HR/HM界屈指のテクニシャンであり才人ヴィクター・スモールスキが結成したALMANACの3rdフルアルバム。
このALMANACというバンドは元々LINGUA MORTIS ORCHESTRAという、RAGEから派生したオーケストラとメタルを融合させたプロジェクトから派生されたバンドらしい。前作『Kingslayer』はシンフォニックメタルというほどではないものの、確かにオーケストラサウンドも目立った形で導入されていました。
そして本作はというと、オーケストラサウンドの出番はあまり感じられず、ヴィクターのギタープレイがこれまで以上に表に出てきている印象。前作もギタープレイは大きな比重を占めていましたが、本作ではさらにそれ以上に弾きまくっています。
リフ重視の正統派ヘヴィメタル路線に大きく舵をとった内容、僕の嗜好からするとより好みの方向性に行ってくれたという感じなんですが......本作の感想はというと、イマイチ煮え切らないというのが正直なところ。
ヴィクターのギターは文句なしに素晴らしい。より硬質さとヘヴィさを増したリフが全編で聴け、粗雑さとは一切無縁の異常に丁寧にまとまった速弾きソロ、普通のパワーメタルバンドの曲では聴けないような不思議な音色感と相まって、一層彼のギタリストとしての技量、アレンジセンスの見事さが伝わってきます。
ただいかんせんメロディーのフックが強くなく、ヴィクターのギターがほとんど泣かないのもあって、メロディーに陶酔するという僕のメインの音楽の聴き方がしにくいのです。
男女一人ずつのツインヴォーカル体制で、どちらもやや張りが無いというか、ちょいと野暮ったい声質なのもハマりにくい要因かも。M1「Predator」のパトリック・サールの歌い出しで「な...なんか気合い入ってないな...」とちょいとズッコケそうになりました(笑)
インストを除けばほぼ全曲が同一のテンションで、バラードなども収録されていないため、アルバム自体の起伏が小さく感じてしまう。そのため音だけ聴けばカッコいいんだけど、各楽曲が印象に残りにくくなってるのが痛いかな。しいて上げればリフが特にカッコいいM2「Rush Of Death」、変拍子をものともせずにテクニカルなリフを弾くヴィクターの妙技が味わえるM10「Like A Machine」が良かった。
全曲でヴィクターの優れた技巧が炸裂しているので、ギタリストの資料的価値は高いでしょうし、ヴィクターのギタープレイそのものを存分に楽しみたいファンには魅力的なアルバムかもしれません。が、単純に良いメタルを聴きたい、楽器にはズブの素人である僕は、アルバム通して聴いても、楽曲単位で抜き出して聴いてもそれほどテンションが上がらなかったというのが本音。
せっかくオーケストラとのコラボレーションをキモにしているのであれば、フルオーケストラを導入したドラマチックな大作を入れてみるとかしたらもっと面白くなったかも。まあそういった曲もメロディーがつまらなければダレるだけなのでリスキーですが。
M1「Predator」 MV
M2「Rush Of Death」 MV