- 前作からさらにメロデス的慟哭を減退
- クリーンヴォーカルと古典的メタルギターが一層強まる
- エクストリームなキラーチューンは変わらず破壊力抜群!
本作のライナーノーツに、ギタリストのマイケル・アモットが「どんなものでも変化は起こる」と言っていたことが記載されています。
それは10年近くにわたってツインギターの片割れを担ってきた、ジェフ・ルーミスの脱退に対して言及されていたものですが、本作においては、そんなメンバーチェンジだけでなく、音楽性の面においても確かな変化を感じさせるなと思いました。
日本のメタルシーンにおいて、海外エクストリームメタルの中ではトップクラスの人気を誇る、ARCH ENEMYの12作目となるフルアルバム。前作『Deceivers』より2年半という順当なペースでリリースされました。
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前述した通り、前作からジェフ・ルーミスが脱退しており、後任として1990年生まれの若手であるジョーイ・コンセプシオンが加入、幾分かフレッシュになった布陣になっています。
メンバーチェンジを経ても、このバンドの核はマイケルなので、音楽性が大きく様変わりすることはない...のですが、ここ近作で少しずつ感じられていた変化については、より一層磨きがかかったように感じられます。
本作で聴ける楽曲は、アリッサ・ホワイト・グルーズによる獰猛なシャウトヴォーカル、畳み掛けるヘヴィリフと、ここぞというところで飛び出すマイケルのリードギターと、ARCH ENEMYの美学をちゃんと体現する音楽にはなっています。そこがブレることはまったくない。
ただ、いわゆる"メロディックデスメタル"というジャンルに期待されるような、慟哭の叙情ギターの割合はさらに減少、ザクザクとした古典的ヘヴィメタルの快感を増強したリフ、アリッサの見事なクリーンヴォーカルの主張が、前作からさらにもう一歩押し進められています。シャープで研ぎ澄まされた音質の効果もあり、いよいよメロディックデスメタルという呼称が不釣り合いになってきてる(CDのパッケージ内の装飾はかなりデスメタルチックだけど)
サビによるクリーンヴォーカルの歌い上げがインパクトを放つM2「Illuminate The Path」や、フランスのBLASPHEMEというバンドのカバーで、ほぼ全編クリーンという手法を取り入れたM9「Vivre Libre」あたりは、今までのARCH ENEMYでは見られなかった変化のわかりやすい例です。
他の楽曲も基本的にはアグレッションを強調しつつ、ヘヴィメタルらしい切れ味鋭いリフワークで進み行くエクストリームナンバーが多数を占める作風で、メロデスらしい叙情リフで泣かせたり、リードギターが歌うように舞ったりという要素は希薄。非常にストロングな印象を抱かせるメタル。
これはもうメロデスというより、トゥルーパーエンターテインメントの国内盤帯に記載された"アグレッシヴ・ヘヴィ・メタル・バンド"という名称が似合うかも。前作を聴いた時もそう感じましたけど、本作はではもっと。
雑誌ヘドバンにて、CARCASSの最新作『Torn Arteries』を"エクストリーム・ハードロック"と形容しているのを見た記憶がありますが、本作はさしずめ"エクストリーム・正統派メタル"といった感じかな(「エクストリームなのか正統派なのかどっちなんだ」というツッコミはやめてね。フィーリングで理解ってくれい)
ただまあ、やっぱりマイケルお得意のリードギターこそがARCH ENEMYの最大のポイントであることは間違いなく、なんだかんだ言ってM4「A Million Suns」みたいな曲が一番気に入っちゃいますけどね。サビ裏で雄大鳴り響くリードも、終盤にかけて駆け抜けるソロも、どちらも劇的でたまらん。
シャウトヴォーカル以外は正統派メタルと言ってしまえるほどに、メタリックなバンドサウンドで魅せるM8「Paper Tiger」や、哀愁ダダ漏れのギターがサビで唸りを上げるM10「The Pendulum」、クリーンヴォーカルのサビと、強烈な勢いで疾走するヘヴィサウンドが、アグレッシヴ・ヘヴィ・メタルの名に相応しいM11「Liars & Thieves」など、キメとなる曲のクオリティーは相変わらず高い。
メンバーが変わろうが、方向性が変わろうが、ヘヴィメタルとしてのカッコよさとダイナミズムは全く削がれないあたり、このバンドのセンスが改めて浮き彫りになってます。
激情のメロデスと無機質なエクストリームサウンドが完璧に融合した「Enemy Within」や、身悶えするほどの激情リードギターソロを聴かせる「Fields Of Desolation」のような、過去のキラーチューンを恋しく思う気持ちがないわけではないですが、よりヘヴィメタルらしい色が濃くなった本作のスタイルもまた、有無を言わせぬ説得力を秘めたヘヴィメタル・アルバムと言えるでしょう。やはりこのバンドはモノが違う!
個人的に本作は
"クリーンヴォーカルと伝統的なメタルリフによる主張がさらに強くなった。充分にエクストリームながらも、メロデスらしさはより希薄に"
という感じです。