毎度毎度実にクオリティーの高い作品をコンスタントに発表し続ける妖怪ヘヴィメタルバンドの最新作。
前作『迦陵頻伽』は黒猫さんのヴォーカルを前面に押し出し、しなやかで力強く美しいメロディーを終始奏でる、メロディックメタルの秀作でした。
そして本作はそれとはだいぶ趣の異なる作品。ヘヴィなリフを強調しダークなムードが全体を覆う、やや不気味で攻撃的な内容になっています。シングル曲のM4「桜花忍法帖」が浮いていると思えるほど。
メインソングライターである瞬火さんはインタビューにおいて「迦陵頻伽パート2のような物にはならない」「前作は気に入ったけど今作はイマイチ、みたいな人も出るだろう」と語っており、この方向性は確実に意図したものなのでしょう。バンドマンってインタビューでは「こういうコンセプトで作ろうとは考えてなかった」「曲が自然と形になっていった」みたいな発言をよくしますが、そういう人とは全く曲作りに対するスタンスが違うんだろうなあ。
おどろおどろしいピアノで幕を開けるM1「覇王」から早速ヘヴィなリフとデスヴォイスが炸裂。不気味な曲調といい、前作のオープニングとは真逆といってもいい。
しかしそんな曲にあっても、一気に解放感を与える黒猫さんのヴォーカルの存在はとてつもなく大きい。どんなに濃い闇の中でも、一瞬にして光が差したかのようにハっとさせられるヴォーカルワーク...う~~ん美しい!!アルバムの雰囲気に合わせてか、瞬火さんの歌唱パートが多めだからこそ、彼女のヴォーカルの存在感がより浮き彫りになるというもの。
そんなヘヴィな楽曲の後に飛び出す、陰陽座流ヘヴィメタルのド真ん中と言えるM2「覇邪の封印」で強烈な一撃を喰らわし、より古風な歌いまわしを聞かせる性急なM3「以津真天」で頭を振らせる。先述のシングル曲M4にてキャッチーな側面を見せた後、叩きつけるような力強いリズムとうねりまくるヘヴィリフがひと際アグレッシヴであり、かつサビはスケールの大きな美しい旋律を歌うM5「隷」へと続く流れが秀逸で、全体的に仄暗い雰囲気をまとっているのに一気に気持ちよく聴けてしまいます。
そして後半に待ち構える唯一のスピードメタルナンバーであるM8「飯綱落とし」は、陰陽座らしい翳りをたたえつつ非常にキャッチーな歌メロが冴えわたる、本作屈指のキラーチューン。キャッチーさとテクニカルさを見事に両立させたギターソロもメチャクチャにカッコいい!
美しさやメロディアスさでは前作の方が優れていますが、ヘヴィメタルとしてのカッコよさでは本作が上ですね。"頭を振りたい欲"を高めるのは彼らの音源の中でもトップクラスかも。
本作のヘヴィな攻撃性を表現する支柱である、ヘヴィに研ぎ澄まされた招鬼さんと狩姦さんのツインギター、雄々しい歌声とシャウトで歌唱の面でも緊迫感を強める瞬火さんのヴォーカル、そして陰陽座の要ともいえる黒猫さんの婉美でたおやか、かつ強さを備えた歌声が一体となった充実の名盤です。
M4「桜花忍法帖」 MV Short ver.
ひとつ不満なのは本作の楽曲を宣伝できる映像がシングル曲のショートバージョンしかないこと。「飯綱落とし」なんかメロディーが豊かでスピーディーなメタルを好む人であれば一発で飛びつくほどの出来なのだから、ちょっとだけでも公開すればいいのにな。