- 本作を以ってメタルコアから脱却
- 感情に訴えかけるヴォーカルと壮大な演奏の組み合わせ
- ライヴ定番の超名曲を収録
ロックが変わる、BMTHが変える
本作の帯に記載されているフレーズです。
2015年にリリースされたBRING ME THE HORIZONの5thフルアルバム『That's The Spirit』。本作はこのフレーズが示す通り、バンドのスタイルにおいて大きな変化をもたらした作品です。
いや、1st〜4thに至るまでも、作品ごとに変化を取り入れてきたバンドなので、スタイルが変わった事自体は彼らにとってのいつも通りなのかも。ただ、本作における変化の振れ幅は、過去作におけるそれとは比じゃないレベル。
本作は"メタル"ではありません。前作『Sempiternal』の時点で、すでにメタルコアというジャンルからの脱却を図っている節がありましたが、まだ「The House Of Wolves」「Shadow Moses」といったヘヴィリフを主軸に組み立てる曲があり、メタルコアとしての体裁は保っていました(だいぶ離れてた気もするけど)
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翻って本作はというと、透明感ある叙情キーボードの存在感がさらに増し、メタルコア的リフの攻撃性は大きく減退。オリヴァーのヴォーカルは、シャウトから歌への比重が一気に増大、ポップなメロディーに、エフェクトがかかったコーラスの存在と相まって、歌重視のオルタナティヴUKロックへと変貌を遂げました。
リアルタイムで彼らを聴いてた人はどんな反応だったんでしょうね。前作の時点ではまだついていこうかと思ってた人たちも、さすがにここまでくると「あ、もう俺向けのコンテンツじゃねえな」と見限った人も多かったのでしょうねきっと。一つのバンドがここまで開き直ったようにスタイルを変える例って、なかなか無いと思います。特にメタルのような「型」が重視されるジャンルならなおさら。
まあ僕は完全に後追いなので、大幅な変化を知った上で聴いたために、特に失望感とは無縁で向き合う事ができましたが。
さて、そんな本作についての僕の感想はというと、率直に言って良いアルバムだなと。過去作と比べて良いかというと微妙なとこですけど、少なくともキャッチーなロックアルバムとして、質は非常に高いと思います。
オルタナティヴロックへと転向したとはいえど、元々叙情性の演出にはセンスのあったバンド。さらに感情表現が巧みになったヴォーカル、美しいという形容が似合うバンドサウンドと合わせて、フックあるメロディーが強力に響いてくる。
その最たる例がM3「Throne」でしょう。スタジアムロックにもなれるほどのスケールを感じさせるコーラスを軸に、ドラマチックなヴォーカルと壮大な演奏で魅せる、本作屈指の超名曲。イントロのキーボードが鳴った時点でゾクゾクとさせられます。
M3と同様にライヴ終盤の定番となっているM8「Drown」も、大観衆のシンガロングを誘発するパワーを持った壮大なキラーバラードと言える曲だし、チアリーダーの発声のような"S・P・I・R・I・T!"の掛け声がインパクト大なM2「Happy Song」、しっとりと染み入る叙情性がとことん美しいM5「Follow You」、空間を煌めくように彩るアレンジが光るM7「Avalanche」と、これまでできなかった表現が随所に活きている。
ラストのM11「Oh No」は、初聴の時は「アルバムの締めにしては地味だな」と思ったものですが、聴いてくうちにヴォーカルメロディーのほんのり切ないフックが心に引っ掛かってきて、聴き終わりの心情をより温かく、心地よいものにしてくれました。
もはやメタルの領域では語れなくなってしまったアルバムですが、この壮大なスケールを描く楽曲群の魅力を用いて、失った以上のファンを獲得。本作は各国のチャートで軒並み上位にランクインするほどの成功を収めたようです。
ここに来てBRING ME THE HORIZONは、「イギリスを代表するロックバンド」に到達したんですね。
個人的に本作は
"メタルコア要素をほぼ完全に払拭。それに引き換えに得たエモーショナルなメロディーと、美しく壮大なアレンジが魅力"
という感じです。
本作を語る上でまずはこれ。名曲!