろうそくのまち」、つんのめる勢いのドラムが本作随一の体感速度を与えるM9「焼却炉」、唐突なブレイクを挟みつつも爆走しまくるM10「鉄船の汽笛」あたりは、SLANGらしいストレートな疾走感溢れるナンバー。

 

ノリの良いザクザクしたリフがワイルドに躍動する様がカッコいいM3「小さな棺(単純に楽曲としての印象ならこの曲が一番好きかも)、ロックンロール風味も感じさせるような歯切れの良いリフ(だいぶヘヴィではあるが)に、唸るギターソロも聴きどころに添えたM11「踏切り」なども随所に含ませ、疾走まみれの一本調子さは感じさせない作りになっているのも嬉しいですね。アルバム一枚通して聴いても、単純すぎて飽きが来るのが早いということに陥りにくくしている。

 

ズルズルと引きずるような不穏さ、不気味さをギターが演じるM8「白昼夢」、非常にもの悲しいアコギの旋律に浸れるM12「もの言わぬ本」というインストの存在も、歌詞の絶望的世界観を演出するために一役買ってますね。押しの一手だけでなく引きの瞬間もちゃんとある。

 

このようにエクストリームミュージックとしての聴きごたえがしっかりしていて、ジャパニーズハードコアに馴染みの薄いリスナーにも聴きやすくなっている(あくまで僕の感覚ですが)、案外ユーザーフレンドリーなハードコアなのかもしれない。収録時間もハードコアとしては長く感じますが、それでも40分に満たないので聴きやすいですし(あまりにも破壊的な音圧が強いので若干の聴き疲れはあるかもね)

 

SLANGらしい轟音に身を委ねつつ、悲痛な歌詞を目を逸さずに読み込んで、彼らの表現を全身に浴びる、そんな聴き方が一番相応しいでしょう。

 

 

個人的に本作は

"SLANGらしい不変で破壊的なサウンドに、震災を経てストレートな日本語詞へと変化した表現が噛み合う一作"

という感じです。

 


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