ひとりごと ~Music & Life-Style~

HR/HMを中心としたCD感想、足を運んだライヴの感想をメインにひとりごとをブツブツつぶやくブログです。

Slipknot 『Slipknot』

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  • 90年代型メタルに憎悪のエネルギーを多量にプラス
  • 超速ドラムにターンテーブル、パーカッションなど多彩で厚みある演奏
  • 後の作品に通じるキャッチーさも少なからずあり

 

急逝したジョーイ・ジョーディソンの追悼として、久々に本作を聴き込みました。学生時代から聴いてきた音は、やはり1回聴き直すだけで当時の記憶が蘇ってきますね。とにかく衝撃的な音です。

 

90年代最後の年、アメリカはアイオワ州デモインから現れた9人という大所帯ヘヴィロックバンドの、記念すべき1stフルアルバム。

 

ヘヴィミュージックを好む人であれば誰でもその名前を知り、母国のチャートでNo.1を獲得、バンド名を関したフェスを世界各国で行うまでになったビッグバンド。これほどまでメジャーフィールドで活躍していますが、そんなバンドのデビュー作がこれほどまでに熾烈な音というのがまず凄い。これが世間一般に受け入れられたというのが凄い。

 

もう本作がリリースされて20年以上が経つわけですが、ここに込められた音の破壊力は今なお鮮烈なインパクトを持ってリスナーに襲いかかってくる。怒り狂った感情をダイレクトに演奏に込めて、どこまでも深い闇を纏ってくるヘヴィサウンドは一切古色を帯びない。

 

メンバー全員がグロテスクで恐ろしげなマスクを着用し、一般的なロックバンドの編成にプラスして、ドラム以外のパーカッションやサンプラー、DJまで含むという特殊部隊、地獄の底から響き渡るような極悪のデスヴォイスに、しかとメロディーを歌い上げるメロディアスな歌唱法、ラップのような高速ヴォーカルまで使い分ける非常に高い歌唱力、ポップで楽しげな音楽をプレイしようという意思がクソほども感じられない超弩級ヘヴィサウンド。何から何まで刺激的という言葉では足りない。

 

90年代のロックシーンは、僕はリアルタイムでは経験していませんが、80年代の享楽的サウンドが廃れ、ヘヴィで陰鬱、徹底してリアルな世界観を描いたバンドが大受けした時代。彼らもそんな90年代的ヘヴィネスを打ち出したバンドな訳ですが、そこへ溢れ出る怒りのエネルギーや、いかがわしいダークさを大幅増量、単にモダンなヘヴィさを押し出したバンドとは一線を画す個性を、1stの段階から提示することに成功しています。

 

なんと言ってもあまりに不気味なイントロから続く、彼らを代表するM2「(sic)」、コリィ・テイラーによる憎悪表現100%のシャウトが本領を発揮するM3「Eyeless」、後の名盤『Iowa』のキャッチーさに通じるメロディアスさが表出され、聴きやすさすら感じさせるM4「Wait And Bleed」という名曲が連打されるオープニングの勢いが凄まじい。この4曲目までの流れでこのアルバムの本質が剥き出しになると言ってもいいでしょう。

 

人間業とは思えぬジョーイの高速ドラム回しに度肝を抜かれ、その興奮冷めやらぬまま濁流のように押し寄せるエクストリームサウンドで、リスナーの興奮の沸点を軽々超えていく。

 

ドラム缶をぶっ叩いているかのようなカンカンした殴打音、要所で取り入れられるターンテーブルのスクラッチ音、本当に気が狂っているのではないかと思わせる叫び、アグレッシヴ極まりないものの、どこかキャッチーに響いてしまうコーラスなど、「オモクソヘヴィで激しい」というサウンドに加えて、「音楽的に面白い・個性的」という面をうまく織り交ぜたことこそが、本作を、ひいてはSlipknotというバンドそのものをヘヴィロックバンドの一部ではなく、メタルシーンのトップにまで到達させることができた要因なんだなと。

 

ただ多少のキャッチーさはあるとはいえ、これ以降のSlipknotのアルバムと比べると徹底してダーク&過激路線であることは疑いようがなく、この熾烈な楽曲を50分以上立て続けに聴くのは、さほどエクストリーム感性の高くない僕にはちょっと聴き疲れが(笑) 最後の楽曲であるM14「Scissors / Eeyore」は途中の無音時間含めて19分以上になっており、前者は8分にわたってドロドログチャグチャした暗黒音を垂れ流す楽曲なだけに、せめてトラック分けして聴きやすくしてほしかった。

 

今のエクストリームメタルに慣れた耳でも強烈に残る極悪メタル。こんな轟音の中でもしっかりと存在感を主張するアグレッシヴ極まりないドラミングは見事という他ないな...。つくづく惜しい人を亡くしたと思わされるものです。

 

 

個人的に本作は

"キャッチーさを最低限まで抑えて極悪にヘヴィ、9人の演奏により個性をも肉付けした衝撃サウンド"

という感じです。

 


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ジョーイ・ジョーディソン逝去

00年代メタルシーンの顔役として、現在までトップを走り続ける説明不要のモンスターメタルバンド・Slipknotの元メンバーにして、現在はSinsaenumで活躍していた超絶ドラマー、ジョーイ・ジョーディソンが26日に亡くなったというニュースが流れました。

 

nme-jp.com

 

