「あまりにも無茶すぎる。でも絶対に行く」
この前代未聞のニュースが発表されたとき、僕はこう思いました。
BRAHMANが今まで発表してきた6枚のフルアルバムに収録されている全曲、それらを1日ですべて演奏するという狂気の祭典『六梵全書』
ご存じの方はもう骨身に染みていると思いますが、BRAHMANのライヴというのは、ほとんどMCを挟まず、チューニングの時間すら満足に取らないまま、ノンストップで矢継ぎ早に曲を投下し、オーディエンスはモッシュとクラウドサーフの嵐。それもポップパンク系統にありがちな、みんなで仲良く肩組んでサークル♪みたいなノリではなく、一心不乱に体をぶつけ合う肉弾戦。
それをですよ。4時間。今までのアルバムの曲全部やるって、気でも触れたのかと。
1枚のアルバムを完全再現するというのはよくある話ですが、全アルバムの曲をブッ通しというのは、普通のバンドじゃまず考えないはず。
しかし、今までBRAHMANのライヴは色々と観てきましたが、まだ聴けていない曲というのがあるわけで。今回はそれらすべて余すところなく聴ける絶好の機会。こんな日、これを逃すと一生味わえないはず。
泥を喰らい、這ってでも行くと決意してチケット抽選に応募した結果、見事アリーナ当選。BRAHMAN30年の歴史が刻まれる会場に、足を踏み入れることとなりました。
会場となる横浜BUNTAIは、2020年に老朽化した横浜文化体育館に代わる形で設立された新しい会場。Bリーグの横浜ビー・コルセアーズの試合が行われたこともあるらしい。渡米前に生河村勇輝を見てみたかった。
先行物販は11時から開始ということだったので、それより少し前に会場に着いたのですが、もうその時点ですさまじい行列が形を成していました。
まあ、開場が15時からでまだまだ時間もあるし、ちょっと時間はつぶれるだろうけど、物販買い終わったら横浜中華街とかで飯食ったりしようかな~と思いながら列に並びました。
そのまま3時間以上並びました
いや、マジで列がなかなか進まないんですよ。物販スペースがある体育館内で、列がミチミチに詰まってまして。iPadを持ってきたので、並んでる間ずっとBリーグの試合を見ていたから退屈はしませんでしたけど。もうずっと立ちっぱなしでいい加減脚がつらい。
スタッフのお姉さんも客対応をしている際に、「当初の想定を大きく上回っておりまして...」と困惑したようにしゃべっていたし、僕の番に回ってきたときにはすでに白ロンTは全サイズ無くなってたし、完全に集客を見誤りましたね。
結局買い終わったときには14時を回っていたので、中華街へとしゃれこむのはあきらめました。近くの店で豚丼食って昼飯を済ませたあと、地下街にあるコインロッカーに荷物を預けて、再び横浜BUNTAIへ。
僕はHブロックということで、フロア後方の中央付近。Aから始まるのでかなり後ろになるんじゃ...と危惧していましたが、そこまでバカでかい会場ではなく、ステージからの距離も結構近め。さらにHYDEの幕張メッセのライヴと同様に、ブロック最前列の位置をキープできたので、かなり好位置と言えるのでは。
最前の手すりに腕をかけて、ここから1時間ほど待機の時間。そこでペットボトルを持ち込むことを完全に失念してたことに気づき、これから4時間の肉弾戦を、NO水分補給で切り抜けなければならないのか...と青ざめる。
まあいい、もとよりこの日はボロボロになるのは覚悟の上だ。気を引き締めて開演を待つことに。
相変わらず大舞台になると開演時間通りに出てこないバンドですが(笑)、しばらく待った後に会場が暗転。ブルガリア民謡の「Molih ta, majcho i molih」が流れると、ステージバックの3面スクリーンにイメージ映像が流れる。
ステージに現れたメンバーが立ち位置につくと、KOHKIさんが聴き慣れたクリーントーンの旋律を奏でる。『梵唄 -bonbai-』のオープニングを飾り、いつものライヴでは最後に演奏される「真善美」が、72曲のオープニングとなりました。
"さあ幕が開くとは 終わりが来ることだ 一度きりの意味を...俺たちが問う!六梵全書、30年分のBRAHMAN始めます!"
TOSHI-LOWさんの叫びに呼応するように歓声が響き、アルバムの流れ通りに「雷同」のイントロが鳴る。完璧なオープニングだ!
