- 捨て曲の無い安定性抜群の正統派
- ガス・Gさすがのパフォーマンス
- メロディーのキャッチーさについてはもう少し...
ギリシャが誇るギターヒーローにして、OZZY OSBOURNEやNightrage、DREAM EVILといった多数のバンドで手腕を発揮したガス・G率いるヘヴィメタルバンドの9作目のフルアルバム。
前作発表時のヴォーカルとキーボーディストが脱退しており、専任のキーボーディストは入れず、ヴォーカルには元SINBREEDのハービー・ランガンスを迎えています。
何でも前任ヴォーカルのヘニング・バッセは本作の製作途中という極めて迷惑なタイミング(笑)で脱退したようで、特に面識もなかったものの事務所を通じてコンタクトをとったことでハービーの加入にこぎつけたのだとか。
セルフタイトル作となった本作、方向性としては熱唱型のヴォーカルと、ガス・Gの流麗なギターワークを主軸とした正統派HR/HM。過剰なメロディアスさはなく、メロスピ/メロパワに通じるような疾走パートもほぼほぼ存在しない。ヘヴィだがモダンにはならないリフでガツガツ進んでいく、実に正統的なヘヴィメタルらしいヘヴィメタルをプレイしています。小細工は無し。
......というか、小細工がなさすぎてかなりシンプル、直線的ですね。キーボーディストがいなくなったからか、シンフォニックだったりキラキラだったりといった装飾もほとんどありません。まさに正統派HR/HMという枠組みからまったく逸脱しない作風になっています。
個人的にはリフがパワフルな正統派は大好物なので、この方向性自体は僕の好みであり、実際捨て曲も無く純粋に楽しめます......が、物足りなさを感じるというのもまた正直なところです。
何が足りないかって言われれば、やっぱりメロディーのキャッチーさとスケール感かなあ。ハービーが暑苦しくねちっこ~く歌い上げる歌メロは、必要最低限のメロディアスさは備えていて、決してつかみどころが全く無いわけではありませんが、やはり全体的に地味。僕の琴線にはあまり引っかかってこないんですよね...。まあ剛直な正統派サウンドに、あまりにクサいメロディーは合わないとは思いますけど。
またガス・Gによるギターソロも、ピロピロと乱舞する速弾き自体のクオリティーはさすがとしか言えませんが、メロディックメタルに求める「泣き」だとか「叙情性」といった要素があまり感じられない。充分聴きどころには値するプレイなんですが、個人的にはもっとギターにもメロディアスさが欲しい。
そんな感じでなかなか満足しきることは難しい本作ですが、M3「Rising Fire」~M4「Break Away」の二連発、およびM7「Perfect Stranger」、M11「Kill The Pain」といいったアグレッシヴな楽曲は掛け値なしにカッコいいし、バラードのM6「Longing To Know You」における叙情性はなかなか胸に染みる。このくらいのメロディアスさを他の曲でも存分に発揮してくれれば...
ヴォーカル/演奏共にクオリティーそのものはケチをつける要素がないほどの高いレベルで安定しているので(安定しているがゆえに際立って褒めるべき点もないが)、熱く正統的なヘヴィメタルを好む人であれば、充分ニーズには応えてくれるアルバムです。僕個人としてはキャッチーな泣きをもっとくれい。
個人的に本作は
"安心安定のクオリティーを有した正統派HR/HMの佳作。派手さとメロディアスさはもう一歩。"
という感じです。
FIREWIND - Welcome To The Empire (2020) // Official Music Video // AFM Records
FIREWIND - Rising Fire (2020) // Official Music Video // AFM Records