昨年末にChildren Of Bodomのフロントマンであるアレキシ・ライホの訃報がありましたが、またしても思い入れの深いミュージシャンが亡くなってしまうとは。しかも死ぬには若すぎるし。

 

このブログではどっかに書いたかもしれませんが、SlipknotChildren Of Bodomと同じく、僕にとって洋楽メタルの入口になってくれたバンドなのです。有名バンドなだけに、Slipknotが洋楽ロック入門になった人って、僕と近い世代の人(20〜30代くらい)では結構多いのではないでしょうか。

 

Slipknotというバンドの存在を知ったのは、大体4thアルバム『All Hope Is Gone』をリリースしたときくらい。個性的かつ恐ろしいマスク姿の大所帯バンドというファーストインパクトにやられ、最初に触れた音源の1st『Slipknot』で、人智を超えたエクストリームサウンドに打ちのめされてしまいました。

 

オープニングを飾る「(sic)」の超速ツーバス、その後も続く人間離れしたドラミングは、楽器をやっていない人間にも「なんかスゲエ」と思わせるだけのインパクトがありましたし、「洋楽メタルのドラマーといえば?」と聞かれれば、すぐにでも彼の名前が出る、それくらいに僕の脳に印象づいてしまったのです。

 

今までは歌がキャッチーだったり、ギターの速弾きがカッコよかったりといった要素にしか気を取られていなかった僕にとって、初めてドラムという楽器の凄みを受けたのが彼、と言っても過言ではありません。

 

あと当時の彼のビジュアルも良かったんですよね。Slipknotの他の面々が不気味だったりおどろおどろしかったりする一方で、彼のマスクは不気味さは保持する一方で、イバラが巻き付き、どこか「美しい」とすら思えるような姿が強く印象に残っています。

 

2010年にベースのポール・グレイが亡くなった時は、まだそこまでメタルにどっぷりというわけではなかったので、それほど大きなショックを受けたわけではなかったですが(あくまでそれほどレベルだけど)、今回はあの時以上の喪失感ですね。もうSlipknotのメンバーではないとはいえ、学生時代からヤラれてきた音の要と言える存在でしたので。

 

せめてものの救いと言っていいかは分かりませんが、睡眠中に穏やかに亡くなったとのことで、苦しみながら逝ってしまったわけではないというというのは良かったのかなと。心よりご冥福をお祈りいたします。

 


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宙に浮き上がる要塞のようなドラムセットに鎮座するジョーイ。これを生で観られた人が羨ましいです。

SLANG 『LIFE MADE ME HARDCORE』

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  • 人生がおれをハードコアにする
  • 軽さが微塵も感じられないヘヴィ&ストロングなサウンド
  • 疾走感は十分に、一本調子にならない展開もあり

 

前回の記事の次となると、やはりこのバンドの作品に触れないわけにはいかないでしょう。

 

札幌のハードコアシーンの核であるSLANGが2010年に発表した5枚目のフルアルバム。"人生がおれをハードコアにする"というタイトルがまずカッコいい。KOさんの生き様を示したタイトルと言えるのでは。

 

ジャパニーズハードコアというと、痛烈なメッセージ性を秘めた日本語詞を武器に、疾走しまくる激しい演奏で短く駆け抜けるというイメージがあり、本作も概ねその例に沿った音を出しています。

 

しかしギターのKIYOさんが、もともとメタル上がりだったということもあるのか、ハードコアとしてはかなりヘヴィさを強調した音作りが特徴的で、全体的に低音部の音がかなり強力。他ではなかなか聴けないレベルでバキバキに歪んだベースが、さらに攻撃的な印象を強め、軽さは微塵もない極めてストロングなハードコアになっていますね。M1「木っ端微塵」からその破壊的サウンドを早速実感できるはずです。

 

また終始疾走しっぱなしというわけではなく、重厚なリフでミドルテンポで進みゆく楽曲が配されていたり、どこかシンガロングパートがキャッチーで耳に残りやすかったり、つんのめる勢いは抜群ながら粗雑にならないギターソロがあったりと、単に爆走するだけに陥っていないのもポイント。

 

ハードコアパンク、特にジャパコアと呼ばれるような音って、どうしても似たような曲だらけになってしまいがちなんですが(ジャンルとしての大まかな特徴なので悪いことではないんですが)、本作はそうならずアルバムの収録時間も長すぎにならない程度にとってある。そのため音楽的な聴きごたえがしっかり提供されているんです。

 

ライヴでも頻繁に演奏されるM3「Black rain」は疾走しなくともカッコいいSLANGサウンドは提供できるということを証明し切った名曲。不穏なフレーズを奏でるギターに、KOさんの"Freedom!!!!!!"の叫びがアツすぎる...!!M7「チェルノブイリの首飾り」は、基本的には疾走ハードコアなのですが、中盤から後半にかけてのギターソロ、そこからつながるややリズミカルなヘヴィリフの刻みがえらくカッコいい。爆走だけでは出せないカッコ良さ。

 

アルバム中盤にはM6「」という鐘の音とクリアなギターで、強烈な切なさを演出するインストが入っており、こういった小曲(歌入りの曲よりも長かったりするけど/笑)の存在が、ライヴ感ありきの一発ノリではない、音楽的に構成されたアルバムとしての印象を強めています。

 

ラストを飾るタイトルトラックM12「Life made me hardcore」は、終始ミドルテンポで進む楽曲。KOさんの生き方をしたためたリリックと共に、愚直に展開するリフとシンガロングが熱い名曲に仕上がっています。

