前回が小さなライヴハウスでのハードコアなライヴ感想記事でしたので、その流れでハードコアパンクの新譜感想も行っちゃいましょう。
音楽的には紛うことなきハードコアパンクでありながら、非凡なテクと泣きのセンスを兼ね備えた天才ギタリスト・CHELSEAさん率いるジャパニーズハードコアバンドPAINTBOXのアルバム...って言っていいのかはわからないけど、全10曲の音源集です。
このブログでも以前取り上げたフルアルバム『TRIP, TRANCE & TRAVELLING』は、CHELSEAさん亡き後に、残されたメンバーが途中だったレコーディング作業を完遂させ、新作として発表されたアルバムでした。
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翻って今回取り上げる『Unfinished Works』は、純粋な新作とは呼べない作品。
CDに付属したヴォーカルである宗さんのライナーによると、本作に収録された音源は1998年にPAINTBOXに加入した宗さんに対して、CHELSEAさんが自分達のバンドを紹介するために渡したテープに収録されていた未発表曲とのこと。CHELSEAさんがヴォーカルも兼任し、練習用スタジオで録音したカセット音声をCD化したものであり、要はデモ音源集みたいなものですね。
当初は宗さんのヴォーカルを被せようというお話も上がったようですが、手を加えない状態の方がCHELSEAさんの気迫がそのまま伝わるのではという意見により、当時の音声そのままの収録となったようです。
宗さん自身が「無理くり感がある」と称しており、帯にも"スタジオリハーサルでの録音カセットを家庭用機器でデジタル化した素材をマスターとして使用しているため、お聴き苦しい点やノイズなどが発生している箇所がございます"とまで記されているとおり、音質に関しては最悪レベル。僕が今まで聴いてきた全国流通音源CDの中でも、一番悪いと思う。
各楽器の音の輪郭が全然掴めないほどに、こもりにこもりまくったサウンド、奥に引っ込んで正確に聴き取ることは不可能となったヴォーカルは、普通のバンドであれば商品失格と言ってもいいくらい。
ただジャパニーズハードコアは、グチャっとひしゃげたような悪めの音質が、ジャンル全体の特徴というか、大きな傾向として言えるポイントであるので、聴いた時の音質の悪さによる違和感は実はさほど大きくなかったりしますね。あくまで他ジャンルに比べればですけど。
楽曲の方向性としては疾走重視の王道ジャパコア。前述した『TRIP, TRANCE & TRAVELLING』は、ハードコアの軸は決してブレないながらも、様々なジャンルの要素を内包した作品だったのに対し、本作はそういった幅広さはほぼ皆無。ハードコアとしか形容できない楽曲ばかりで構成されています。
しかしそんな曲においても、やはりCHELSEAさんのパンクの領域を超えたギターワークの凄みは随所に現れている。頻度こそ少ないものの速弾きソロに泣きのリードをブチ込む様は、これこそPAINTBOX流ハードコアだと言いたくなるし、シャウトで吠えまくってるのにどこかメロディアスな質感も備えた歌パートの充実も、普通のハードコアとは一線を画するものですね。
特にそのメロディアスな傾向が顕著に現れたM3〜M5の流れは特に気に入ってるし(特にM4は超カッコいいと思う)、アルバム後半のメロディック&スピーディーな畳み掛けも痛快。こんな劣悪音質でも、楽曲のカッコよさがしっかりと伝わるあたり、やはり彼はハードコアの天才だったんだなと思わざるを得ません。
まあだからこそ、しっかりとした音質で録り直された正規音源として本作に触れてみたかったという気持ちもまた芽生えるのですが、どんな形であれリリースしてくれたことに感謝するべきでしょう。
この音質でこの音楽性のため、本作を心から楽しめるという人は、生粋のジャパコアマニアかPAINTBOXのファンくらいかもしれませんが、楽曲のカッコよさは確実に感じ取れるはず。ハードコアパンクに理解のあるリスナーは、是非天才が遺していった名曲群の原型を感じてほしいと思います。
そしてハードコアやPAINTBOXというバンドにあまり触れてきていない人は、まず『TRIP, TRANCE & TRAVELLING』を聴いてほしいです。ハードコアでありながらハードコアの枠組みにとらわれない、仰天モノの大名盤なので。
個人的に本作は
"ジャパコア界屈指の天才が遺した名曲群。超劣悪音質の練習用テープ越しでも、類稀な才覚は感じ取れる"
という感じです。