ブロック最前という位置のため、ガッツリモッシュピットに参加するという感じではないのですが、それでなくとも後ろからの圧縮はさほどでもない。やはり長丁場ゆえか、まだフルスロットルでモッシュをしようという空気感ではない印象。
ただそれはあくまで僕のいるブロックの話で、前方ブロック中央付近はクラウドサーファーがバンバンに飛んでいる。そんなに最初からガッツリやって体力は大丈夫なのかい君達!?
そして「EVREMORE FOREVER MORE」。この曲は今まで一度もライヴで聴いたことがない曲だけに嬉しい限り。Tour 梵匿行けなかったからなぁ!
しかしライヴで聴いたことがない曲とはいえ、今まで何度も繰り返し繰り返し聴いてきたアルバムの曲順を再現しているので、聴いたことはないけど聴き覚えはメッチャあるという、なんだか妙な感じでした。
そのまま『梵唄 -bonbai-』の流れを崩すことのない展開を進めていくのですが、熱量が一気に高まったのは「守破離」「不倶戴天」といったハードコアチューンでした。後方の圧が増して、クラウドサーファーが頭上を通り抜けていく。
...というか、BRAHMANのライヴで最前を経験したことはないんですが、最前メッチャ怖いですね。目の前にいるセキュリティさんがグッと近くに身を乗り出してくると、これから来る!という予兆が感じられて、いざ頭上に人が突っ込んでくると、胸の前にある柵に上半身をガンっと押し付けられるような体勢になって、強く打ち付けないかが超心配になる。
そしてその心配は現実のものとなり、「天馬空を行く」にて勢いを増したクラウドサーファーが降ってきて、柵に左手と胸を思いっきりぶつけてしまった。何をするだァーッ!(ダイブしただけだけど)
『梵唄 -bonbai-』は細美さんやKOさん、スカパラなどの外部ゲストを多く招いたアルバムですが、今回のライヴにはBRAHMANの4人以外のミュージシャンは出てこない。あくまで4人のみで30年の歴史を刻みつけている。
各々が持ち場で魂を削るように演奏を披露し、真ん中でTOSHI-LOWさんがマイクスタンドに食い掛るように、怒涛の歌唱・叫びを繰り返していく。まさにBRAHMANの公式ホームページにある写真と同じ光景が眼前に広がっていました。
通常のライヴではクライマックスを彩る役目を担うことが多い「満月の夕」は、今回のライヴではかなりの序盤の登場。この段階でこの曲を聴くのは少々違和感がありつつ、アルバム通りの流れのため耳には馴染むという、これまた不思議な感覚を味わいながら、その美しい旋律にしばし酔いしれることに。
「満月の夕」が終わった後、会場が暗転したと思ったら、再度登場SEの「Molih ta, majcho i molih」が。どうやらアルバム1枚分の演奏が終了した後、ステージの簡単な転換や楽器の持ち明けなどをするため、改めて仕切りなおすようす。
そしてSEが鳴りやむと、RONZIさんが静かにシンバルを鳴らし始める。今度は『超克』のオープニング「初期衝動」だ。
この時点でこのライヴの流れがつかめましたね。BRAHMANというバンドの歴史を紐解いていくように、新しいアルバムから順番に曲を披露していくという流れでしょう...とこの時は思っていました。
『超克』は東日本大震災を経て決意を新たにしたバンドが、日本語詞へのこだわりを最も表出させた作品であり、意志の強さ、鬼気迫る迫力、感情を揺さぶる叙情性が最高レベルで表現された傑作。僕にとっても一番思い入れのあるアルバムで、この作品の完全再現を聴けるという事実だけで、もはや感無量です。
ライヴでも定番の「賽の河原」に、疾走感とシンガロングが強く叩きつけられる「今際の際」、クリーントーンのギターと切ないヴォーカルから一転して激情をさらけだす「俤」と、息つく暇もなく連なる名曲に拳を掲げて応える。感情に訴えかけるパワーが本当に素晴らしい作品だと、あらためて気づかされました。
さっきまでアルバム1枚分の楽曲をほぼノンストップで繰り出したというのに、バンドのパフォーマンス力は落ちないまま、また一曲、また一曲とストイックにライヴは続く。本当にこのペースで大丈夫か?という思いが頭をもたげるも、この名曲の数々を爆音で浴びてれば、そんな懸念はすぐにふっとんでしまいました。
「鼎の問」「霹靂」という、ドラマチックなBRAHMANを象徴する超名曲二連発には本当に胸が熱くなりましたし、そこから鋭いギターが切れ込んでくる「虚空ヲ掴ム」へと繋がる様は鉄板ですね。
休憩もそこそこに、再度「Molih ta, majcho i molih」が流れ、民族音楽ライクなクリーンギターが、会場の空気を徐々に徐々に温めていく。もう何度聴いたかわからない、『ANTINOMY』のオープニングである「The only way」の登場。
繊細でありながらハードコアとしてのタフさを完璧に演出してみせたこの曲は、やはりライヴでもキメ曲として活躍してきただけに、会場の盛り上がりやモッシュの勢いは非常に大きい。僕も目の前のセキュリティさんがクラウドサーファーキャッチの体制に入った瞬間、グッと身をかがめるのに必死!やっぱ怖え!
