- 「Never Meant」を代表としたホロリと泣ける叙情エモ
- クリーントーン主体のギターと、優しげなヴォーカルで統一
- パンク/ハードコア的要素は全くと言っていいほど無し
先日のHER NAME IN BLOODの再結成取りやめの件を受けて書いたブログ記事、ありがたい事にと言うべきか、悲しい事にというべきか、このブログのアクセス数ランキングを、4年前のバンド解散記事と一緒にワンツーフィニッシュを飾ってます。
いや、もちろんたくさんアクセスしてくれるのはありがたいんですよ?でも、こんなネガティヴな気持ち100%の記事が、ランキングの1位と2位のポジションに堂々と居座られちゃね、こっちとしてもビミョーな心境なんですよ。これじゃ良くないと思うんですよアタクシは。
そんな訳で、これらの記事をさっさと過去の遺物として流すべく、CD感想記事をあげようと思い立ちましてね。それも、ささくれだった僕の気持ちを綺麗に洗い流してくれそうな、美しいアルバムを取り上げたいんですよ。
アメリカはイリノイ州出身のエモ/ポストロックバンド・American Footballの1stアルバム。「エモの名盤といえば?」という話題になったら、大抵本作の名前が挙げられるほど、このジャンルを代表するアルバムとして有名なのだとか。
1999年、まだメンバーが大学生だった時期にリリースされたのですが、そこから1年を待たずして特に大きなライヴをやることもなくバンドは解散。再結成には14年ほどの歳月を要し、そこからは日本も含めて海外ツアーを敢行するようになった経緯をたどっています。
そんな解散直前に作られた本作、収録されている音は非常にソフトなもの。エモは本来ハードコアパンクから派生していったジャンルのはずですが、ハードで荒々しいリフだとか、感情の発露を叫びに乗せるヴォーカルとか、つんのめるような爆走とか、そういった要素は皆無。ギターはクリーントーン主体で柔らかなアルペジオを紡ぎ、ヴォーカルは常に語りかけるように、しっとりと歌い上げる。
もはやハードコアはおろかロックですら怪しいレベルでおとなしくて、少なくとも気持ちをアゲるような効果は一切期待できないと言っていいでしょう。
では本作の何が優れているかというと、泣ける叙情性、これに尽きるかと。
音楽において「泣ける」という要素は、悲劇的なまでの歌メロだとか、慟哭の旋律を奏でるリードギターとか、そういうのが浮かびがちですが、本作のそれは派手なものではなく、もっと優しく柔らかく、切なくもどこか温かい。号泣ではなくホロリとする、そんな感覚。
M1「Never Meant」は、そんな彼らの音楽性を端的に示した楽曲で、柔らかなギターとヴォーカルのコンビネーションは、触れたら壊れてしまいそうなほどの儚い美しさを醸し出しています。この曲はエモというジャンルを代表する名曲として、長きにわたって愛され続けているらしい。
僕としても本作収録曲の中ではコレが一番好きですが、頭ひとつ抜きん出たというような印象はあまりなく、他の曲たちも決して引けを取らぬ叙情美メロディーを備えていると思います。
徐々に光が差し込んでくるかのような、どこか幻想的なムードを漂わせるM3「Honestly?」に、そのままの流れでしっとり濡れた哀愁を描くトランペットが心地よいM4「For Sure.」に至っていく過程で、すでにこちらの心は透き通った水で丁寧に洗われたかのよう。延々と続くかのようなあまりにも美しいアルペジオを聴かせるM8「Stay Home」も素敵すぎ。
アルバム全編、優しくクリアな叙情エモで統一されているので、ロックのアルバムとして聴く分には少々イージーリスニングっぽすぎてしまうのですが、どんな荒んだ心だって、優しく包んでくれるように染み渡るサウンドがとっても心地いいです。「慟哭メロデス的泣き」はもちろん最高ですが、たまにはこういう「叙情美エモ泣き」も心身の健康に良いですね。ハーネーム復活中断で受けた傷も癒えていくのさ...
ちなみにこのバンド、今までリリースしてきた3枚のフルアルバムは全てセルフタイトルで統一されているんですよね。
バンド名と同じ名前のアルバムを複数出すという点では、同じく泣けるロックとして有名なweezerがいますが、あちらがブルーアルバムとかグリーンアルバムとか、ジャケットの色で見分けやすいのに対して、このバンドはジャケの雰囲気が似てるんですよね。このせいでアルバム買う時「1stってこれで良いんだよな...?」とちょっと迷いましたよ(笑)
個人的に本作は
"ロックとしての激しさは皆無。ホロリと泣ける美しい叙情性に特化した、美エモの決定盤"
という感じです。