- メロディックデスメタルではない
- 動脈切断リフと生々しい情感たっぷりの流麗ソロ
- 聴けば聴くほど中毒気味になる残虐サウンド
リヴァプールの残虐王の異名を持ち、グラインドコアとメロディックデスメタルという二つのジャンルの源流とされる重鎮・CARCASSが放つ最新作。
本来はもっと早くのリリースになった予定ですが、新型コロナウイルスの流行により発売延期を余儀なくされ、間にEP『Despicable』を挟んでようやく日の目を見ることになりました。
野菜で心臓を形作られたアートワークは、Ghostの最新作などを手がけたズビグニエフ・ビエラクによるもので、ブックレットにはページを捲るごとに徐々にその心臓が腐敗していく様が描かれています。
この方式は、野菜の寄せ集めで肖像画を生み出すジュゼッペ・アルチンボルドの作風、そして死体が時間経過と共に朽ち果てていく様子を9つの絵で描いた日本の仏教絵画「九相図」から着想を得たそう。メンバーがベジタリアンであり、かつ「腐敗」「死体」「臓物」みたいなワードがこの上ないほど似合うCARCASSにはピッタリですね。まあブックレットに載った野菜心臓の写真は10枚あるんですが(笑)
CARCASSは一応日本では「グラインドコアからメロディックデスメタルへと変貌を遂げたバンド」と認識されており、現在ではメロディックデスメタルバンドであるとされているように思います(ですよね?)
ただ実際彼らの音を聴いてみると、いわゆる普通のメロデスとされるバンドの音と比べるとだいぶ感触が異なり、メロデスバンドと十把一絡げにまとめてしまうのも戸惑われます。そして「メロディアスなデスメタルではあるんだけど、安易にメロデスとは呼びにくい」という方向性は本作でさらに推し進められているのです。
日本はおろか世界でも最高峰の(?)CARCASSファンである掟ポルシェさんは、ヘドバンVol.31の新譜レビューにおいて、"もしあなたが今作に「メロディック・デス・メタルのCARCASS」を期待しているなら残念ながらここにはない"と断言してしまっています。
本作で聴ける音は、ブルータルなんだけどモダンなヘヴィさは皆無の、70〜80年代的オーソドックスHR/HM的リフが満載であり、わかりやすい慟哭は無くとも生々しい情感満ち、流麗に奏でられるリードギターソロ、綺麗な音質であるにも関わらずグチャグチャしたアングラ感をしっかりと演出できるデスヴォイス、それらが渾然一体となったエクストリームメタル。
中心人物であるビル・スティアーも、「クラシック・ハードロックの影響がたくさん反映されている」「ダッド・ロックの影響はいつも入っているような気がする」と語っていて、これこそがCARCASSというバンドの音楽的方向性なんでしょう。とは言っても彼らはアルバムごとに作風を変えているようなので、次作がどうなるかはわかりませんけど。
近代的なエクストリームメタルのようなド派手なサウンドではなく、ストリングスもシンセもクワイアも無し。リードギターもわかりやすいメロディアスさが出ているわけではないと、本来であれば僕の趣向にはあまりマッチするとは言い難いアルバムです。
しかしなんでしょうね、この病みつきになる感と言いますか、聴けば聴くほどにクセになって来ると言いますか...。ほぼバンドサウンドのみで奏でられる不純物一切なしの正統的なHR/HMサウンドが、たまらなく心地いいんですよ。全体的にリフのザクザク加減が絶妙で、グシャグシャに切り刻まれていく危険な快感と中毒性を呼び起こしてくれるのです。
最初聴いた時は「ちょっと地味かな...」と感じていたのに、スピーカーから流れ出る音に身を任せ続けていると、シャープになりすぎないギターリフの連続に意識を取り込まれてしまうのがよくわかります。
オープニングの段階でリスナーの動脈を切り裂きにかかるリフが大盤振る舞いのM1「Torn Arteries」から始まり、流麗なソロとそのバックでズンズン刻まれるリフが快感度抜群のM3「Eleanor Rigor Mortis」、もの悲しいアコギとスローなギターソロパートが挿入され、残虐ながら心地よいグルーヴにも魅せられる9分以上の大作M6「Flesh Ripping Sonic Torment Limited」、これぞCARCASSと言いたくなるような唸るリードギター、濁流のように押し寄せるリフが味わえる爆走チューンM7「Kelly's Meat Emporium」と、ひたすら止めどなく流れ出るブルータルなサウンドに「もっと切り裂いてくれ!」と懇願したくなります。
ここに収められている音は確かにメロデスではないです。HR/HMを愛する者を快楽を与えたままザクザクズタズタにしてしまう鋭利な悦楽サウンドです。この危険な中毒性はかなりのものですよ。
なお国内盤ボーナストラックのM11「NWOBHEAD」は、これだけカバー曲なのか?と思ってしまうほどにテイストの違う曲ですが、ヴォーカル以外はメロディアスな正統派HR/HMそのものと言い切っていいくらいの楽曲で、正統派好きのリスナーは本編差し置いて一番気に入るかもしれない。
個人的に本作は
"正統派HR/HMでありながらエクストリームメタル。既存のメロデスのフォーマットには収まらない中毒性満載の生々しいバンドサウンド"
という感じです。