- Bullet 2.0を謳ったアグレッシヴな一作
- 前作の落ち着きが見事に消え去った爆発力のあるサウンド
- かつてのようなメロディーの煌めきはやはり薄い
TRIVIUMやAVENGED SEVENFOLDらと共に新世代メタルの旗手として注目され、今やなかなかのキャリアを誇るようになった、イギリスはウェールズ出身のエモ/メタルコアバンド・BULLET FOR MY VALENTINEの最新作。
本作は7枚目のフルアルバムにして、バンド名を冠した作品。2004年に発表したEPもセルフタイトル作なので、同じ名前の作品が2つ存在することになりますね。確かKILLSWITCH ENGAGEも同じようなことになっていたような。
バンドの中心でありフロントマンのマット・タックをして「Bullet 2.0の始まり」と表現しており、バンドがフレッシュな状態へと進化し、新たなステージへと到達したことを強調している。そして音を聴けば言わんとしていることも何となくわかるような気がします。
前作『Gravity』は、客観的なアルバム自体のクオリティーが低いとは思いませんが、正直彼らに求めているサウンドが提供されているとはとても言い難い作風で、「Don't Need You」という目立ったキラーもあることはありますが、全体的にかなり不満の強い、彼らの作品中最も張り合いのないアルバムになってしまっていました。
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そのことを省みて制作に着手したのか、前作に比べて明らかにサウンド面の攻撃力が増している。ソリッドに研ぎ澄まされたシャープなサウンドは前作から引き続き、そこへ気合の入ったシャウトが大幅増量、疾走感も飛躍的に向上し、ヘヴィさを強調したアグレッシヴさがある(もちろんガチのメタルコアのような重心の低いサウンドではなく、あくまで彼ららしい音作りの範囲で)
疾走感やシャウトの獰猛さという点に関して言えば1stアルバム並みに充実していて、確かにCDの帯に記載してある"フレッシュで、アグレッシヴで、今までよりずっと直感的で情熱的だ"という文句通りのアルバムだと思えます。
前作がかなりヌルい作風だったので、こういった刺々しさや攻撃性が潤沢になった本作の方向性自体は好ましい。普通にカッコいいですし。
...しかし、では本作の出来に満足しているかと聞かれれば、そうとも言えないというのが正直なところでして。先行で本作収録のM1「Parasite」、M2「Knives」が公開された段階で何となくそんな予感はしていましたが...
と言うのも、前作で感じた足りなさが本作にも共通して存在しているのです。それがメロディーの弱さ。
アグレッシヴな面にフォーカスしてくれているのは良いのですが、初期の頃にあったエモ的なキャッチーなメロディー、これが不足している以上、かつての名盤ほどの満足感を得ることはどうしてもできない。
かつての彼ら、それこそ1st〜3rdにかけての頃は、鋭い切れ味のリフを持ちつつ、メロディックなツインギターにキャッチーさを多分に含んだ歌メロが絡み、メロウさを味わいつつ激しさで興奮できる絶妙のバランスがありました。
しかし、本作はメロディー面がどうしても弱く、すごく嫌な言い方をしてしまうと「激しいのは良いんだけど、それだけ」という感じで、聴き終えた後に強烈に印象に残ったり、シンガロングしたくなる瞬間があまりない。
エクストリームさ重視で「軟弱なキャッチーさなんかいらないんだよ」という人にとっては、吹っ切れたかのような勢い抜群の本作を高く評価するかもしれませんが、「Scream Aim Fire」「The Last Fight」のような曲にこそ魅力を感じていた僕からすると、やっぱり物足りなさが目立っちゃうかな。
ちょっとネガティヴなことを書き連ねてしまいましたが、何度も言うようにシャープで突進力あるサウンドの力強さはバッチリなので、カッコいいことは間違い無いですよ。特にM8「Shatter」という彼らとしてはかなりヘヴィなリフを強調させた曲から、M9「Paralysed」〜M10「Death By A Thousand Cuts」という殺傷能力抜群の疾走曲の連打へと繋がる終盤は文句なしにカッコいいです。
まあ本作のようなスタイルの曲は家で腰を据えて聴くよりも、ライヴで暴れながら爆音で浴びる方が正しい聴き方な気がするので、生で聴くことで印象は異なってくるのかもしれません。
個人的に本作は
"前作で削がれていたエクストリームな疾走感が完全復活。しかしメロディー面の弱さはまだ克服されてない"
という感じです。