メタルシーンにおいて、メロディアス・スピーディー・ハイトーンという、メロディックパワー/スピードメタルというスタイルの礎を作り上げたHELLOWEEN。彼らが80年代後半にリリースした『Keeper Of The Seven Keys Part Ⅰ』および『Part Ⅱ』は、説明不要の名盤、メロディックメタルの聖典として扱われています。
その当時の主要メンバーだったギタリストのカイ・ハンセンは健康上の問題から(その割にはあっさり自身のバンドであるGAMMA RAYを結成していますが)、ヴォーカリストのマイケル・キスクはメンバーとの確執、およびメタル嫌いという嗜好により脱退、キーパーサウンドを作り上げた編成は無くなることになります。
その後HELLOWEEN、GAMMA RAY共に優れたアルバムを数々リリースしていく中、時折ライヴでも共演したり、カイとキスクが手を組んでUNISONICを結成したりと、かつてのキーパーサウンドに思いを寄せるファンを喜ばせるような活動を行いつつ、とうとう本家本元のHELLOWEENにカイとキスクが合流。『Pumpkins United Tour』と題されたワールドツアーを行い、とうとうこの編成でオリジナルアルバムが制作されることとなりました。
それがセルフタイトル作となった16thフルアルバム『Helloween』。
メロディックメタルファンにとっては今年最大の話題作。昔からのファンにはまさに感涙ものの特別な一作と言えるのではないでしょうか。
......ただ僕個人としてはこのカイとキスクの合流劇、および『Pumpkins United Tour』や本作のリリースに関して、他のメタルファンと比べるとそこまで熱を持った目で見ていなかったというのが本音。
というのも、前述の『Keeper Of The Seven Keys』の2枚、もちろん僕もメタルファンの端くれとして持っているし、良い曲が入っている良いアルバムだと思っていますが、当然ながらリアルタイムでは聴いておらず、それほど強い思い入れがあるアルバムではないのです(スピードメタルナンバーは案外少ないですし、メチャメチャポップだったりするし)
なんならアンディ・デリスがフロントマンとして立っている編成こそが、僕の中でのHELLOWEEN像ですし、今なおそのメンバーで現役で良いアルバムを作り続けることができています。
そんな現役バリバリ、落ち目でもなんでもない状態で過去のメンバーが参加するというのは、なんか釈然としないというか「あなたたちは現在進行形で名盤を作れるバンドなんだから、そんな過去を顧みるような活動せんでもいいのに...」という考えが頭をもたげてしまったというか。
とはいえ、とはいえです。
メロパワという型を生み出したキーパーソンの2人が参加したHELLOWEENの新作をリアルタイムで聴き込める、という経験。これをしないという選択肢は、当然ながらメタルファンとして存在しないわけです。そりゃあチェックはしますよね。
そして聴いてみた感想としては、僕が気にしていた「過去の姿を顧みる」なんて姿勢はあまり見られない作品だということ。単に「評判が高かった時期のメンツを集めて、そんな感じの作風に仕上げました〜」な懐古的アルバムでは決してない。
作風のベースとしてはアンディ加入以降のHELLOWEEN。そこにカイのギターワークや、キスクのハイトーンを活かしたヴォーカルを要所要所でドッキングさせている印象でした。現在のHELLOWEENのサウンドに、かつての主要メンバーの息を吹き込んだ、これまでのHELLOWEENの集大成という意味がセルフタイトルに込められているのかも。メロパワというスタイルを生んだ大御所としての風格、威厳めいた物すら感じる堂々たる楽曲が並びます。
不穏なSEからブワっと開けたような開放感とともに疾走し、衰え知らずのキスクらしいハイトーンが駆け抜けるM1「Out For The Glory」は、いわゆるジャーマンメタルというスタイルを愛する人が快哉を叫ぶキラーチューン。雄大なサビのメロディーに身を委ね、拳を突き上げたくなる。ポジティヴな泣きに満ちた長めのギターソロも良い。
続くM2「Fear Of The Fallen」は、前の曲がキスク在籍時のジャーマンメタルの王道なら、この曲はアンディ期の王道と言える楽曲で、やはり「HELLOWEENのフロントマンはアンディ」という認識が定着してる自分としては、こういう曲がHELLOWEENらしいと感じます。サビの絶妙な哀愁のメロ、ダイナミックなリフの重なり方、この曲もまたキラーチューン。
その後はわかりやすいメロパワ/メロスピ感は若干鳴りを潜め、ミドル〜アップテンポでキスクとアンディが織りなすヴォーカルワークと、トリプルギターによる厚みのある演奏を楽しめるメロディックメタルナンバーが主軸になる。頭2曲と比べるとやや地味でインパクトは劣るものの、フックに富んだ曲が多く楽しめます。
中でもM4「Mass Pollution」は、ハードで攻撃的なリフが非常にカッコよく、棘のあるアンディのヴォーカルとキャッチーなシンガロングが耳に残る曲で、本作のミドルチューンでは一番好きかも。いくらHappy, Happy言ってても、あくまでHELLOWEENはヘヴィメタルバンドであると主張するかのような、サウンドの逞しさが良いですね。
そしてアルバム後半に差し掛かるタイミングでのM8「Robot King」は、曲タイトルを皆で一様に叫ぶシンガロングの爆発力が凄まじい疾走曲。体感速度はこの曲が一番速いかもしれない。ただメインのヴォーカルメロディーはもう少しキャッチーにして欲しかった。
先行シングルとなったカイによるM12「Skyfall」は12分におよぶ大作で、メインのメロディーをツインリードがなぞり、キスクとアンディの重なり合うヴォーカルが特大のスケールを描き出す。中盤ちょいとダレなくもないけど、このドラマチックな旋律の応酬はさすがカイ・ハンセンといったところ。「キーパーサウンド」という言葉に一番ピッタリなのはこの曲かも。
完全版は2枚組仕様で、7人体制スタートの狼煙となったM3「Pumpkins United」を含む4曲入りのボーナスディスク付き。これらも本編の楽曲に勝るとも劣らない出来なので(特にM4「We Are Real」はカイの独特のしわがれヴォーカルが最もよく聴けるのでカイファンは必聴かも)、とにかく安く抑えたいという意志がなければ完全版をオススメします。
海外のメロパワでは間違いなく日本でトップクラスの人気を誇るバンドが、かつての伝説となったメンバーを迎えるということで、散々にプッシュされまくっていた本作。蓋を開けてみれば、その上げに上げたハードルをしっかりと超えてくれた良作と言える出来になったのではないでしょうか。話題性云々、メンバー云々関係なしに、純粋にパワーメタルとして完成度の高い作品に仕上げてくれているのが嬉しい。
個人的にも変に懐古的になったりせずに(それはそれで楽しめたんでしょうが)、あくまで今のHELLOWEENの姿を伝えようとする楽曲が多く感じられたのもポイントです。まだまだ彼らはパワーメタルシーンのトップを走るバンドなのですね。
なお本作のオマケとして、前作『My God-Given Right』でも付いてた、ビックリマンチョコみたいなメンバーのイラストシールがあり、僕はカイ・ハンセンでした。キラキラしてますが、ひょっとしてレアだったりします?
個人的に本作は
"今のHELLOWEENスタイルにかつてのジャーマンメタルらしい息吹を吹き込んだ、大御所としての風格さえ感じる力作"
という感じです。