『ANTINOMY』はハードコアとしてスタイルが如実に表れつつ、落ち着きつつ不気味な哀愁も表現されたバランスの良いアルバム。中盤の「Silent day」なんかは、まず普通のライヴでは聴けないだけに、その静かでありながら圧倒させる迫力を聴き逃すわけにはいかない。
特にうれしかったのは「Handan’s pillow」ですね。比較的シンプルながら、叙情的なギターソロに激しさを増すラスサビが非常にカッコいい曲ながら、全くライヴで聴けたためしがないので。
ただ、さすがにアルバム3枚分、ロクに休憩もなし、そして曲順があらかじめわかっているという条件下だと、さすがにちょっと集中力に切れが出てくるのが事実。ラストの「Kamuy-prima」を聴いているときの段階では、柵にもたれている状態での手の疲れもあり、若干体がグダッてきたのを感じました。バンドの演奏のテンションは全く変わらずなのですが。
しかし、そんな僕の体たらくに喝を入れるかのような流れに変わったのが、ライヴが半分を過ぎ、『THE MIDDLE WAY』のオープニング「THE VOID」をやり終わった後。
当然このまま「LOSE ALL」へとつながるのかと思っていましたが、間髪入れずに「其処に立つ!」の歌いだしが。これは2nd『A FORLORN HOPE』の名曲「BASIS」。
アルバム通りの流れになるのだろうという大方の予想を、良い意味で裏切るかのような展開に、一気に沸き立つようにクラウドサーファーが雪崩のようにステージへと向かっていきました。
当然ながら意表を突かれた僕も、若干切れかかっていた集中力が超回復。会場の熱気にあおられるように、自然と声も拳も上がりだす。
ここからがBRAHMANのライヴの真骨頂とも言うべき流れとなり、『A MAN OF THE WORLD』『A FORLORN HOPE』『THE MIDDLE WAY』のアルバムに収録された全曲を、シャッフルして矢継ぎ早に繰り出すモードへと移行。疾走キラーの連発でさらにエネルギッシュなパフォーマンスになると、もう完全に我慢の限界を迎える。
今まで定位置としていたブロックの最前から離れて、後方に生まれたモッシュピットに加わることにしました。こちとらBRAHMANのライヴは暴れたくて来てるんだ!最前で観られる景色はもう十分堪能した!ここからは肉弾戦じゃ!!
「SEE OFF」で一層激しさを増すピットに突っ込み、この日初の本格的なモッシュに参加。もうこの時点でかなり立ちっぱなしの状態が続いており、体力はだいぶ削られていたはずなのですが、BRAHMANの楽曲を爆音で聴いていると、アドレナリンが爆発するからか、普通に体が元気に動くんですよね。最高っした。
正直、ここからは各曲ごとにあまり細かく覚えてはいないんですよ。モッシュピットで息も絶え絶えになりながらも、シンガロングパートをともに叫び、怒涛の楽曲の流れに身を任せる。何かしら脳内麻薬的なものが分泌されてたんでしょうね。極限状態でありながら、快楽とすら言えるような、不可思議な状態に陥っていました。
これはおそらく他のバンドのライヴではなかなか起こりえなかっただろうな。今までどのアーティストよりも夢中になって聴き、何度も感動させてもらったバンドのライヴという環境、それだからこそ最後まで没頭し続けることができたんだと思います。
この辺になってくるとバンドの演奏も丁寧さを欠いていて、明らかにギターのチューニングが合ってないと思われる個所もあるし、ややリズム感がズレているように思えるときもあったんです。しかし、そんな状況下にあってもバンドは演奏をやめないし、聴いている我々オーディエンスも、体を動かすことをやめない。どれだけ疲れていてもやめたいとすら思えない。
この限界を超えんばかりの人間たちが織りなす、この会場にいた人にしかわからないような感覚。「PLACEBO」を歌い終えた後のTOSHI-LOWさんの笑顔を見て、彼も似たような感覚を覚えていたのだろうか、と思いました。
「生きてるか!?ラスト!TONGFARR!」と、BRAHMAN最初期の楽曲名を叫ぶTOSHI-LOWさんに呼応して、割れんばかりの拍手喝采。とうとう4時間にもおよぶライヴにも終わりが訪れます。BRAHMANをBRAHMANたらしめる、エキゾチックな旋律が際立つ曲がラストナンバー。これ以上ふさわしい幕引きはないでしょう。
