- クリーンヴォーカル、正統派メタルの要素を大幅増強
- 狂乱の疾走感とメタルコアらしいアグレッションも完備
- ヘヴィな中に光る悲哀の叙情性が魅力
もういっちょ00年代のメタルコアの名盤について書きます。今自分の中でプチメタルコアブームが来てるのですよ。
押しも押されもせぬメタルコアの帝王として君臨する、AS I LAY DYINGが2007年に発表したフルレンス。Billboard 200にて8位というスマッシュヒットを記録した名盤です。本作から長年ベースとクリーンヴォーカルを担当していたジョシュ・ギルバートが参加しています(大変残念ながら現在は脱退...)。
プロデューサーにKILLSWITCH ENGAGEのアダム・デュトキエヴィッチ、サウンドのミックスにSlipknotやMACHINE HEADを担当するコリン・リチャードソンを起用したという本作、ヘヴィなメタルコアとしての方向性はそのままに、かなり普遍的なヘヴィメタルとしての魅力を備えているところがまず美点。
それを端的に伝えてくれる名曲が、イントロから続くM2「Nothing Left」。メタルコアとしての凶悪な咆哮こそあれど、ハードコアモッシュ誘発のリズム落ちパート以上に、正統派メタルとしてのリフワークが支配的なミドル曲です。この曲で幕を開けることで、メタルコアの"コア"よりも、"メタル"としてのカラーが強く表出しているように感じます。
さらにジョシュによるクリーンヴォーカルの割合がかなり大きいのも特徴ですね。明確にメロディックなサビを持つ楽曲が増えています。
クリーンを増やしたことにより、エクストリームメタルのファンからは不評を買いそうなものですが、クリーンによるメロディアスさも決してポップなものではありません。むしろメタルに必要なメランコリックな質感を強く湛えており、デスヴォイスのみでは表現できない悲哀の感情表現に成功しているように思います。
タイトルトラックのM3「An Ocean Between Us」やM5「Forsaken」、M9「The Sound Of Truth」なんかはその方向性をわかりやすく示している楽曲。メタルコアらしいヘヴィさとシャウトで狂乱しつつ、メタルらしいリフとメロディアスさにも酔いしれることができる。M9の極めて叙情的なギターがまた良いんだな...
しかし必ずしも全曲メロディー志向になったかと言われればそうではなく、M4「Within Destruction」や、M8「Bury Us All」といった楽曲は、「さあサークルピットを生み出せ!」と言わんばかりの激速デスラッシュナンバーでかなり熱い!タカが外れたように疾駆するザクザクのリフに、怒号のごときティム・ランペシスのヴォーカルは、聴き手のテンションを限界まで底上げしてくれる。
叩きつけるかのような破壊力を提供するドラムの連打に圧倒されるM6「Comfort Betrays」に、いきなり狂ったかのようなヴォーカルワークで畳み掛け、そのアグレッションが決して休まることのないM11「Wrath Upon Ourselves」の狂気度の高さは、どれだけメロディックになろうとも、メタルコアとしてヤワな存在にならない証明としてふさわしいです。
伝統的ヘヴィメタルとしての要素、メロウなクリーンヴォーカルを息づかせながら、メタルコアとしての凶暴性を決して落とさない、楽曲制作のバランス感覚にただただ驚かされるばかりの力作。
このバンドの「哀愁のセンスが光るメロディーを武器にしつつ、かつメタルコアらしいアグレッションを同居させる」というスタンスは、最新作にして最高傑作である『Shaped By Fire』でも踏襲されており、10年以上(途中活動休止してましたけど)その優れた作曲センスを保つこのバンドの実力はただごとではないなと。やはりシーンのトップになるべくしてなったんだな。
個人的に本作は
"正統的なメロディックメタル要素を増量し、メタルコアとしてのアグレッションも落とさず両立させた名盤。コアなサウンドの中に光る悲哀の感情表現が素晴らしい"
という感じです。