- 美と醜の完璧な融合
- 起伏は少なめで超エクストリーム
- 突如現れる劇的なクリーンパートに聴き惚れ
ここ最近よく名前を耳にするようになったものの、実は1998年結成でアルバムも結構な数出しているキャリアのある、イギリス出身のエクストリームメタルバンドの最新作。僕が中学生だったら「ア○ルだ!ア○ルだ!」と友達の高内君や、山井君、多田君あたりとキャッキャしてたであろうバンド名が特徴的。
ホントであれば本作を買うつもりはなかったんですよ。バンドの音楽性が「インダストリアルブラックメタル」と表記されることが多く、インダストリアルメタルもブラックメタルも、あまり積極的に聴かない僕には合わないだろうと思ってたんです。
しかしタワーレコードに陳列されている本作の帯に「美しいメロディー」との記載があり、「このバンドってメロディアスな要素もあるの?ホントに?」となんとなく興味を惹かれ、ついついそのまま誘われるように手を出してしまったと。バンドのマーチャンダイズにそこそこの値段を使ったばかりだというのに、また出費をしてしまった自分...
そして本作を聴いてみてブッ飛びました。買った直後の「またやっちゃった...」な後悔まですべて吹き飛ばしてしまうほどの衝撃。こりゃすごいアルバムに出会ってしまったもんだ。
音自体はブラックメタルらしい極めてエクストリームなもの。地獄の底から湧き出てくるような、凶悪極まりない金切り声は聴き手の鼓膜を裂かんとするばかり。ヘヴィなグルーヴ感はほとんどなく、ブラスト気味の超速ドラムにシャリシャリとした高音を強調した音作りは、ブラックメタルらしい点です。iPodで聴いてると耳がイカれそうな不安感を覚える。
しかしそんな極悪高速メタルサウンドに、一瞬で意識を持っていかれそうになる劇的なメロディーを大胆にも取り入れている。ブラックメタルがメロディアスになることは別に珍しくもないんでしょうが、ここまで熾烈な音を出してきて、いきなりこんなメロディーが飛び出してきたらハッとしてしまうわけです。
それに合わせるようにギターフレーズも要所要所でメロデスのような叙情性を押し出してきたりして、それが極悪な音と違和感なくマッチ。僕のような「あまりにも過激すぎる音はちょっとな〜...」という人間にも、否が応でも胸に響く旋律は素晴らしいの一言。
タイトルトラックであるM1「Endarkenment」からして、早速彼らの強みが発揮された名曲。サビにかけてせり上がるように緊張感が増していき、解き放たれたかのようにクリーンヴォーカルが炸裂する瞬間が凄まじくドラマチック。この曲で僕のハートは一気に射抜かれました。
ブラックメタルらしい不気味で寒々しいオーラを存分に放ちながら、これまた美しくドラマチックなサビ、そして泣きのリードギターソロまで飛び出すキラーチューンM3「The Age Of Starlight Ends」、珍しくモダンメタルコアっぽいソリッドなリフで駆け抜け、嘔吐いているかのような気色の悪いヴォーカルパフォーマンスを聴かせるも、格式高い美しさは決して忘れないM4「Libidinous (A Pig With Cocks In It's Eyes)」、メロデスライクな叙情美リードギターがサビ裏でむせび泣きドラマを演出するM7「Create Art, Through The World May Parish」などなど、美と醜を融合させたサウンドがとめどなく流れ続ける様は圧巻です。
ボートラを除いたラストのM10「Requiem」はまさにアルバムのラストを飾るにふさわしい、黄泉の国へと送られるような哀しいメロディーが光ります。世にエクストリームメタルは数あれど、これほど残虐なサウンドと哀愁美旋律をうまく同居させるバンドはなかなかいないのでは。
いやはや、こいつはすごい掘り出し物。決してエクストリームメタラーとは言えない僕のようなリスナーでも、繰り出される極上のメロディーに陶酔してしまう凄まじいアルバムでした。
全曲似たりよったりのテンションの高さで、アルバム全体の起伏は少ないため、フルブラスト系のエクストリームな音が苦手な人には敷居が高いかもしれませんが、ぜひとも騙されたと思って聴いてみてほしい名盤。近年まれに見る珠玉の美醜世界がここにある。
個人的に本作は
"最凶レベルの極悪高速サウンドと、息を呑む劇メロが溶け込んだメロディアス・エクストリームメタルの傑作"
という感じです。
Anaal Nathrakh - Endarkenment (OFFICIAL VIDEO)