- 冬をテーマとした煌めくポップな旋律
- ヴォーカル意外ブラックメタルらしさはほぼ消失
- J-POPかメタルかといった分類はもはや不要
9月に入ってきて多少暑さもマシになってきてはいる感じですが、それでもまだまだ厳しい残暑が続いている昨今、いかがお過ごしでしょうか。
外を出歩いているとやっぱり汗はダラダラになるし、自分が今住んでいる家は造りの問題なのか、過ごしやすくなる夜の時間帯でも普通に暑いんですよね。ふざけんなよ。
そんな気候なら、やはり暑苦しい音楽よりも、スッと体に染み渡るような気持ちいい音楽を聴いてみたいもの。そこで本日取り上げるのが、国内ポストブラックメタルバンド・明日の叙景の最新作です。ジャケからしてもうすでに涼しげですね(リリースされたのは真夏だけど)
メタルシーンに大きな話題を振りまいた前作フル『アイランド』は夏をテーマにした作品で、そのコンセプト通りに日本の夏の情景を思い起こさせるようなサウンドでしたが、翻って本作は"冬" "教会" "天使"をモチーフにしたとのこと。アー写とM8「ツェッペリン」のMVは、1月に北海道まで行って撮影したらしい。
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"君が笑ってくれるなら、僕はJPOPにもメタルにもなる"というキャッチコピーからもわかる通り、本作もまた前作同様メタリックなサウンドにJ-POP的なキャッチーさを大きく導入した作品になっています。ただ、受ける印象としてはまったく同じものではありません。
前述のキャッチコピーにて「ブラックメタル」ではなく、たんに「メタル」と記しているように、十分にポップだった前作からさらにブラックメタル的な退廃的な雰囲気や、ヒリついた緊張感、禍々しいオーラが希薄に...というか、ほぼ無くなったと言っていいかも。本当に爽やかでポップ、そして切なさに満ちたメロディアスさが全面に出ているんです。もはやブラックメタルらしいのは、金切り声に終始したシャウトヴォーカルのみかもしれません。
M4「天使」における曲中のブラストビート、M5「ドグマ」のどこか怪しげで仄暗いイントロとかには、まだポストブラックメタルとしてのサウンドの残り香がありますね。ただ、本当に一部にあるってくらいで、全体としてはヴォーカルを除いたバンドアンサンブルは、普通にJ-POP/ROCKとして聴けるレベルくらいに耳に馴染みやすくなっている(もちろん細かいところで工夫を凝らして、ただの伴奏にならないようにしてはいると思いますが)
ギターをはじめとする演奏がメタリックで、それでいてJ-POPとして違和感なくメロディーが息づいている、というスタイルはどこか9mm Parabellum Bulletを彷彿とさせます。激ロックのインタビューではインタビュアーの方が「9mmの『Movement』を連想した」と言っていました。確かにそう言われてみれば、演奏自体はバリバリにメタルの息吹を感じるけれど、より雑味が無くなりJ-ROCK然とした音に近づいた『Movement』の作風には通じるものがあるなぁと。
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個人的に一番気に入ったのはM7「別れ霜」。あまりにポップで、どこか切なく、冬の情景を思わせるような煌めき溢れるメロディーを、曲中ずっとギターが歌い続けている楽曲で、下手なメロデスをはるかに上回るほどに、グッドメロディーの乱舞が味わえます。マジでずっとギターが歌ってるんですよ。
ポップなメロディーの質を前作からさらに底上げしたことが、聴いた瞬間わかるM3「マジックアワー」と、本作のテーマをダイレクトに表すM4「天使」へと続く流れも良いし、ラストを飾るM9「明日は君の風が吹く」の聴後感は、本当にヘヴィメタルのアルバムを聴いたのか?と思うほどに爽やかで美しく、希望に溢れている。
前作からさらにJ-POPとしての澱みなく聴きやすいメロディーが増量され、もはやブラックメタルとしてのジャンル分けがどうでもよくなるほどに聴きやすくなった本作。明日の叙景にブラックメタルらしさを求めている人(今そんな人がいるのかは知らんけど)の評価はどうなるか不明ですが、僕は好きです、こういうポップでちょっと切なくて聴きやすい楽曲群。
もちろんギターをはじめとして、サウンドはメタリックに磨かれているし、ヴォーカルはほとんどが金切スクリームなので、メタルやブラックゲイズとしての矜持はちゃんとブレずに持ち続けているのもわかります。もはやJ-POPなのかメタルなのかといった分類は不要で、明日の叙景ならではのメタルを確立したと言っていい。
個人的に本作は
"シャウトとポストメタルサウンドを軸に、前作以上にポップに振り切ったメロディーを取り入れた、他には無いJ-POPメタル"
という感じです。