 

大半が疾走チューンで痛快至極なサウンドの波に飲まれ、時折挟むミドルチューンのグルーヴ感に血潮が滾り、ハードコアらしい魂のこもったリリックに胸を熱くする。音楽的にも精神性としても、非常にタフで男らしいド硬派ジャパコアを貫いた傑作。これ1枚だけでもジャパニーズハードコアという音の真髄がわかるのでは。

 

 

個人的に本作は

"タフな力強さに満ちたサウンドで展開される、硬派一徹のハードコアパンク。疾走曲からミドル曲までパワーは一切落ちない"

という感じです。

メチャメチャ緊張しながら新生KLUB COUNTER ACTIONに行ってきた話

前回GALNERYUSの札幌でのライヴに関して、感想記事を書きました。

 

彼らのライヴを観ることももちろん重要なことでしたが、実は札幌に来た際に、もう一つやらなければならないことがあったのです。

 

札幌 KLUB COUNTER ACTION

日本のロック、特にパンク/ハードコアに親しんできた人はその名を聞いたことがあると思います。

 

札幌のハードコアシーンの中心である大ベテランSLANGのヴォーカル・KOさんがオーナーを務めていたライヴハウス。キャパ150人という非常に小さいハコですが、札幌の音楽シーンを支える場所として、多くのキッズから愛されていたライヴハウスです。

 

またレコーディングスタジオとしての顔を持っており、SLANGはもちろん、STRAIGHT UP RECORDS所属の多くのバンドたちがここで音源を作っていたそうです。

 

僕は2011年9月18日、AIR JAM 2011が行われていた日に、Last Allianceのfor staying real BLUE. Tourで足を運んだことがあり、その狭小さ加減、フロアのオーディエンスが花道を作るようにしてバンドメンバーが入場してくるというスタートに面食らいながら、ギチギチのフロアを堪能した記憶があります。

 

非常に小規模な会場でありながら、札幌のライヴハウスといえばカウンターアクション。そんな印象さえ抱かせる、大きな存在感を放っていたハコでした。

 

しかし2020年の新型コロナウイルス流行により、満足にライヴが行えなくなってしまい、カウンターアクションも例外なく経営苦に晒されることになります。

 

しばらくは観客を入れずに配信ライヴを続けていたようですが、結局は閉店という結果に終わってしまいました。ただの1度しか行ったことのないような場所ですが、青春時代を過ごした札幌の音楽シーンに欠かせない場所だっただけに、そのショックは大きいものでした。

 

それでも転んでもタダでは起きないカウンターアクション、一時閉店はするものの、すぐさま新店舗をオープンするに至りました。1階をバースペース、2階をグッズ販売などを行えるフリースペース、配信ライヴやDJイベントなども行えるような空間を作ると発表しました。

 

 

新しく生まれ変わったカウンターアクション、札幌という地で育った音楽ファンとして、これは絶対にいつか行かなくちゃいけない。そんな思いが僕の中に生まれるのは自明の理。

 

そして今回、意外にも早く札幌に行く機会に恵まれ、新生カウンターアクションへと行くチャンスが生まれたのです。

 

GALNERYUSのライヴが終わり、余韻に浸りながら夜を過ごした後の次の日の土曜日、カウンターアクションに行く前に軽く札幌の街を散策。学生時代通いまくったタワーレコード札幌PIVOT店はだいぶ売場面積が小さくなってしまっており、気になるCDを片っ端から視聴するのに使っていたTSUTAYA 札幌大通は、今月末で閉店することが決まっていました。時の流れを感じさせますね......

 

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借りられるCDは基本的に全て店内視聴機で聴くことができたお店。満足にCDを買う金がない学生にとって大変ありがたい場所でした。

 

超久々なサッポロファクトリーをソフトクリーム食いながらフラフラし、その中にあった観葉植物店で女性店員さんのセールストークに見事に捕まり(オイ)、前々から興味のあった多肉植物のハオルチアを購入。その後はホテルに戻りPCをカチャカチャいじりつつ、『音楽の日』17時台に出演すると公式Twitterで予告しておきながら1時間くらい出てこなかった日向坂46のパフォーマンスを鑑賞し、頃合いを見計らって再び外に出る。

 

地図アプリと睨めっこしながら札幌の街を徘徊し、いよいよ新生カウンターアクションとご対面。

 

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しかし!ここで事件が発生。生来のチキン体質が顔を出しやがったのです。

 

バーのお作法なんて全然わからないままだけど、このまま丸腰で行って大丈夫なのか。

 

すっげえおっかねえハードコアなおっさんとかがいて、ギロリと睨まれたらどうしよう。それこそ蛇に睨まれた蛙になってしまうぞ。

 

カウンターの人と全然会話が弾まなくて「こいつ何しに来たんだよ...」とか思われやしないか。

 

そんな心配事が脳裏をグルグルと回り、すっかり店に入ることに抵抗感が生まれてしまいました。ヤバい、今の俺完全にビビっている。

 

そんな精神状態で「次店の前に行ったら入ろう」「いやいややっぱり無理だ」を繰り返し、店の周辺道路を右往左往。近くの駐車場の管理人のおっさん、完全に俺のことを怪しいヤツだと思っただろうな...

