- Future Emoを掲げたPOST HUMANシリーズ第二章
- 最先端のハイパーポップを取り入れる音楽的貪欲さ
- 単一のパッケージ音楽作品として圧巻の完成度
前回のCD感想がNEW HORIZONだったので、HORIZON繋がりでBRING ME THE HORIZONの新作についても書いてみようかな。
昨年のNEX_FEST 2023および、今年のSUMMER SONICにて素晴らしいアクトで魅了してくれた、イギリスが誇るモンスターロックバンドの最新作。本来なら昨年9月にリリース予定だったのですが、「満足できる水準に完成させられない」という理由により延期されていたもの。
今年の5月に作品紹介のティーザー映像とともに突如配信リリースされ、CDやLPといったフィジカルリリースは9月。いや〜待たされた待たされた。
本作は2020年発表の『POST HUMAN: Suvival Horror』の続編という立ち位置で、POST HUMANシリーズ4部作の2作目。前作までの間にシングルリリースされていた楽曲はすべて含まれ、国内盤ボーナストラックのライヴ音源も含めれば全19曲というかなりのボリューム。
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テーマは"Future Emo"。00年代のエモから影響を受けたメロディーを多分に導入しながら、バッキングの近未来的な細やかなアレンジはハイパーポップ(僕もよく知らなかったジャンルですが、通常のポップミュージックに、過剰なまでの電子音やアヴァンギャルド要素をブレンドしたものらしい)としての側面も強くしている。これによって懐かしくも新しい、先進的ながら親しみやすい、従来のBMTHからはまた一つ異なる次元のサウンドを展開しています。
このバンドは本当に冒険心に溢れてるというか、固定観念に一切とらわれてないですよね。過去作のアルバムも、どれ一つとして同じような音に固まっていないというか、リリースを重ねるたびに絶えずスタイルを変え続けている。この縛られなさ、自由奔放さには毎度驚かされるばかりです。
そんな本作、結論から言うとメッチャクチャ気に入ってます。5月の配信リリースから今日に至るまで、それはもうずっとこればっかり聴いてます。昨年のNEX_FESTから高まったBMTH熱を、さらに加速させるかのごとく聴いてます。2024年アルバム聴いた回数ランキングをやったら、本作が1位になることはほぼ間違いないくらい。
先行でMVが公開されたM4「Top 10 staTues tHat CriEd bloOd」は、本作が掲げる"Future Emo"を最もわかりやすい形で体現した名曲。バックで派手な電子音が駆け巡りながら、音が作り出す未来の世界観を強固なものにしつつ、オリヴァー・サイクスによる激情の叫びが、単に無機質なエレクトロサウンドに陥らず、エモ・ポップパンク・オルタナティヴメタルとして、感情に訴えかける説得力を生み出している。
怪しげなヴォーカルパートとデジタルサウンドが彩りながら、モダンメタルコアとしてのモッシュパートとシンガロングがあまりにスリリングなM3「Kool-Aid」、UNDEROATHをゲストに迎え、モダンなポストハードコアとしての側面が色濃くなるM7「a bulleT w/ my namE On feat.Underoath」、ドラッグ中毒による苦しみを赤裸々に明かす歌詞と、それに相反するかのごとくポップに弾けるメロディーの対比が面白いM10「LosT」、ルーツとなるエクストリームミュージックの素養を感じさせながら、どこか宗教的で恐ろしいムードを描くM12「AmEN! feat.Lil Uzi Vert & Daryl Palumbo Of Glassjaw」あたりは、本作の特色をしっかり反映しつつ、わかりやすい即効性にも秀でた楽曲。
エナジーを発散する曲の他、M6「DArkSide」、M11「sTraNgeRs」のような、比較的ゆるやかなテンポで進む曲にも、その歌には心に琴線を掻きむしるエモーションに満ちている。こういった音楽をエモと呼ばずして何と言おう。深く暗く自問していくかのような歌詞が特徴のM9「n/A」のような小曲も良いスパイスになっている。
合間にインストを挟む構成とはいえ、決してコンパクトにまとまっているとは言えない尺ですし、痛快でわかりやすいエクストリームナンバーばかりでもないです。それなのに、様々なジャンルの音楽を恐れ知らずに貪欲に取り込んだ独自極まるサウンドの面白さ、喜怒哀楽を全部ぶち込んだ感情表現、曲通しの繋ぎや構成のバランスなどの要因により、まったくダレや冗長さを感じさせることなく聴き通せる魅力があります。
また、音楽的なところとは別の観点でいうと、本作はジャケットやブックレットなどをすべて含めたパッケージの面でも良くてですね。実際に手を取ってみた人ならわかると思うんですが、ロゴマークと共にワールドマップが記載されていたり、ブックレットの中身は、プレステのゲームキャラのような挿絵が盛り込まれていたりするんですよ。まるでゲームのパッケージそのものみたいに。
この感覚、どれだけの人に共感してもらえるかはわからないのですが、みなさん子供の頃に新しいゲームソフトを買ってもらった時、ソフトや説明書、アンケートハガキや注意書きの紙など、同梱されていたもの全部を、もとあった場所にしっかりと収納し直して、パッケージをじっくり眺めたりした経験ありません?
プレイした後、ソフトをわざわざゲーム機本体から抜いて、箱の中にカポっとはめこんで、きちんと元通りに収納した状態をじ〜っと観察しながら、「これ新しく買ったんだよな〜...グフフ🎵」と悦に浸ったりしませんでした?
そして、ゲームはせずに説明書を読み込むためだけに箱を開けて、しばし説明書熟読に没頭した後、またまた同じ場所に綺麗にしまって、またパッケージを眺めて...とかやりませんでしたかね?
本作のパッケージが持つ雰囲気というのは、そういった在りし日の感覚を久方ぶりに思い起こさせてくれるものでして。アルバムを聴きつつ、じっくりパッケージ本体も見ていたくなる気にさせるんですよね。「新しく自分の所有物が増えた、あの頃のワクワク感」、あれをまた味わえるという所も含めて、すごく好きなんですよ。単一の作品として。
ちなみに上記した行為は、マキシマム ザ ホルモンのヴォーカルであるマキシマムザ亮君が、ライヴDVDを発表した際のコラムで、全く同じようなことを書いていて、当時それを読んだ僕は「この人、俺とまったく同じことしてる!」と何だか無性に感動した記憶があります(笑)
内容の良さはもちろんのこと、個人的な感覚と結びつくパッケージ商品としての面白さ、ライヴで体感した感動と直結した思い入れの深さもあり、「隅々まで作品を味わいたい!」と心から思わせてくれる大切なアルバムになりました。
POST HUMANシリーズはPhase 2ということで、まだあと同コンセプトで2作品が作られるということ。気の早い話ではありますが、次はどんな作品を聴かせてくれるのか、まだまだ彼らに対する期待が収まることはないようです。
個人的に本作は
"モダンメタル、ポップパンク、はてはハイパーポップまで貪欲に取り込んだFuture Emo。外見も中身も全て含めて、パッケージ音楽としての面白さを追求した名盤"
という感じです。