メタルマニアが泣いて喜ぶバンドを招聘してくれるも、そのあまりの非商業主義のためか2000万もの負債を抱えてしまい、来年以降の外タレ招聘事業を休止することを発表したEvoken de Valhall Production(以下EVP)。
そんなEVPによるEvoken Festも当然ながら今回でラスト。去年、一昨年と参加した者としては(一昨年は風邪で体調を崩してたためTwilight Forceまで頑張って観た後、トリのFREEDOM CALLはパスするという形になりましたが)今回も馳せ参じるべきだと考え、開催直前にチケットをゲットしました。
しかし2017年はすぐにソールドアウトしたこのイベントも、今年は開催直前になってもチケットの残数に余裕があるとは。メンツ自体は普通に良いと思うのですが、何がいけなかったのでしょうか...。
場所は個人的に初となる渋谷ストリームホール。カフェやレストラン、オフィスなどの入った複合施設の一角としてホールがあるといった具合で、こんなにもオシャレな場所でオシャレと対極に位置するメタルライヴが行われるとは(笑) 黒服メタルヘッズの場違い感がハンパない。
ホールまで二階分昇らなければならないのですが、そこそこの広さのあるロビーがあり、フロアには余計な柵もなく、そして設備全体がキレイであるとなかなか良い環境でした。イケてないメロスピと合うかは別として。
客層はやはり根暗っぽい男性が多いのですが、中には若くてキレイな女性客もちょいちょい見かけ、世の中いろんな人がいるものなんだな~と感心。ALESTROMのTシャツにDerdianのリストバンドという凄まじいツワモノ女性メタルヘッズもいました(笑) 頻繁に他ジャンルに浮気する僕よりずっとガチではないか。
開場時間を少し過ぎたあたりで会場入りし、ドリンクカウンターでオレンジジュースを一飲みしたあと、すでに演奏が始まっているオープニングアクトのILLUSION FORCEを観に行きました。ALESTORMやGrave Diggerのバックドロップがすでに取り付けられており、その上からさらにVICTORIUSのものが吊るされている"バックドロップ重ね"はEVPのお約束なのか。
ILLUSION FORCE
EVP主催のイベントではお決まりの、所属アーティストによるオープニングアクト枠。ギタリスト二人が兄弟で、ヴォーカルは韓国人、ベーシストはアメリカ人という多国籍バンド。ギターが両方ともレスポールっていうのはこの手のハイトーン型メロスピとしては珍しいですね。
2018年に始動した非常に若いバンドであるためか、ステージングはまだアマっぽさがあるのは否めないものの、ヴォーカルのハイトーンはさすがの一言だし、ツインギターのクサめな絡みも多く、今回の客層には結構刺さりそう。
下手側のギタリストがグルングルン回ったり、楽器陣がステージ上を積極的に移動したりして視覚的にも盛り上げようとする意図は伝わりましたし、あまりまとまっていない感じのMCもまっすぐな感じで好印象でした。2017年のEvoken FestでTwilight Forceに興奮したのは僕と同じですね(笑)
あとアメリカ人ベーシストは顔つきやずんぐりした体型含め、イタリアンメタルのメンバーみたいなナリだったなあ。やってる音楽も相まって、あまりアメリカ人っぽく見えなかったです。
VICTORIUS
最新作『Dinosaur Warfare - Legend Of The Power Saurus』においてあまりにもぶっ飛んだ世界観を提示してみせた、ダイナソーメタルバンドの初来日。登場前に流れていた語りのSEが突然ブツッと切れて、場内にやや失笑が生まれてしまうものの、定刻通りにスタート。
まず驚いたのがメンバー全員イケメン。特にヴォーカルのデイヴィッドなんてモデル並みの金髪ナイスガイで、coldrainのMasatoさんっぽいとすら思ってしまいました(笑) MVのロン毛のときはここまでカッコいいと思わなかったんだけどな。
新作からオープニングナンバーを二連続でやってくれましたが、やはり「Legend Of The Power Saurus」のサビにおける高揚感はハンパではなく、この曲を聴けた時点で良いライヴになる確信が生まれました。名曲は強いですね。
若手も若手のILLUSION FORCEを観た後だから余計そう感じるのかもしれませんが、演奏の安定感やライヴ運びがうまく、15年選手になるキャリアを見せつけるかのようです。パフォーマンスにもキレがあって華がありますね。コンセプトだけ、見た目だけのバンドではないことが充分以上伝わりました。
ラストの「Metalheart」では長めのシンガロングで会場の熱気を最後の最後まで落とさずに終了。持ち時間は短かったですが、HELLOWEEN・GAMMA RAY直系のジャーマン系メロスピの旨味をしっかり堪能できました。正直もっと垢抜けないライヴをすると予想していただけに、いい意味で裏切ってくれました。
ただこれだけカッコよくて華があり、演奏もB級臭さを感じさせないバンドなら、エモ、スクリーモ、ポストハードコア路線のバンドになった方がもっと人気が出そうなだけに(特に女性人気)、ある意味かなり損してますねこのバンド(笑) よくぞメロスピを選んでくれたよ!ありがとう!