 

しかしいつまでもグルグル歩き回ってたってしょうがない。この機を逃すと、いつまた札幌に来れるかわからないんだから!そう勇気を出して、とうとう店の前の消毒液を手に取り、敷居を一歩跨いでみる。

 

するとすぐに入口付近にいたメガネのお兄さん(雰囲気は優しげだけど腕にはタトゥーがびっしり)が対応してくれる。ビビりながらも「あの〜、グッズ販売とかまだやってますかね...?」と尋ねると、「はい、やってますよ〜。どんなのお求めですか?」と回答が。

 

やべっ、とりあえず店に行って、並んでる商品見ながら買うもの決めればいいや、とか思っていたから、急に「どんなの欲しいの?」と聞かれてもすぐには答えらんねえぞ。

 

とりあえず「SLANGのTシャツと、あとなんか...ハードコアのコンピレーション的なのがあれば...」とふんわり伝えたところ、メガネのお兄さんが2階まで行って商品を吟味してくれるとのこと。その間案内されたテーブル席に腰掛ける。体がガチガチに硬っていることが手にとるようにわかりました。

 

そしてバーカウンターに目をやると、そこには全身タトゥービッシリのイカつい男性の姿が。そう、SLANGのヴォーカルであり、カウンターアクションのオーナーでもあるKOさんその人です。

 

KOさんは椅子に座ったまま固まっている僕を一瞥して「なんか飲む?ああ、Tシャツか」と言いながら、コースターを1枚僕の元へ持ってきてくれました。この時点で完全に恐縮の極みに。

 

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KOさんから直接いただいた店舗特製コースター

 

しばらくKOさんと「東京の方から所用で来てて、一度ここに来てみたかったんです」などとお話ししていると、メガネのお兄さんがTシャツとCDを持ってきてくれた。「札幌のハードコアのコンピレーション」という雑なオーダーに対して持ってきてくれたのが『HARDCORE BALL ONE』という作品。

 

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全26曲、70分越えというメガボリューム!

 

tower.jp

 

1996年にリリースされた作品の、ジャケ違いの再発盤だそうで、持ってきてくれたお兄さん曰く「札幌のハードコアを多数集めた最初のオムニバスで、この作品から札幌のハードコアシーンが始まったと言っても過言ではない」とのこと。シーンの代表格であるSLANGは1曲目に収録されている。

 

その後、せっかくバーに来たというのにグッズだけ買って帰るというのもアレなので、飲み物もオーダーしてみようと、バーカウンターのKOさんに対し「メロンソーダのテクアウトだけもらっていいですか?」と聞くと、「いいよ、ここで飲んできな?」とカウンターの席に案内されることに。うおおおおおお...カウンターにも座ってみてえな〜とは思っていたものの、いざ案内されると一気に体が硬くなる......

 

今までロックバーには3回ほど行ったことはありましたが、まさかハードコアの重鎮たる人物を目の前にするとは...。ここにきてここ数年で最大の緊張感が体を襲う。味があまり感じられなくなってしまったメロンソーダを少しずつ啜っていく。

 

そんな中でも「こういうバーみたいな所は全然慣れてなくって作法みたいなものがわからない」みたいなことを伝えつつ、恐縮しながらも会話を続けていく。僕よりも前に来ていた50代くらいのオジ様オバ様の二人組(カウンターではなくテーブル席にいた)からは、「お兄さん緊張してるね」「KOさん、すごい人なんだよ」と気さくに話しかけてもらうも、相変わらず体はガチガチなまま。あ〜〜〜なんて情けない。俺もう四捨五入したら30だぞ。個性が無いのにも関わらずヴィランに立ち向かう出久を見た時のオールマイトばりに心の中で「情けない」を連呼するハメに。

 

それでもしばらく時間がたてば多少は(あくまで多少は)慣れてくるもので、しゃべりもスムーズになってくるのですが、特に印象的だったのが「新しくなったカウンターアクションはライヴスペースもあるみたいですけど、モッシュが起きるような音は出せないんですかね?」と尋ねると「バンドの機材を置くようなスペースは無いですね。アコースティックのライヴとか、DJイベントとかですね」と返答が来たこと。

 

新店舗が出来たとはいえ、もう「ライヴハウス・KLUB COUNTER ACTION」は無いんだな...と、ちょっと寂しさを覚えてしまいました。学生時代もっとハードコア系のライヴを観てみたかったけれど、当時はお金のない学生の身だったからな〜。

 

そして閉店時間の9時を迎え、テーブル席にいたオジ様オバ様もおあいそを始める。そろそろ自分も帰ろうとすると、ちょうどこの日BESSIE HALLでライヴをやったメロコアバンドのCOUNTRY YARDのメンバーが入ってくる。邪魔にならんようにおいとますることに。

 

メロンソーダ1杯の代金と、カウンターに置いてあるNBC作戦(STRAIGHT UP RECORDSが中心となって、震災者への物資支援などを行なっている活動)のラバーバンドの代金を払って店を後にしました。

 

帰り間際にお店の前で写真を撮っていいかと尋ねると、快くOKをいただいたので何枚かパシャリ。

 

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新たなカウンターアクションへと出向いて、KOさんと間近でお話しする機会に恵まれ、微力ながらNBC作戦への募金、及び関連グッズの購入することができ、短い時間ではありましたが、非常に貴重な、印象に残るひとときを過ごすことができました。

 

