スラッシュメタル四天王、いわゆるBIG4の一角であり、来年には日本武道館ライヴも決定しているインテレクチュアル・スラッシュメタルバンドMEGADETHの最新作。BIG4の中では最も新作発表のペースが早い彼らですが、前作『Dystopia』からは6年ぶりと、だいぶリリースの間隔が空いてしまっています。
この期間、バンドはなかなか大変な出来事に見舞われており、前作リリース後にはドラムのクリス・アドラーが脱退(もともと正式メンバーではなかったらしいですが)。後任として元SOILWORKのダーク・ヴェルビューレンを迎えるも、2019年にはデイヴ・ムステインに咽頭がんが発覚して、その後に控えていたスケジュールが白紙に。
2020年に入るとコロナ禍が到来し、さらに追い討ちをかけるように、デイヴと並んでバンドの看板であったベーシストのデイヴィッド・エレフソンが、未成年とのアレやコレやなメッセージや動画がSNS上に流出してバンドから解雇される......など、なかなかに波瀾万丈なストーリー。
しかし、そんな逆境にすらめげずに曲作りを続け、先行公開されたM12「We'll Be Back」(なんて素敵なタイトル!)は、MEGADETHというバンドに求められている要素がしっかり息づいた性急なスラッシュチューン。この曲を聴いて一気に新作への期待が高まった人も多かったでしょうね。ベースについては、デイヴィッド・エレフソン解雇に伴い、新たにTESTAMENTのスティーヴ・ディジョルジオが録り直したそう。
その後に公開されていった楽曲も、どれもが鋭くテクニカルなリフに次ぐリフ、デイヴのふてぶてし〜いヴォーカル、テンションの高まりを一切損ねないスピード感と、実にMEGADETHらしい完成度を誇るものばかりでした。
そして実際届けられた本作も、事前に高まった期待に応えてくれる良質なもの。先行公開された楽曲のインパクトを超えるような楽曲は少なかったものの、どの曲もMEGADETHらしい危険なオーラ、緊張感、鋭利に研ぎ澄まされたリフ、複雑かつ高速に弾き倒されるソロと、これぞMEGADETH!なサウンド。嫌でも過去作品を連想させるタイトルもそうですが、かつてのMEGADETHとしてのスタイルを今に再現しようという意思があるのかも。
デイヴももう61歳、還暦を超えたというのに(本作のレコーディング期はもうちょい前ですが)、まだまだヤレるぜと言わんばかりに、攻撃的なリフを量産していて頼もしいのなんの。ほとんどの曲の作曲クレジットにキコ・ルーレイロの名前があるので、ある程度は彼からのインプットもあるのでしょうが、まだまだ大佐の前のめりな姿勢は崩れない。
非常にMEGADETHらしいと言えるだけに、作曲に携わった割にはあまりキコ・ルーレイロっぽさ、ANGRAっぽさみたいなものは強く感じられない。気持ちメロディックなギターフレーズが聴かれるかな?とは思いましたが、やっぱりデイヴがフロントマンを務める限り、このバンドはどこまでいってもMEGADETHなんだな。
まあ、MEGADETHというバンド名にメロディックパワーメタル的な音像などは求めていないし(それはそれで聴いてみたい気もしますが)、攻撃的なリフが充実していて刺々しいサウンドが提供されていれば、リスナー側としては何の問題もないですね。
M1「The Sick, The Dying... And The Dead!」〜M2「Life In Hell」〜M3「Night Stalkers」という、頭3曲のインパクトが特に凄まじく、性急なテンポで巧みなリフさばきが炸裂、ツインリードの速弾きがこれでもかと刻まれる様は圧巻。
イントロの美しきアコギからヘヴィに展開し、後半からの疾走リフの刻みに興奮させられること請け合いのM4「Dogs Of Chernobyl」に、曲タイトルを叫ぶヴォーカルがやけに耳に残り、ラストを飾る高速ギターソロが文句なしにカッコいいM6「Junkie」、まるで正統派メタルかと思うほどのギターリフ(なんとなくHIBRIAを思い出した)からスタートし、鋭利かつリズミカルなリフと疾走感でメチャクチャ心地良く頭を振れるM10「Célebutante」(これはかなりのキラーチューンだと思う)と、どれもこれも破壊力満点のインテレクチュアルスラッシュナンバーばかり。
そしてトドメと言わんばかりに前述の名曲M12がラストに構えているわけですからね。従来のファンなら、充分以上に満足することができるはず。
前作に引き続き、MEGADETHならではの良作に仕上がっています。やはり何といってもリフにしろソロにしろ、ヒリヒリするような危険なオーラ! これが漂っているから、MEGADETHはカッコいいのです。
キコが加入してからのここ二作品は、MEGADETHの名に期待されるアルバムになっているわけですから、無機質なイメージの強いバンドながら、案外メロディックなセンスを持ったギタリストとの相性が良いのかもしれない。
個人的に本作は
"攻撃的かつ緊張感に満ちたリフ/ソロが支配する、MEGADETHらしい危険な魅力溢れるスラッシュ作品"
という感じです。