- カルト的人気を集めた伝説のバンド唯一のフルアルバム
- 極端なテンポチェンジの少ないヘヴィなニュースクール
- 叙情的ギターはもはやメロデスの域へ
先日、渋谷のNERDS RECORDS STOREというCDショップに行ってきました。
ハードコア、パンクロックを中心にCD、レコード、カセットを扱うお店で、小さな店内にびっしりとハードコア系CDが並んでいるのは、なかなか心をくすぐられるものがありました。タワーレコードやHMVのような大手とはまったく店構えが違うので、チキンな僕は若干入るのに勇気がいりましたが、そこはもう勢いです。
その日ここを訪れたのは、ある1枚のCDが欲しくて行ってみたのですが、探してみると案外あっさりお目当てのブツが見つかりました。
それが今回このブログ記事で取り上げる、日本のニュースクールハードコアバンド・State Craftの唯一のフルアルバム。
このバンド、どうやら90年代後半のハードコアシーンにてカルト的人気を誇っていたらしく、ハードコアファンから教祖の如く崇められていたのだとか。
2000年に海外レーベルから1stフルアルバムをリリースし、さあこっからだ!という時期に差し掛かったものの、ベーシストが殺人事件を起こして逮捕されるというショッキングな事件に見舞われ、その影響を受けてバンドも分解してしまうという憂き目に合ったのだそう。
ちなみに調べていて知ったのですが、このState Craftでギターを弾いているKOHAMAさんは、このNERDS RECORDS STOREのオーナーをされてるそうです(僕の会計をしてくれた人がそうだったのかも)
さらに言うなら、「ちっちゃいことは気にすんな!それワカチコ!ワカチコ〜!」でお馴染みのお笑い芸人のゆってぃさんは、KOHAMAさんの幼馴染。ゆってぃさんがKILLSWITCH ENGAGEのファンで、メタル/パンクに造詣のある人だとは知ってましたが、こんな繋がりもあったとは。
そんな素敵なお店にお邪魔して、近場のディスクユニオンを探してもなかった本作を入手することができたのです。今後また渋谷に行く機会があったら、ちょいちょいのぞいてみようかなココ。
さて、そんな伝説的存在となったハードコアバンドの唯一のフルアルバム。内容を一言で表すなら「叙情的なハードコア」に尽きます。
上の動画にてゆってぃさんがKOHAMAさんに対して「あなた叙情的なのホント好きですよね。最終的にエンヤとかいってましたからね」とツッコんでいましたが、まさにそのKOHAMAさんの叙情的趣向が、この音に反映されているのだろうと思われます。
ザリザリとひしゃげたような歪み方のギターがヘヴィに唸り、喚き散らすヴォーカルで畳み掛ける。高音のコーラスも積極的に取り入れて、ツインヴォーカルのような体制になっているのは、どことなくヌンチャクっぽいなとも思った。
このタイプの違う二人のヴォーカルは、正直どちらもちょっとパワー不足。デスヴォイス未満の地声混じりダミ声で叫び散らす感じなんですが、ハードコアのタフさを表現するものとしては、だいぶ物足りなさがありますね。無我夢中なヤケクソ感はよく出てるとは思いますが。
楽曲の骨格はニュースクールハードコア的なんですが、そこまでドッシリと重苦しいブレイクダウンは少なく、さらにサークルを生み出すような疾走パートの存在感も薄め。ミドル〜アップテンポを主軸に、ヘヴィに突き進むような感じが基本です。
そしてなんと言っても本作を特別たらしめているのは叙情性ですね。刻み込まれるリフが、もはやメロディックデスメタルの領域に足を踏み入れているほどに、メロディアスな泣きを放り込んでいる。
さらに隙あらば非常にもの悲しいアコギの旋律を絡めてきたりするし、時折飛び出すメランコリックなリードギターの存在も非常に大きい。M3「Final Heaven's Deception」の後半で聴けるアコギとリードの絡みは、もうそこだけ聴いたらハードコアではなく完全にメロデスだ。
さらに驚きなのがM4「Into The Snowlight Gate」。バキバキのベースと叩きつけられるドラムが、重心の低いハードコアの姿を見せつけるも、ラスト付近にて唐突に現れる疾走パートでは、本作中随一のメロディアスさを誇るギターが唸りを上げる。ハードコアがここまでメロディックになっていいの?と思ってしまうほど。
アルバム全域においてメロデスらしい高速叙情リフと悲しいアコギ、バックで泣くリードギターが活躍していて、ハードコアなパンクスよりむしろ、メロディアスな泣きを愛するメタルヘッズに訴えかけそうですねこれは。
エンディングにて慟哭リフとアコギの組み合わせでフェードアウトするM6「Forever Yours」、モロにメロデスなリフの応酬をヴォーカル裏で刻みまくるM7「Creation, Domination, Retribution」、アルバムの締めくくりにて、どこか希望をも抱かせるようなポジティヴな泣き(ハードコアなのに!)をリードギターとシンフォアレンジで表現したM9「Seasons End」など、ハードコアマナーから逸脱してるのではというくらいドラマ性を打ち出しています。
今でこそ異ジャンルの組み合わせだとか、オーソドックスなサウンドの型に当てはまらないバンドって結構出てきてるんじゃないかと思うのですが、本作が発表された2000年の時点で、すでに日本からこんなサウンドが生まれていたんですね。まだメタルコアだって海外シーンに定着する前だと思うんですけど。
ここまで暴力性以上に音楽的な劇的さを強調させた音楽が、当時のハードコアシーンにて宗教的人気を集めていたとは、なかなか興味深い事実だな〜と。フロアで暴れるのみならず、泣きの要素にも当時のキッズは魅力を見出していたんですね。
ブックレットの写真にも、狭いライヴハウスを狂乱させていた様子が見てとれる。「生まれてきた時代を間違えた」とまでは思いませんが、このバンドがガッツリ活動していた90年代後半〜00年代初頭にかけてのバンドシーンで青春時代を過ごしていた人のことを、少し羨ましく思ったりもしますね。
個人的に本作は
"極端なブレイクダウンや疾走感には頼らない叙情派ニュースクール。メロデスの領域まで来た泣きの叙情性を全面的に押し出す意欲作"
という感じです。