札幌という遠く離れた地のためおいそれと行くことはできませんが、機会があればいずれ必ずや足を運びたい場所ですね。その頃にはきっとバーの雰囲気が似合うようなアダルトな人間になってみせましょう(多分無理) 今度は2階のライヴスペースで生演奏を聴いてみたいもんですね。

 

純粋なライヴハウスという場所ではなくなったとはいえ、札幌の音楽シーンを支える老舗は確かに存在していました。改めてKOさん、カウンターアクションスタッフの皆さん、同席していた名も知らぬオジ様オバ様、素敵な時間をどうもありがとうございました。

 

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なお2013年にSLANGがHawaiian6、STOMPIN' BIRDとcube gardenで対バンした時(僕が大学進学前に札幌で観た最後のライヴ)に買ったSLANG Tシャツを着て行ったのですが、そのことをKOさんに伝えると「キューブ?SLANG出たことあったっけ?ハワイアンとストンピン?......俺出てた?」と、当時のことはまるで覚えていなかった模様(笑)

7/16 GALNERYUS / "FIND THE WAY TO OVERCOME" Tour 2021 at 札幌 cube garden

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最新作『UNION GIVES STRENGTH』が素晴らしい内容だった、日本が誇るメロディックパワーメタルの代表格・GALNERYUSのレコ発ツアーに行ってきました。

 

show-hitorigoto.hatenablog.com

 

会場は札幌のcube garden。このブログでも触れたことがありますが、僕は高校卒業まで札幌で過ごしており、国産ロック系のライヴが行われる主要なライヴハウスであるZepp Sapporo、PENNY LANE 24、BESSIE HALL、KLUB COUNTER ACTION(現在は閉店し、バースペースも備えた会場でリニューアルオープン)には一通り足を運びました。

 

もちろん今回の会場であるcube gardenも行ったことありますよ。locofrankLOW IQ 01の対バンと、高校卒業後、大学進学のために関東へ引っ越す直前くらいにHawaiian6のレコ発を観たんです。もうあれから8年以上経ったか。懐かしいなあ。

 

今回は所用で札幌に出ることになっており、ちょうどその時期にGALNERYUSのライヴが。東京公演が2日間ともソールドしてしまったため、これは彼らのライヴが観られるまたとないチャンス。行かないわけにはいきませんでした。

 

当日の朝は早くから成田空港に出むき、オンラインチェックインまでしたはいいものの、一向に搭乗券がスマホの画面に表示されず、結局ギリギリになって紙の搭乗券を発券してもらうなどバタバタしながら(もう絶対オンラインの搭乗券なんか使わねえ)、なんとか新千歳空港に到着。せっかく北海道に来たのだからと、めっちゃ奮発して海鮮丼にパクつく。どエラいほど美味かった...

 

 

その後30〜40分ほど電車に揺られ、いかにも北海道って感じの雄大な景色、のどかな街並みを眺めつつ札幌駅へ。関東の具合悪くなりそうな蒸し暑さに比べれば若干マシな感じはあるものの、やっぱり北海道でも夏は暑いな〜。

 

短い滞在期間なので泊まるとこは快活クラブとかでいいかなとも思いましたが(笑)、まあせっかくの機会なのでちゃんとしたホテルへ向かう。7階の客室で中はキレイで快適。

 

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7階ってことは結構窓からの眺めは良かったりして?と思いながらカーテンを開けると、思いっきりでした。まあビル街だからこの辺はしかたないか。

 

ホテルで長旅の疲れを癒やしつつ、頃合いを見計らって会場のcube gardenに足を運ぶ。8年も前に行ったっきりの会場なので当然場所は覚えてませんでしたが、フロアの雰囲気はなんとなく記憶の片隅にあったとおり。PA卓に近い最後列の椅子に腰掛けて開演を待つ。

 

開演時間の19時をまわり、静かなSEとともにメンバーゆっくりと登場。SYUさんが最新作の1曲目「THE HOWLING DARKNESS」のメロディーをギターで紡ぎつつ、GALNERYUS史上でも一際邪悪なフレーズで爆走スタート。全体的に音がデカく、7弦ギターの重厚なサウンドが迫力満点。中盤の超高速ユニゾンソロの勢いが凄まじすぎるな...

 

そんな中でも存在感を失わないのが小野さんの凛としたヴォーカル。続く「FLAMES OF RAGE」は、初動のハイトーンシャウトから、やたらキメの多い忙しないサビを、ほぼ完璧に歌い上げる凄まじいパフォーマンス。

 

ただちょいちょいしかめっ面になったり、右手で腰のあたりを抑えたりしている姿が見受けられたので、ひょっとしたら腰痛か何か患ったりしているのかしら...?などと思ったり。

 

GALNERYUSの楽曲でもかなりアグレッシヴさに比重をおいた曲ですが、一斉にヘッドバンギングに興じるヘヴィパートに、疾走感も抜群と、エグいほどにライヴ映えするというか、ライヴにおいてその魅力が最大限発揮される楽曲に思えます。2曲目にして早速最初のピークを持ってくるGALNERYUS、強い。

 

バンドの演奏もテクニカルかつ豪快で、濃厚なガルネリ節と言える高密度な演奏の応酬を披露。YUHKIさんの一部のキーボードの音がギターに埋もれてしまいがちだったのだけが、ちょっと残念だったかな。「HOLD ON」は彼のキーボードこそがキモの楽曲だから、もう少し目立たせてほしかった。

 