MANTICORA
名前だけは知ってるけど曲にはほとんど縁がなかったバンド。こんなバンドまで呼び込んでしまうとは、EVPは怖いもの知らずですね(笑) こんな機会がなければ一生観ることの無いバンドだっただろうな。
やたら恐ろし気なバックドロップが出てきた時点で、今回の暗黒度指数が最も高い瞬間になるであろうことはすぐに予想がつきましたが、その予想はもうバッチリ当たった感じです。
一応Wikipediaによるとジャンルは「メロディックスピードメタル」と定義されており、たしかにメロディーらしきものはあって、スピード感もあるのですが、聴いた限りとても日本人が「メロスピ」という言葉からイメージされる音ではない。
とにかく不穏で不気味。まるでブラックメタルかと思うほどにダークな曲は聴いているだけで呪われそう。デスヴォイスっぽい歌唱もあるものの、基本的には高めの声質でまっすぐに歌い上げるのですが、その声が余計に呪術的なムードを漂わせる。
さらにヴォーカルのラーズ・F・ラーセンがフランケンシュタインか壊れたASIMOかと思うくらいに異様なアクションをとるわ、今まで黒タイツみたいなピチピチの恰好だったのに、途中から何故か原発作業員みたいなツナギ(+グラサン)を着て登場したり、とにかく変化球っぷりにおいては突き抜けていました。
ただそんな気持ち悪いとすら思える楽曲・パフォーマンスであるのにも関わらず、メンバーはなかなか良い笑顔を浮かべてて(僕が上手側にいたのもありますが、ギタリストの笑顔が素敵)、しきりに感謝の意を表していました。この手の不気味で悪そうなバンドほど「実は良い人なのでは?」って感じる瞬間多いですよね。
NORTHTALE
MANTICORA終わりに、せっかくだからロビーで売ってるケバブでも食うかと移動するも、この時点で売り切れてしまっていたのか、主人が片づけを始めてしまっており、そのままフロアへ引き返すことに。中盤で店じまいとは、集客数を見誤ってしまったのか。
先ほどまでとは場所を変えて、今度は下手側で待機。続いてのアクトは一昨年はTwilight ForceでEvoken Festに登場したクリスチャン・エリクソンが参加しているNORTHTALE。
つい先日発売したばかりの1stアルバム『Welcome To Paradise』がなかなかの良作で(CD感想はそのうち書くかも)、何気に期待値は高かったのですが、それに見事応えてくれる好パフォーマンスであったと思います。
STRATOVARIUS、SONATA ARCTICAらが築いてきた北欧系キラキラメロスピの基本をしっかりと踏襲した、王道の透明感あるメロディックスピードメタル。ヴォーカルとギターに存在感があるのでステージ上の見栄えもバッチリだし、音源だけでなくライヴでもメロスパーのハートをグッと掴んできた感じです。
クリスチャンは突き抜けるような見事なハイトーンを堂々と披露しつつ、中音域の柔らかい歌唱も説得力ある歌いまわしを見せる。声質がキレイなのでキラキラした音への適正もあるし、Twilight Force脱退後の彼を見出したギタリストのビル・ハドソンにはGJ!と言わざるを得ない。
拙いながらも「楽シンデマスカ!?」と日本語でオーディエンスを鼓舞し、「Shape Your Reality」や「Siren's Fall」といったスピードチューンで会場を温める。この日においてはスタイル的に一番聴きやすい音であり、かつ非常に馴染みやすいキャッチーさを持ったバンドなので、琴線の触れ具合でいったらVICTORIUSと並んで本日トップクラスでした。
惜しむらくは特にお気に入りの曲である「Follow Me」をやらなかったことと、バンドとしてはまだ結成後まもなく、アルバムも最近出したばかりなため、シンガロングを促してもオーディエンスの浸透度がイマイチで声が大きくならなかったことですかね(笑) 僕もまだ数回リピートしたくらいなので、歌うのはハードルが高かったです。
最後にLAメタルっぽさすら感じさせるようなミドルチューンの「Everyone's A Star」で締めたのは意外でしたが(その前にやった「Welcome To Paradise」がラストナンバーになると思った)、この曲もサビがとても伸びやかで気持ちがいいので、非常にスッキリした気持ちで終われました。
あと終始パワフルなプレイが印象的だったドラマーについてですが、メンバー紹介の時にクリスチャンが「ドラムス、パトリック・ヨハンソン!」と叫んでおり、「え?パトリック・ヨハンソンってWUTHERING HEIGHTSのヴォーカルじゃないの?ドラムもできるの?」と思いましたが、イングヴェイのところで叩いてた別人だったんですね。
Grave Digger
何と23年ぶりの来日となる大ベテランの正統派メタルバンド。
23年前って俺2歳なんだけど(笑)
バックドロップに描かれているような、ローブをまとった死神が現れ、ゆっくりとしたアクションでオーディエンスを煽り立てる。その後実に正統派のメタルヘッズ然としたメンバーが登場。
このバンドもMANTICORAと同じく、名前は知ってるけど楽曲にはほとんど馴染みがない枠でしたが、とにかく徹頭徹尾ド硬派のヘヴィメタルをプレイするバンドであることはすぐにわかりました。
クサさもスピード感もデスヴォイスもない、ヴォーカル・ギター・ベース・ドラムのみで構成されるヘヴィメタルofヘヴィメタルと呼べるスタイルで、本日の出演組の中ではブッチギリのオールドファッションっぷり。この日は僕と世代の近しいと思われる人もちょいちょい見かけましたが、果たしてその人たちにこの音が響いたのか...