ようやく終わる…という安堵感と、夢のような時間が終わってしまう…という名残惜しさで胸がいっぱいになりながら、ステージ上の4人の姿を見つめる。ラストにかけて徐々にスピードを上げていく展開を噛み締めながら、ようやくフィナーレへ。
しかし、何やらステージ上ではRONZIさんが立って指示出しをするようにメンバーに声を掛け、まだこれから何かがあるかのような素振りを見せる。「まだやんの!?」とでも言いたげなTOSHI-LOWさんの笑顔が印象的。
そして小刻みなベースラインによるイントロが流れれば、次に登場する曲はすぐにわかる。初期のカバー曲「FLYING SAUCER」。まさかの選曲ではありますが、どこかクセになるメロディーが疾走する様は、ひたすらストイックに研ぎ澄まされた現在のBRAHMANにはなかなかない魅力がある。
そしてそこから、ダメ押しの「BEYOND THE MOUNTAIN」、そしてBRAHMAN最初の音源である『grope our way』の始まりを告げる「ARTMAN」が正真正銘のラスト。4時間以上のライヴの最後だというのに、まるで今始まったかと言わんばかりにモッシュの勢いは高まり、その波に揉まれる形で、僕も全力で体を躍動させる。この辺はもはや肉体の疲れを無視して、精神力のみで動いていた感じです。
最後の「ARTMAN」にて、"Go! And! Stop!"のシンガロング、余韻なんざ知らんとばかりにマイクスタンドを叩きつける衝撃の幕切れ。喉が裂けてもいいくらいの気持ちで叫んでいた僕は、ここで感情がカンスト。メンバーが立ち去った瞬間、BRAHMANというバンドに対する気持ちが爆発してしまい、自然と目に涙が溜まり、油断すると嗚咽してしまうのではというほどに追い込まれていました(周りに変に思われないよう、声を抑えるのが大変だった...)
ステージバックのスクリーンにはエンドロールが流れ、涙を堪えつつそれを見守る。この日演奏された曲目が、延々と流れていく様を見て「これ、今日全部聴けたんだよな...」と、改めてこの日のライヴがいかに異常なものであったのかを実感しました。
そして最後に73曲目(実際は76曲目だけど)の楽曲として「順風満帆」の文字が。来年発表となる待望の、マジで待望のニューアルバム『viraha』より、先行シングルとしてMVが本邦初公開。BRAHMANらしいオリエンタルな響きのギターを目立たせつつ、ハードコアとしての勢いよりも、深淵な世界観を描くような曲調。
感傷的な気分になっていたのも束の間、新曲MVにアルバム発表、それに伴うツアーの開催というニュースにより、もう早速これからのBRAHMANの動きが楽しみになってきました。そんな期待感を胸に、しばらく会場内に立ち尽くし余韻を味わった後、4時間の凄絶なライヴが行われた空間を去ることに。
今回の六梵全書に参加してみて、改めて僕にとってBRAHMANは、単なる「好きなバンド」の域を超えた存在であることがわかりました(だいぶ前からわかってたけどね) 思えば東日本大震災以降、彼らの存在が強く引っかかるようになり、それ以来シングルもアルバムも、ずっと聴き続けてきました。
僕の人生なんて、大したダイナミックさはないとはいえ、それなりに山やら谷やらはあったわけで、そんな人生のサウンドトラックとして、どんな時でも支えになってくれたのがBRAHMANが生み出してきた音楽。
そんなサウンドトラックに収録されている楽曲のほぼ全てを、派手な演出も、余計な装飾も、言葉も徹底的に省き、ただひたすらに爆音で掻き鳴らしたこの時間。結成から30年を経て、一切の妥協がない正真正銘、全力のBRAHMANをぶつけてくれた。
もう「感動した」とか、「最高だった」とか、そういう言葉では語りきれません。ただBRAHMANが好きで、今まで聴き続けてきて、そしてこの場にいられて本当によかった。僕が死ぬ時、走馬灯でこの日の景色を見たい。
素晴らしい30年の節目となったライヴでしたが、来年2月にはニューアルバムも出るし、それに伴うツアーもある。30周年記念プロジェクトの尽未来祭もある。彼らにとってはこのライヴですら通過点なんでしょうね。まだまだこのバンドとの付き合いは続きそうです。