- 超名盤の前作からさらに深化
- 演奏の密度と強靭なヴォーカルは順当にレベルアップ
- 複雑かつ難解、良くも悪くもアートとして頭抜けた完成度
前回でDIR EN GREY世紀の傑作『UROBOROS』について書いたので、それと双璧をなす名盤についても取り上げないとな、と思いまして。『UROBOROS』から2年強を置いて、2011年に発表された8thフルアルバム。
前作にて極めてヘヴィで陰鬱、そんな中に悲しい美を詰めた傑作を生み出すことに成功した彼らですが、本作においては、さらにそこから音楽性をアーティスティックに、複雑に深化させる道を選びました。決してとっつきやすいとは言えない内容だった前作に輪をかけて聴き込むハードルは高め。
何せイントロのM1「狂骨の鳴り」は、異様に重く、暗く、バックには不気味な叫び声も聞け、ピアノによる不協和音も登場するなど、リスナーを不安に陥れるのが目的なのかと言わんばかりで、そこから続く実質的オープニングトラックM2「THE BLOSSOMING BEELZEBUB」(ベルゼブブと聞くと、どうしてもアザゼルさんの友達のペンギンを思い出す)は曲展開にあまり起伏を設けず、ひたすらにズルズル薄気味悪く進んでいくナンバー。
ロックアルバムの幕開けといえば、普通はエンジンをかけるために勢いのある曲で始まるのがセオリーのはず。それと完全に対極に位置するスタートを切る彼らは、やはりリスナーフレンドリーとは程遠い(笑)
ホイッスルヴォイスによるシャウトや、激しく捲し立てる金切り声もさらに増量。M5「「欲巣にDREAMBOX」あるいは成熟の理念と冷たい雨」やM6「獣慾」、M11「DECAYED CROW」といった曲で、ブチギレまくった狂気の叫びに存分に耳をつんざかれることができます。特にM5は前作収録曲の「RED SOIL」のインパクトにすら負けてないキチガイっぷり。
そんなヴォーカル面の向上に負けないほど、バンドサウンドのまとまりも順当にレベルアップ。特にToshiyaさんのベースプレイがかなり前面に出てきていて、低音部の説得力が増しているのが、ヘヴィロックとして非常に好ましい変化ですね。
彼ららしい気高きメロディーセンスもそこかしこで活きている。シングルとなったM3「DIFFERENT SENSE」、M12「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」は、彼らの王道を行くキラーチューン。スラップベースを目立たせたクセのあるM4「AMON」のような曲でも、サビにおいて壮大なスケールを感じさせるメロディーを聴かせてくれるのが美点ですね。
その一方で、9分近い大作であるM9「DIABOLOS」は、さすがに前作のリードトラックである「VINUSHKA」ほどの圧倒的存在感には至らず、バラード曲のメロディーも強く印象に残るほどのものでもなかったかな。この辺はやはり前作に比べ難解になり過ぎてしまった感は拭えません。
演奏の密度や濃厚な世界観など、アート作品としての完成度においては前作を凌駕し、DIR EN GREYのアルバムにおいてもトップクラスのレベルに君臨する作品になったのは間違いないと思います。シングル表題曲をはじめとするキラーチューンの存在感もあり、充分に名盤・力作と称するにあまりあるアルバムです。
しかしやはり何度も言うように、ちょっと作品としての完成度を突き詰めまくった結果、だいぶとっつきづらい作風になったことは事実。こう考えると、いかに『UROBOROS』が美しく普遍的な表現と、深淵かつ難解な表現のバランスが奇跡的だったかが伺えます。
まあ前作が超名盤だったから、その比較でうんぬん言いたくなってしまうものの、本作が国内ヘヴィロック界において、最高峰の充実度を誇る名盤である事実は揺るぎない。
個人的に本作は
"過去最高に不気味に、ヘヴィに、難解に深化させた、DIR EN GREY最高峰の音楽的完成度。良くも悪くも聴くハードルは高い"
という感じです。