派手な金髪をブワァッと振り乱しながらも、正確無比な高速ギタープレイを披露するSYUさんは、凄いということがあらかじめわかっていたとしても凄いとしか言えない。超テクニカルなのに、そこへ圧倒的な泣きをブレンドする手腕は見事という他ない。あれを手元を一切見ずに目をつぶって(通称イキ顔)演奏するのだからバケモノですね。

 

ここ最近は第一部で新作の完全再現を行い、第二部で過去曲を交えたセットリストを組んでいることの多かったGALNERYUSですが、今回は二部構成にはせず通常のライヴの展開。アルバム通りの流れは3曲めまでで、その後は過去作の楽曲からもチョイス。完全再現も悪くないけど、やはりセットリストの予想ができない流れの方が好きかな。

 

今まで何度か彼らのライヴは観てきましたが、「SHIVER」「A FAR-OFF DISTANCE」というレアな楽曲が聴けたのが今回の収穫でした。特に後者はポップス畑で鍛え上げられた小野さんの日本語歌唱が、切なく熱いメロディーで歌い上げられる名バラード。ラスサビのハイトーンの張り上げ具合に震えましたね。

 

今回は去年加入したもののツアーができず、初お披露目まで時間がかかってしまったLEAさんが参加したツアーということで(もちろん僕も生で彼のプレイを観るのは初)、彼をフューチャーする一幕がありました。

 

小野さんが「僕は午後ティーが好きなんですけど、あのパッケージ見てみると"35周年"って書いてあるんですよね。35年前は僕は18,9くらいで、コンビニでバイトしてたから「へ〜、今度はこんな商品が出たんだね」とか思いながら棚に陳列してましたよ。そして彼は午後ティーよりも若い!」と彼のフレッシュさをアピール。

 

ただ彼の見た目からすると、35歳より若いのは明らかなので、さほど衝撃度は薄かったかな(笑)

 

そんなLEAさんのドラムですが、僕の位置からだとちょうど小野さんと重なってしまうため、あまりハッキリ視認できたとは言えません。前任者のFUMIYAさんと比べると、あまり魅せる方に重点はおかず、堅実なプレイを心がけている印象だったかと。楽曲のクオリティーを損なうようなことは一切なく、迫力のスネアの連打で楽曲のスピードを底上げする圧巻のドラム裁きでした。バスドラの音量をもう少し大きくしてほしかったけれども。

 

ステージでのパフォーマンスが一番小さかったのはベースのTAKAさんで(いつもだけど)、ポーカーフェイスでアンサンブルの低音土台をしっかりとキープ。時折スラップやタッピングなどを駆使したり、ステージ前に仁王立ちして自慢の高速フィンガリングを披露。最前にいた人はなんの障壁もなく、超至近距離であれ観られたんだよな...。羨ましい限り。

 

中盤以降は最新作『UNION GIVES STRENGTH』からの新曲、および再録の「DEEP AFFECTION」「EVERLASTING」を含めた楽曲の連打。意外性のあるセットリストではありませんでしたが、やはり最新作も入魂の楽曲ばかりなため、退屈に感じられる瞬間は1秒たりともない。

 

歌謡的ガルネリのスタンダードと言える「SEE THE LIGHT OF FREEDOM」も、疾駆するリズムに合わせてヘドバンして最高でしたが、やはりキーとなるのは「WHATEVER IT TAKES (Raise Our Hands!)」。この曲のキモである沈み込むようなヘヴィパートから、一気に開放感あるギターソロへ続く瞬間。ここを生の音で体感したかった。

 

この時点でもう十分以上の満足度ですが、さらにそこからライヴの熱量を上げてくれるのがGALNERYUS。本編が終わったあとはもちろんアンコール。ただいかんせん声が出せない環境のため、普段なら"オイ!オイ!"なところが、手拍子をするくらいしか手段がないため、「もっと聴かせてくれ!」という欲求に基づいたものではなく、どうも形式めいたアンコールになってしまうのが難しいところですね...

 

今回のツアーではどの会場でも洋楽カバーをプレイしているらしく、「スタンダードな曲なので、皆さんも楽しんでもらえるだろうと思います!」とMCをはさみ、『PHOENIX RISING』のボーナスディスクにも収録されている、SCORPIONSの「Rock You Like A Hurricane」がスタート。

 

ハードロックの名曲ではあるものの、個人的にはあまり強い思い入れのある楽曲ではなく、これだったら「Against The Wind」の方が嬉しかったかも(笑) それでもサビのシンガロングパートに、ここに来てさらにキレを増す"カモンカモンカモォォォォォン!!"のハイトーンはさすがのカッコよさ。

 

続いての「FATES OF THE SADNESS」では、キーボード→ベース→ドラム→ギターの順で各々2回ずつインプロによるソロパートが挿入される。それぞれの超絶技巧を存分に活かしたソロは圧巻でしたが、そんな中YUHKIさんはDEEP PURPLEの「Smoke On The Water」のイントロリフをちょっとだけ取り入れる遊びを入れていました。

 

 

初期GALNERYUSを代表するキラーチューンである「Struggle for the freedom flag」で熱く沸かせ、さらにダメ押しとばかりのダブルアンコールでは「TEAR OFF YOUR CHAIN」「RAISE MY SWORD」の連発という熱すぎる流れ!