正直僕としても正統派メタルは大好きなのですが、Primal FearやACCEPTのようなキャッチーさはかなり乏しく感じられ、疾走感もあまりないため、刺さる音ではないかな...。時代に媚びない硬派さは好感を持てるのですが。
ただかなり積極的にステージの端まで移動してオーディエンスとコミュニケーションを図るクリス・ボルテンダールのフロントマンとしての動きは印象が良く、音の武骨さに反して意外なほどの親しみやすさを感じました。
また途中に冒頭の死神が登場しバグパイプを披露する場面もあり、クルっと背後を向いてノリノリで演奏する姿は何だかちょっとカワイイ(笑) まあ正体はオッサンかもしれないけど。
ALESTORM
そして最後はヘッドライナーであるALESTORM。もういい加減立ちっぱなしで足が辛くなってきていたのですが、あと一組だけだと自分に言い聞かせて、気合を入れ直す。
やたらポップで巨大なバックドロップが顔を出し、ステージ中央には巨大なアヒルのバルーンが設置され、先ほどまでのド硬派メタルの雰囲気は一気に消え去ることに。一番ステージがファニーだ。
そしてスターウォーズ(日本語表記)のTシャツを着たキーボードのエリオット、"JAPANESE FOLK METAL"の主張が目立つTシャツのベーシストのガレスと見た目からして今日一番のポップさ。目にうるせえ。
この時点で30分ほどタイムテーブルが押しており、自宅までの終電が心配される時間になっており、さらに前述のとおり足の疲労感がハンパないことになっていたのですが、ライヴが始まった瞬間に余計な雑念は吹き飛びましたね。
だって楽しいんだもん。メチャクチャキャッチーな民謡チックなメロディーがキーボードを中心に暴れまわる!これは思わず踊りたくなってしまうこと請け合い!曲を一切知らない人でも一瞬でノリを掴めて楽しめそうですね。なんとなくFinntrollっぽいなあ~と思ったり。
僕は下手側のかなり端っこの方にいたのですが、中央にはモッシュピットが発生していることが確認でき、もし近くに居たら僕も交じっていたかもしれません。足が限界だろうと明日は日曜だし。
このメタル版Zebraheadと呼びたくなるようなふざけっぷりのステージではあるものの、演奏は非常にしっかりしており、いつの間にか上裸になってたエリオットはアサヒビール片手にグイッと飲みながら鍵盤を弾きまくり、フロントマンのクリストファー・ボウズはヒラヒラ衣服を揺らしながらステップを踏みつつ鍵盤捌きを披露。
ただ厚い演奏に反してクリストファーのダミ声ヴォーカルはやや弱めで、演奏に埋もれて音程がやや聴きとりずらい箇所もありました。まあヴォーカルの上手さが求められるタイプの音楽性でもライヴでもないので良いのですが。
そして中盤にはみんなで一斉に船をこぎ出すヴァイキングモッシュが発生!生で観るのは初めてだ!っていうかこれはモッシュと呼べるのか!?(笑)
さらにはサメの被り物(カワイイ)を被った謎の人物が登場し豪快にラップを披露するわ、小さいアヒルのおもちゃを投げ出すわ、アンコールでハードコアバンド顔負けに「Fuck you!」を連発するわで、本日一番カオスかつ楽しい空間になりました。
こうして予定時間を40分以上オーバーする濃密すぎる一夜が終了。今後日本で観られる機会があるのかわからないバンドばかりであるため(有名バンドのゲストならともかく、単独とかは厳しいのでは...?)、メロディックメタルファンとしては本当に貴重な体験だったと思います。
来年以降のEvoken Festは行われないが決定しているため非常に寂しくはありますが、2017年から3年間マニアックなラインナップをこれでもかと堪能させてくれたEVPには足を向けて寝られませんね。2020年までの残りの招聘事業は少しでも儲かってほしいものです。
そしていつの日か2000万円もの負債額を解消することができたら、その時はまた、まだ観ぬバンドに出会える機会を設けて欲しいな......と、恐ろしいほど身勝手な願いを頭によぎらせながら、6時間もの間ほぼほぼ立ちっぱなしでガタのきている足を引きずりながら帰路に就くのでした。何とか終電ギリギリに間に合って良かった良かったε-(´∀`; )