- キーボードによるアレンジを導入しより音楽的に
- 骨格は変わらずエクストリームメタルそのもの
- 現在の彼らに通じるアレンジも散見
前作『Suicide Season』発表時より、ギタリストのカーティス・ワードが脱退し、後任にジョナ・ ウィーンホーフェンが加入してから製作された、BRING ME THE HORIZONの3rdフルアルバム。CD付属のブックレットがちょっぴり凝った造りになってます。2人いたんだね。
脱退したカーティスについては、本作発表時のインタビューにて「バンドから心が離れてしまっていた」「曲なんてどうでもいいというスタンスだった」などと言われていたので、だいぶバンド活動へのモチベーションが切れてしまっていたんだな...と推察されます。本人がどう思っているかはまた別ですが。
そして新ギタリストのジョナについても現在は脱退済み。その後I KILLED THE PROM QUEENに入ったらしいですが、あちらはあちらでバンド自体が解散してますからね。今はどうしてるんでしょ。
まあ、過去のメンバーの話は置いておくとして本作について。『Suicide Season』ではエクストリームメタルの軸からはブレずに、メタルコアとしてのメロディック度、ドラマチックな要素を少しずつ増量することに成功した訳ですが、本作はさらにそこから音楽的に一歩進んだ形となっています。
サウンドそのものは相変わらずエクストリーム。オリヴァーの凶暴性溢れるシャウトはさらに冴えを見せ、ヘヴィなバンドサウンドは整合性を増し、一段とクオリティーをアップさせたように思えます。
そしてそこに、前作まではあまり聴かれなかった、キーボードによるデジタルな装飾(と言ってもそこまでピコピコダンサブルな感じにはなってませんが)が加わり楽曲を彩っているとのが大きな特徴。
2010年代前半は、電子音入りのスクリーモ、いわゆるピコリーモが頭角を現した時期で、このバンドもその先達の一つとして見なされていたということなのかな。ピコリーモ...今やすっかり死語になって、日本でも一部の実力派以外は見る影もなくなりましたね...
本作についてはあくまでキーボートは楽曲のメロディアスさを補強し、さらに大仰に盛り立てるような使われ方をしているので、チャラチャラっとした雰囲気には陥っておらず、個人的にありがたい部分。楽曲の持つムードは一貫してシリアスでエクストリームです。
まず本作の何が良いかって言うと、出だしの印象の良さ。これが素晴らしい。
M1「Crucify Me」は、基本的には初期の彼ららしい獰猛なメタルコアを貫きつつ、壮大さを描くギター・キーボードアレンジ、テンションを盛り立てるシンガロング、アルバムタイトルを繰り出す神聖なコーラス、より深みと叙情性を増したメロディーと、さらにスケールアップしたことが伝わる名曲。この手のジャンルとしては6分と少々長いですが、ダレをまったく感じさせない。
従来の彼ららしさを追求したアグレッションがカッコいいM2「Anthem」に、これまたM1と同様に雄大なメロディアスさが気持ちいいM3「It Never Ends」と、ド頭で本作の世界観にどっぷり浸れる良曲連発なのが嬉しい構成です。
頭のインパクトが強いため、後半に比肩するほどの楽曲が無いように感じられなくもないですが、あくまで相対的なものであり、アルバムのテンションが下がるようなことはない。
淡々とした曲調の中に、メロディアスな女性ヴォーカルとストリングスを大胆に取り入れたM5「Don't Go」、スローテンポで激情を発散するヴォーカルと共に進み、後半にはメロディックなギターソロ、クリーントーンの静かなパートが映えるM11「Bleed With A Curse」は、後の彼らの音楽性にも通じるような要素が入っています。大幅な飛躍を遂げるのは次作以降からですが、この時点ですでに現在の音楽性の素養はあったということでしょう。
デスコア~メタルコア期の彼らのアルバムは、なんとなく『Suicide Season』の評価が高いような印象がありますが(だよね?)、エクストリームメタルよりメロディックメタルが好きな僕としては、よりドラマチックな側面が強化された本作の方が好きかも。オープニングが名曲だから、初聴の印象が良いのも嬉しいポイントですね。
個人的に本作は
"エクストリームなメタルコアからさらに音楽性の幅を広げ、壮大なアレンジを際立たせた1枚。オープニングから本質剥き出しとなる"
という感じです。