- 初聴きのインパクトは従来作に劣るかも
- 染み入るように伝わる哀愁のメロディーが魅力
- ハード・テクニカル・ダサい要素は全体的に控えめ
結成20年目を迎えた9mm Parabellum Bulletの、記念すべき10枚目のフルアルバム。20年で10枚とは、かなりコンスタントにリリースを重ねてきたのがよくわかります。
このバンドのアルバムは、どれも単一の作品としての完成度は軒並み高く、好みの差はあれど期待を超えてこないようなものは1枚も無い。日本のロックシーンにおいて希少な実力派バンドであり、僕も長いこと愛聴させてもらっています。
2017年発表の傑作『BABEL』以降、作詞卓郎さん・作曲滝さんの制作体制が固まっており、非常に安定したクオリティーのアルバムを連投中。本作もその流れを汲んだ形で作られているので、安心の完成度......と言いたいところなのですが。
正直なところ、最初に本作を聴いた印象としては、ぶっちゃけイマイチでした。「あれ、期待してた割にこんなもん?」みたいな。
もちろんこれまで貫いてきた9mmらしさが損なわれたことはない。しっかり歪ませたハードなサウンドの迫力はあるし、マイナー調の歌を卓郎さんの独特な声質のヴォーカルで彩る、9mmの基本線はこれまで通りです。
しかしどうも第一印象がパッとしませんでした。メタリックにバリバリと弾き倒すギターソロはほぼ皆無だし、疾走キラーと呼べる曲は先行シングルのM10「Brand New Day」くらいのもの。M4「カタルシス」も疾走曲ではあるけれど、どちらかというと不穏なメロウさを強調した曲であり、痛快さを押し出したタイプではないし。
さらに9mmの真骨頂である、歌謡曲的なダサいメロディーもほとんど姿を消している。「ダッサ!」と思いつつ絶妙にクセになってしまう、コテコテの旋律や展開が無いため、メタリックな疾走感の大幅な減退も相まって、どうにもノーマルなJ-ROCKに接近してしまったような作品に。
「こりゃ、初めて期待を超えてこないアルバムになっちゃったか...」と、聴いた当初はちょっと肩を落としました。
しかし、何度か聴いてくうちに、本作全体に漂う哀愁のメロディーがジワジワ染み込んでくるようにハマってくる感覚に気づく。やはり歌謡曲っぽさがなくなったとしても、彼らの(というか滝さんの)哀メロクリエイターとしてのセンスは非凡なものがあるなと。
これまでのアルバムもそうでしたが、歌メロにしろギターフレーズにしろ、ポップで明るいフィーリングをほぼ廃し、哀愁にこだわった仄暗さ、泣きの要素がてんこ盛り。今の日本のメジャーシーンにおいて、邦楽ロックにカテゴライズされるバンドで、チャラくもポップにもならず、ここまで哀愁叙情路線を徹底してくれる存在って他にいくつあるんでしょ?
キレのあるギターが暴れるM1「Baby, Please Burn Out」や、ハード&アップテンポなサウンドに独特な詞世界が詰まったM3「Mr. Foolの末路」のような曲は、アッパーな9mmの王道と言えるし、M7「それは魔法」〜M8「Domino Domino」のミドルチューンの連続では、それぞれしっとりした哀愁、怪しさと胡散臭さが耳引くフックになっている。
中でも歌メロの切なさが強く際立つのがM9「新月になれば」。サビの張り上げるようなヴォーカル、メロディアスさを重視した中盤のギターソロ、ラスサビ前の落ち着いたパートにいたるまで、その全てが哀愁バリバリで、実にエモーショナルな名曲に仕上がっています。前述したM11と並んで、本作中特に気に入ってます。
...とまあこんな感じで、聴き込むうちに魅力が染み入るオトナな9mmと言うべき良作にはなってますが、やっぱ過去作と比べると地味めであることは事実かなあ。「こういうカラーのアルバムも良いね」とは思いますが、これからずっとこの路線になると少々寂しい。
20年のキャリアを誇るバンドなだけに、本作のようなオトナなロックサウンドも充分にサマになってはいるんですけどね。やはり彼らには未だにダサくて、テクニカルで、メタリック&ハードコアなサウンドを望んでしまうのです。
個人的に本作は
"わかりやすい疾走感、メタルらしいテクニカルさ、歌謡曲的ダサさが全体的に減退。地味な印象は拭えないけど、哀愁のセンスはまだまだ抜群"
という感じです。