 

「RAISE MY SWORD」はもちろんエピック・ガルネリの最高峰ともいうべき名曲で、高速リフが刻まれる疾走パートではSYUさん、TAKAさんに合わせ渾身のヘドバンを禁じえませんし、「TEAR OFF YOUR CHAIN」は彼らの楽曲でも特に熱さと力強さを感じさせる楽曲。しかもライヴでは聴いたことがない曲なので感動もひとしお。あの音数詰め込みまくりの情熱のギターソロを生でブチかまされるとは感無量。

 

2時間にもおよぶ熱きライヴでしたが、やはり彼らのライヴはいつ何度観ても素晴らしい。声を上げて合唱ができないというのはやはり大きな枷ではありましたが、間隔を空けている分、周りを顧みずに存分にヘッドバンギングできるというメリットもあり、モッシュミュージックではないライヴなら、このコロナ禍スタイルも必ずしも悪いところばっかりというわけではないのかな。とはいえライヴハウス側の収益はもっと増えてほしいので、早いところ満員のフロアになってほしいのが本音ですけどね。

 

なおダブルアンコール後に小野さんから長めのMCがあったのですが、他の会場でも同じ話をしているということだったので、今後参加される方のためにも(そんな大層なモンでもないが)詳細は伏せておきます。一つ言えることとしたら、あの小野正利に軽々しく「歌ってくださいよ〜」なんて言えるとは、だいぶ肝が据わった人なんだなと(笑)

the LOW-ATUS 『旅鳥小唄 -Songbirds of Passage-』

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  • 盟友二人の音以外存在しない
  • ソングライターとしての資質の違いが顕著
  • 素朴な音色とメロディーのマッチングは抜群

 

BRAHMAN/ OAUの絶対的フロントマンであるTOSHI-LOWさんと、ELLEGARDEN/the HIATUS/MONOEYESで日本のロックシーンの最前線を駆ける細美武士さんによるアコースティックユニットの1stフルアルバム。

 

3.11の震災をきっかけに親交を深めだした二人が、福島でのライヴの共演で組んだthe LOW-ATUS。これまではずっと弾き語りライヴによる活動のみで、反戦歌のカバーなどをやっていたそうですが、ここにきてようやくオリジナル曲の制作が始まり、自主レーベルを立ち上げた上でのリリースとなりました。

 

オリジナルを始めたのは本当に「ただなんとなく」という感じで、明確な理由は無いらしく、本人たちも活動開始当初はアルバムが出るとも思っていなかったようです。ライヴを観たことが無い者としては、こうして音源を出してくれるのはありがたい話です。

 

本作は二人の歌声と演奏以外は何も入っておらず、純粋に二人が奏でる音のみに聴き入ることができる。ゲストミュージシャンの参加、アコギ以外の弦楽器や管楽器の類によるアレンジも全くなし。唯一TOSHI-LOWさんのハーモニカがいくつかの曲で使われる以外は、声とアコギのみ。潔い。

 

 OAUにおいて優れた楽曲を作っているTOSHI-LOWさんに、ELLEGARDENがバリバリ精力的に活動していた時から親しみやすいキャッチーな曲作りに定評があった細美さんの二人が組んでいるだけに、耳によく馴染む歌メロが終始鳴り止まない楽曲が連なる。それが切なく素朴なアコギの音色とマッチして、じんわり染み入るような作品になっています。

 

作詞・作曲ともに二人がやっていて、よく聴いてみるとTOSHI-LOWさんの曲は全体的に昭和テイストといえば良いのか、古き良き歌謡曲フレーバーを漂わせていて渋みがある。細美さんはより現代的なキャッチーさが強調されて、今のJ-ROCKにも通じる匂いを感じる。

 

普段ならTOSHI-LOWさんと細美さんではTOSHI-LOWさん派な僕ですが(笑)、本作においては細美さんが作った楽曲の方が、普遍的なキャッチーさが感じられる分気に入りやすかったですね。

 

MVが作られたM2「サボテン」における声が揃った瞬間のサビの入り、M8「丸氷」のドラマチックと言ってもいいほど哀愁あふれるフックに富んだメロディー、ラストのM11「いつも通り」の心が安らぐような歌詞とメロの相乗効果は、普遍性というか、誰が聴いても「良い曲だね」と思える出色の出来栄えなのでは。

 

TOSHI-LOWさんの曲は先述したとおり渋みのあるスタイルで、そこへやや強いメッセージを含んだところがパンク/ハードコアを出自とした人間らしいところ。現在の日本の現状を痛烈に描いたと思しきM7「オーオーオー」や、鬱屈とした現代において、どんなことを思っていくのか、考えていくのかと投げかけるM10「ロウエイタスのテーマ」などが顕著。しかしそんな曲にあっても決して重苦しくはならず、楽に聴かせてくれるメロディーと演奏が良い。

 

二人の友情とともに生まれた珠玉の作品ですが、それを抜きにしても純粋に「良い唄」が揃ったアルバムですね。間接照明つけて座椅子でくつろぎながら、ゆっくりと音に身を預けたい時に重宝しそう。

 

 

個人的に本作は

"ギターとハーモニカのみ引っ下げ、盟友二人の歌心で勝負した不純物のない潔い一枚"

という感じです。

 


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GASTUNK 『VINTAGE SPIRIT, THE FACT』

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  • 33年ぶりのリヴィングレジェンド
  • ハードコアやメタルそれそのものとは距離がある
  • 豊かな曲調と怪しく混沌としたムードが同居

