- 前作と変わらぬ美しき北欧の神秘的な香り満載
- エクストリームメタルとしての攻撃力はほぼ封印
- ボートラで人が変わったように爆走!一体どうした!?
去年に引き続き、年内最後の更新がデスメタル。いいのかこれで。
スウェーデンのメロディックデスメタルバンドながら、いわゆるスウェディッシュデスとは若干毛色の異なるメロデスを聴かせる、OMNUIM GATHERUMの9thフルアルバム。前作『The Burning Cold』からは3年ぶりとなる作品です。
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前作で聴かせてくれたサウンドと印象は変わらず。メロデスらしい哀愁のリフ・ソロ以上に、北欧的透明感の際立つキーボードを主軸とし、エクストリームメタルらしい激しさ、激情を控えた美しさが際立つ曲が並ぶ。
どこがサビに当たるパートなのかがハッキリとわかるくらいメリハリのついたメロディーが支配的で、デスメタルでありながら、もはやポップと呼べるほどに聴きやすい。"ポップなデスメタル"なんてものが成立することをまざまざと見せつけてくれるかのよう。
もちろんメロデスらしい叙情リフも随所に出てるし、低音を基調としたアングラ臭漂うデスヴォイスは、しっかりと自身がデスメタルバンドであることを主張しています。しかしそれ以上に存在感があるのが上記のキーボードなので、どうしてもそっちに注目しちゃう...というか、デスメタルらしいアグレッションは、前作以上に廃する方向に推し進められている感じ。
そりゃあ個人的には、メロディックデスメタルという音楽には熾烈な慟哭リフを刻みまくり、怒涛の勢いと泣きまくりのリードギターでドドドドドッ!と疾走するパワフルなスタイルの方が好きですよ。メロディー重視とはいえ、さすがにちょっと落ち着きすぎかなと感じるのは事実。
それでもやはり、他ではなかなか聴けないタイプの音だけにインパクトは大きい。冬景色が目に浮かぶかのような冷気と煌めきをたっぷり含んだサウンドは、前作で体感したとはいえ新鮮な感動を与えてくれる。北欧情緒の寒々しいサウンドは、神秘的で、不気味で、美しい。
イントロのM1「Emergence」から、その透き通るキーボードによるメロウな旋律が描かれ、そのままのスタイルで叙情性抜群の曲が続きます。クリーンヴォーカルを大々的に使って壮大に仕上げたM3「Paragon」、妙に耳に残りやすいキャッチーなギターフレーズと、サビ裏で鳴り止まぬリードが武器のM4「Reconing」など良曲揃い。
珍しくヘヴィさを際立たせたリフからスタートするM6「Friction」や、ブラストビートによる疾走までも取り入れたM7「Tempest」といった楽曲も、エクストリームな印象より、叙情的メロディーの印象のほうがはるかに強い作風になっているのが、本作の特徴を決定づけていますね。これの良し悪しは人それぞれ分かれそうですが。
強烈な泣きをまとったメロディアスなギターソロが大きな存在感を放つM8「Unity」は、特にドラマチック極まりない楽曲。バックで鳴るピアノや、壮麗なコーラスも美しさに磨きをかけています。
しかし、先行シングルカットされたボーナストラックのM11「Chaospace」は、叙情性こそキープしつつも、「おい!急にどうした!?」と思わんばかりの、つんのめる疾走ドラムとうねりまくるリフで駆け抜ける爆走チューンでかなりカッコいい。これボートラじゃもったいないよ!十分にメインコンテンツ張れるよ!
デスメタルという名に期待される暴虐性はさらに希薄化が進み、もはやヴォーカルがデスなだけで、他は完全にメロディックメタルというスタイルになっている一作。エクストリームメタルとして聴くとどうしても物足りなさはありますが、そんな不満を楽曲の良さで帳消しにしてしまえるほど、美しいポップセンスに溢れた個性的なメロデスサウンドです。
個人的に本作は
"形式的にはメロデスだけど、デスメタルらしさはかなり薄め。キーボード主体の、北欧的な煌めきを持つ哀愁メロディーがダダ漏れ"
という感じです。