ひとりごと ~Music & Life-Style~

HR/HMを中心としたCD感想、足を運んだライヴの感想をメインにひとりごとをブツブツつぶやくブログです。

GASTUNK 『VINTAGE SPIRIT, THE FACT』

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  • 33年ぶりのリヴィングレジェンド
  • ハードコアやメタルそれそのものとは距離がある
  • 豊かな曲調と怪しく混沌としたムードが同居

 

ジャパニーズハードコアという枠組みを超えて、X JAPANやL'Arc〜en〜Ciel、黒夢といった大物にまでその影響を及ぼす、伝説的バンドGASTUNK。彼らが活動していた頃は生まれていない自分ですら、数々のミュージシャンからリスペクトを集めるすごいバンドだということは事実として知っていました。

 

そんなバンドが2010年に発表したシングル以来11年ぶり、オリジナルアルバムとしてはなんと33年ぶりというニューアルバムをリリースしました。

 

33年

改めて見て、すごい年月が経っているんだな〜と。ちょいちょいライヴ活動はしていたとはいえ、これだけの期間アルバムをリリースしなかった重鎮と呼べるバンドのアルバムを、まさかリアルタイムで買う機会が巡ってくるとは思ってませんでしたよ。

 

GASTUNKはあまり過去の音源を熱心に聴いてきたバンドというわけではなく(1stの『DEAD SONG』と2ndの『UNDER THE SUN』くらい)、彼らが全部新曲のアルバムを出すとなると、一体どんな音楽になるのか、いまいち想像がつかなかったというのが本音。初期のようなハードコアパンクで爆走するのか、ヘヴィさとタイトさを押し出したメタリックな作風になるのか。リヴィングレジェンドのニューアルバムという期待感を持ちつつ聴いてみました。

 

そして一通り聴いてみて、ちょっと意外というか、悪い言い方をすると「少しばかり肩透かし喰らった」というのが最初の感想。「あれ?こういう感じでくるの...?」みたいな。

 

ヘヴィさはほとんどなく、とてもじゃないけどメタリックと呼べるものではない。ハードコアパンクらしい爆走っぷり、グシャッと歪んだバンドサウンドもほとんどない(まったくないというわけではない)。本当に精神をヤラれてしまっているのではないか...と思わせるほどの、BAKIさんの狂った叫び声も全く聴かれず、終始真っ当な歌を響かせる。

 

曲によっては完全に歌モノバラードと言えるものまであるなど、少なくともメタル・ハードコアではありません。コアな要素を交えたハードロック寄りの音楽は、想定したものとはだいぶ大きい距離がある。正直1回2回聴いただけの段階では、「変に期待しすぎたかな...」と思ったものです。

 

ただやはりこのバンドの作り出す音楽には、普通のロックバンドにはない独自の魅力があるんでしょうね。何回も繰り返して聴いていくうちに、自然と底無し沼に飲み込まれていくかのように、本作の楽曲に聴き入ってしまっていました。

 

民族音楽のようなムードに神秘性を感じさせるM1「Black Forest」から静かに始まり、徐々にせり上がってくるようなリズムで緊迫感を高めていくM2「Seventh Heavens Door」のコーラスが、意識を少しずつ侵食していく。ハードコアな破壊力をブチかます即効性ではなく、ズルズルとリスナーを引き込んでいくような中毒性で攻めてくる感じ。

 

M3「Perfect Tomorrow」なんかはまさかのラップ風ヴォーカルまで披露する("風"と表現しているのは、BAKIさんがインタビューでラップではないと言っていたから)ファンキーなノリの曲で、最初こそ面食らったものの、次第にこのリズミカルな歌唱が癖になってくる。そしてサビになると一転して哀愁の効いたキャッチーなメロになるのが聴きどころ。

 

オルタナっぽいヘヴィさを表出させたリフが荒れるM4「Psychophonic」にノせられ、曲タイトル連呼の妙なグルーヴとスピード感あふれるギターソロを持つM8「Bloody War Zone」で気持ちよくなり、渋いギターインストと戦隊モノの主題歌みたいな歌詞が凄まじくミスマッチなM10「Dragon」のムードに聴き入っていると、ここにきて最もハードコアパンクらしい力強い疾走を見せるM11「Freedom」で昂らせてくれる。

 

このように目まぐるしく曲調が変わっていくものの、HR/HM的リードを聴かせるギターに、異様なほどにブリブリとしたラインが目立つベース、そんな演奏に一切負けることなく存在感を発揮し続けるヴォーカル、そして決して明るくなることはない混沌とした怪しいムードなど、従来のサウンドにあった要素はしかと残っている。

 

特に気に入ったのはM7「Eighteen」とM12「明日へ向かう夜を待つ」の2曲。前者はストレートにライヴハウス原体験の思いを綴った歌詞が熱く、それでいてわかりやすいメロディーと共に疾走する展開が心地よい。後者は徹底的にエモーショナルなメロディーを描き出すヴォーカルに酔いしれることができる、純然たる歌モノバラード。サビ終わりのBAKIさんの振り絞るような歌い回しが本当にグッとくるんですよね。

 

ヘヴィでアグレッシヴなエクストリームサウンドを期待すると厳しいかもしれませんが(僕も聴き始めはそうでした)、全曲に渡り名状し難い聴きごたえと魅力を放つ、異様な中毒性を秘めた不思議な作品。一般的なハードコアのような即効性はさほどでもないので、このユニーク極まる音世界に浸るために、何度も繰り返し聴き味わうのがオススメです。

 

 

個人的に本作は

"ハードコアやヘヴィメタルらしさは希薄ながら、聴き返すごとに徐々に飲み込まれていくバンド独自のサウンド"

という感じです。

 


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このスポット映像だけじゃ本作の魅力はまるで伝わらんな...