 

ジャパニーズハードコアという枠組みを超えて、X JAPANやL'Arc〜en〜Ciel、黒夢といった大物にまでその影響を及ぼす、伝説的バンドGASTUNK。彼らが活動していた頃は生まれていない自分ですら、数々のミュージシャンからリスペクトを集めるすごいバンドだということは事実として知っていました。

 

そんなバンドが2010年に発表したシングル以来11年ぶり、オリジナルアルバムとしてはなんと33年ぶりというニューアルバムをリリースしました。

 

33年

改めて見て、すごい年月が経っているんだな〜と。ちょいちょいライヴ活動はしていたとはいえ、これだけの期間アルバムをリリースしなかった重鎮と呼べるバンドのアルバムを、まさかリアルタイムで買う機会が巡ってくるとは思ってませんでしたよ。

 

GASTUNKはあまり過去の音源を熱心に聴いてきたバンドというわけではなく(1stの『DEAD SONG』と2ndの『UNDER THE SUN』くらい)、彼らが全部新曲のアルバムを出すとなると、一体どんな音楽になるのか、いまいち想像がつかなかったというのが本音。初期のようなハードコアパンクで爆走するのか、ヘヴィさとタイトさを押し出したメタリックな作風になるのか。リヴィングレジェンドのニューアルバムという期待感を持ちつつ聴いてみました。

 

そして一通り聴いてみて、ちょっと意外というか、悪い言い方をすると「少しばかり肩透かし喰らった」というのが最初の感想。「あれ?こういう感じでくるの...?」みたいな。

 

ヘヴィさはほとんどなく、とてもじゃないけどメタリックと呼べるものではない。ハードコアパンクらしい爆走っぷり、グシャッと歪んだバンドサウンドもほとんどない(まったくないというわけではない)。本当に精神をヤラれてしまっているのではないか...と思わせるほどの、BAKIさんの狂った叫び声も全く聴かれず、終始真っ当な歌を響かせる。

 

曲によっては完全に歌モノバラードと言えるものまであるなど、少なくともメタル・ハードコアではありません。コアな要素を交えたハードロック寄りの音楽は、想定したものとはだいぶ大きい距離がある。正直1回2回聴いただけの段階では、「変に期待しすぎたかな...」と思ったものです。

 

ただやはりこのバンドの作り出す音楽には、普通のロックバンドにはない独自の魅力があるんでしょうね。何回も繰り返して聴いていくうちに、自然と底無し沼に飲み込まれていくかのように、本作の楽曲に聴き入ってしまっていました。

 

民族音楽のようなムードに神秘性を感じさせるM1「Black Forest」から静かに始まり、徐々にせり上がってくるようなリズムで緊迫感を高めていくM2「Seventh Heavens Door」のコーラスが、意識を少しずつ侵食していく。ハードコアな破壊力をブチかます即効性ではなく、ズルズルとリスナーを引き込んでいくような中毒性で攻めてくる感じ。

 

M3「Perfect Tomorrow」なんかはまさかのラップ風ヴォーカルまで披露する("風"と表現しているのは、BAKIさんがインタビューでラップではないと言っていたから)ファンキーなノリの曲で、最初こそ面食らったものの、次第にこのリズミカルな歌唱が癖になってくる。そしてサビになると一転して哀愁の効いたキャッチーなメロになるのが聴きどころ。

 

オルタナっぽいヘヴィさを表出させたリフが荒れるM4「Psychophonic」にノせられ、曲タイトル連呼の妙なグルーヴとスピード感あふれるギターソロを持つM8「Bloody War Zone」で気持ちよくなり、渋いギターインストと戦隊モノの主題歌みたいな歌詞が凄まじくミスマッチなM10「Dragon」のムードに聴き入っていると、ここにきて最もハードコアパンクらしい力強い疾走を見せるM11「Freedom」で昂らせてくれる。

 

このように目まぐるしく曲調が変わっていくものの、HR/HM的リードを聴かせるギターに、異様なほどにブリブリとしたラインが目立つベース、そんな演奏に一切負けることなく存在感を発揮し続けるヴォーカル、そして決して明るくなることはない混沌とした怪しいムードなど、従来のサウンドにあった要素はしかと残っている。

 

特に気に入ったのはM7「Eighteen」とM12「明日へ向かう夜を待つ」の2曲。前者はストレートにライヴハウス原体験の思いを綴った歌詞が熱く、それでいてわかりやすいメロディーと共に疾走する展開が心地よい。後者は徹底的にエモーショナルなメロディーを描き出すヴォーカルに酔いしれることができる、純然たる歌モノバラード。サビ終わりのBAKIさんの振り絞るような歌い回しが本当にグッとくるんですよね。

 

ヘヴィでアグレッシヴなエクストリームサウンドを期待すると厳しいかもしれませんが(僕も聴き始めはそうでした)、全曲に渡り名状し難い聴きごたえと魅力を放つ、異様な中毒性を秘めた不思議な作品。一般的なハードコアのような即効性はさほどでもないので、このユニーク極まる音世界に浸るために、何度も繰り返し聴き味わうのがオススメです。

 

 

個人的に本作は

"ハードコアやヘヴィメタルらしさは希薄ながら、聴き返すごとに徐々に飲み込まれていくバンド独自のサウンド"

という感じです。

 


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このスポット映像だけじゃ本作の魅力はまるで伝わらんな...