- 90年代を代表するメタルアルバム
- スピードを抑えヘヴィなダイナミックさを強調
- リフというリフの応酬にヤラれる快感を味わおう
つい先日、新型コロナウイルスワクチンの2回目の接種を終えました。よく言われているように2回目の方が副作用が強く、1回目接種後の体温は37.5度前後をキープしていたのですが、今回はヒドいもんでしたよ。
なにせ接種当日の夜10時ごろになると39度台にまで体温が上昇(最高で39.7度)、それが一晩中続き、次の日になってもほぼ一日中38度台から下がることがなかったんですから。咳や鼻水、鼻詰まりが誘発されないことは救いでしたが、頭痛はヒドいわ、左腕は痛いわ、体の節々(特に腰)は痛いわ、倦怠感でフラフラだわで、ここ数年で一番キツい思いを味わったかもしれません。「普通にコロナにかかって、免疫作った方が楽なんじゃねえの?」なんて不謹慎な考えが頭をよぎるほどに。
当然仕事を休んで寝っ転がってるだけで一日を消費するだけでしたが、そんな時にでもできるのが音楽を聴くこと。こういう弱った時には、パワーあふれるサウンドに身を浸した方がいいなと。
ただ今回は容体が容体なだけに、あまりテンションを上げすぎるような楽曲は却ってうっとおしく聴こえてしまいそうだったので、あまりにエクストリームなアルバムは流さず(SLAYERやANAAL NATHRAKHを流したものの、すぐに止めてしまった)、ちょうどいい塩梅の作品として、METALLICAのブラックアルバムを一番よく聴いてたんです。
熾烈になりすぎず、かつ適度な攻撃性も秘めているサウンドとして、本作が一番ハマるんじゃないかなと思ったんですね。寝っ転がりながら何度も周回でリピートしながら聴いてました。
世界一有名なヘヴィメタルバンドの一番売れたアルバムということで、未だにシーンに燦然と輝く大名盤扱いをされている一枚。今こんなブログで何を書きゃいーのよ、という感じすらありますが、まあせっかく聴き込んだんですからね。なんか形に残そうかと。つい先日リマスターが出たばかりなので、タイミング的にもちょうどいいでしょう。
1991年という、セックス・ドラッグ・ロックンロールの考え方が完全に過去の遺物となり、ヘヴィメタルというジャンルが壊滅状態になる寸前の時代、当時勃興しだしたグランジのサウンドに影響を受けたMETALLICAが、従来のリフ重視のメタルスタイルからスピードをほぼ捨て去り、グルーヴィなヘヴィさを導入することで時流にピタッとハマることに成功。結果的に世界で3000万枚も売り上げたという、90年代メタル最大のメガヒット作。
ヘヴィメタルのアルバムを聴き出し始めた僕は、当然ながら超有名な本作も早い段階で手を出していましたが(いつ買ったかは忘れた)、METALLICAには「Battery」「Fight Fire With Fire」「Motorbreath」などの激烈スラッシュチューンにこそ魅力を感じていた僕、やはり遅いMETALLICAというのは、初聴きの段階だとどうしても地味に聴こえてしまい、さしてリピートするに至らなかったというのが当初。
ただ改めて本作を聴いてみると、疾走だけではない魅力というのが見えてくる(聴こえてくる)というものですね。ジワジワと、かつ確実に中毒状態にさせてくるようなアルバムと言えるかも。
彼らの魅力の一つであった研ぎ澄まされた刃の如きリフが一層鋭さを増し、それでいてどこか口ずさめるようなキャッチーさをも内包。そんな病みつきリフが楽曲の至るところでズンズンザクザクと刻まれる。オープニングのM1「Enter Sandman」はそんな本作の特質をわかりやすく表した名曲です。
またグランジに影響されたといっても、そこまでドヨ〜ンと陰鬱な音像には陥っていないところもポイントですね。確かにダークで不気味なムードが支配的ですが、そんな中にもしっかりとメタルらしい溌剌としたエネルギーが溢れていて(これもやはり切れ味あるリフによる影響が大きいと思う)、特にテンポを上げて攻撃的なリフと小気味良いジェームズのヴォーカルが弾むM3「Holier Than Thou」、M7「Through The Never」は文句なしに"カッコいいヘヴィメタル"ですよ。
そしてバラード2曲の出来も良い。切ないアコギのイントロが渋さを演出し、高音気味のサビのヴォーカル、泣きすら帯びたカークのリードギターがまた良い味を出したM4「The Unforgiven」に、さらにそれ以上というくらい儚さを極めたアコギが美しく、狂おしいほど激情を演出するM8「Nothing Eles Matters」。これはかつての吐き捨て歌唱オンリーだったジェイムズではなし得なかった完成度ですね。
惜しむらくは、そのM8が終わってからの流れは、名曲・名リフがどんど押し寄せる前半ほどのインパクトは感じられなくなってしまい、後半やや地味というか印象に残りにくく感じてしまうところでしょうか。とはいっても、もちろんそれは相対的なもので、充分に完成度の高い曲たちであるし、ラストのM12「The Struggle Within」は緊張感あるイントロからヘヴィリフで押し進む刺々しい曲で、有終の美を飾ってくれます。ワウと速弾き炸裂のギターソロも見事!
基本的に速くてメロディアスなヘヴィメタルが好きな僕にとって、本作は手放しで「大名盤!オススメ!」というのはちょっと気が引けるのですが、そんな僕ですら得体のしれないパワーで意識を取り込まれてしまう。そんな魔力が渦巻く力作であり、その魔力に当時のメタルヘッズ、刺激を求める若い人たちはヤラれてしまったんでしょうなあ。
個人的に本作は
"ヘヴィでダークな時流に乗りつつ、キャッチーに響く極上のリフで圧倒する、不思議な魅力に陶酔できる作品"
という感じです。