ひとりごと ~Music & Life-Style~

HR/HMを中心としたCD感想、足を運んだライヴの感想をメインにひとりごとをブツブツつぶやくブログです。

AVENGED SEVENFOLD 『Life Is But A Dream...』

  • A7X史上最大の実験的作品
  • 様々な音色と展開に満ち、メタルの範疇に収まらない
  • 奇怪な作風と気味の悪さからくる不思議な中毒性

 

いったいこれは何なんだろう...?

 

そんな困惑とも言えるような思いを抱かせる音楽を聴きながら、この文章を書いてます。

 

全米チャートNo.1の経験を持ち、現代メタルシーントップクラスの人気を誇る、アメリカのヘヴィメタルバンド・AVENGED SEVENFOLDの8thフルアルバム。前作『The Stage』から、EPを挟んでいるとはいえ7年ぶりと、だいぶ長めのスパンで発表されました。

 

A7Xはご存知の通り、アルバムをリリースするごとに音楽性を変化させてきたバンドで、一概に「こんなメタルをやってるよ」と言い切りにくいです。

 

初期はB級テイストを漂わせたメタルコアをプレイしていたものの、『City Of Evil』でメロディックスピードメタルの要素を大胆に取り入れる。その後4th『Avenged Sevenfold』にて、単に疾走感のみを売りにするだけでない、メロディックヘヴィメタルとしての真髄が頂点に達します。

 

ドラマーであり作曲面にも大きく貢献していたザ・レヴを喪ってからは、メロディアスさはそのままに、ダークさが前面に押し出された『Nightmare』、疾走パートを取っ払って、王道のヘヴィメタルらしいスタイルとなった『Hail To The King』へと続いていきました。

 

前作『The Stage』は、ダークな叙情性を残しながら、失われていた疾走パートを増強し、ドラマチックなA7Xヘヴィメタルを打ち出しました。これまで彼らが打ち出してきた音楽性をバランスよく配分させたような楽曲群は、レヴがいたころほどわかりやすくはないものの、充分以上に良質なメロディックメタルといえます。

 

そんな音楽的遍歴を経て発表された本作。内容はというと、これまで以上に音楽性に幅を広げ、もはや「ヘヴィメタル」という言葉では括りきれない領域になっています。「これはなんだ?俺は本当にメタルバンドのアルバムを聴いてるの?」という思いが頭をもたげる瞬間もありました。

 

プログレッシヴロック的であったり、ミュージカル風だったり、はたまたアヴァンギャルドだったり、とにかく実験的な展開が多い。本作に関するレビューをいろいろ見てると、やれDAFT PUNKとかフランク・ザッパとか、メタルレビューに似つかわしくないアーティスト名がチラホラ...

 

前述の通り、A7Xは音楽性が凝り固まったバンドではないのですが、まさかここまでメタルの領域を飛び出てしまうとは。ヘヴィメタルって本来は聴いてて爽快感を得たり、ネガティヴな気持ちを発散させたりするものだと思うんですけど、本作は「これがA7X...?」という困惑が先に来てしまう。

 

こう書くと「実験的な方向に舵を切りすぎた失敗作」と思われるかもしれませんが、決してそうではないんですよ。困惑しながらも楽しめるというか、予測不能な展開に振り回されるのが快感になって、不思議とリピートしたくなるというか。

 

アルバム前半は従来の疾走感溢れるメタルのスタイルが顕著。M・シャドウズの早口で畳み掛けるヴォーカルに、流麗で粒の揃ったギターソロ、軽めの音質でツタツタと疾走するサウンドは、まさしくA7Xらしい姿。

 

オープニングのM1「Game Over」から早速勢いのある出だしで、痛快な印象を与えてくれる......のですが、こういった曲調でも疾走一辺倒ではない。途中でシアトリカルな、スローで怪しいパートをブッ込んでいるところが、一筋縄ではいかない作風を暗示しているかのよう。

 

本作にしてはややヘヴィ寄りなギターリフからスタートするM2「Mattel」も、終始怪しさをプンプン漂わせつつ、シャウトと共にリズムが落ちるアグレッションも持ち合わせている。それなのに「普通のメタルで終わらせてたまるか!」と言わんばかりに、途中でデジタル風味の強いシンセサウンドが前面に押し出されるパートもあったりして油断なりません。

 

ドゥーミーな曲調ながら、途中で急にミュージカルテイストなコーラスが入れ込まれるM3「Nobody」に、軽いドラムの疾走に合わせて、人を食ったようなヴォーカルが絡みながら、予測不能の展開を繰り返し続けるM4「We Love You」と、A7Xらしさはあれど、どこかおかしい、どこか普通じゃない匂いを放つ曲が続いていく。

 

そして後半は、多少はあったメタリックな質感がいよいよ少なくなっていく。特にM8「G」から、ラストのM11「Life Is But A Dream...」までのラスト4曲に至っては、ヘヴィメタル要素はほぼ皆無。M8はかろうじて変拍子でテクニカルな、プログレメタルらしい演奏がありますが、メタル要素はせいぜいそのくらい。

 

M8からシームレスにつながっていく、デジタルエフェクトがバリバリ施されたM9「(O)rdinary」、オーケストラサウンドを大々的に導入したバラードでありながら、後半は不協和音がにじり寄ってきて全然安心できないM10「(D)eath」は、ポップスと呼ぶには、どこかいびつで不穏なメロディーが目立ちます。

 

ラストのM11はタイトルトラックだというのに、何と全編ピアノによるインスト。最初は儚げで美しい印象があるんですが、後半になってくるとその旋律が徐々に不気味な空気感を漂わせていく。最後の最後までクセが強いというか、一筋縄ではいかないというか...

 

過去作のように、一貫して気持ちよく疾走する曲は無い。後半に至ってはもはやメタルですら無い。ポップミュージックとして聴くにも、演奏の密度が濃く、それでいて全体的に気味が悪いメロディー、不穏な空気に包まれています。最初聴いた時は面食らったというか、とにかく驚きと戸惑いに支配されました。もともとカメレオン的なバンドだとは思ってたけど、まさかここまで行くのかと。

 

このスタイルを「過去作より良い!最高!」と絶賛することは絶対できませんし、4thアルバムのようなバランス感覚を持ってほしい気持ちはあります。しかしだからといって本作を「メタルの軸からブレやがって!駄作だ!」と切り捨てることもできません。事実、困惑しながらリピートして楽しんでるわけですし。

 

本作をメタルファンに広くオススメするのは気が引けますし、間違ってもメタル的興奮を期待してはいけませんが、不思議と心に残る魅力があります。いったいこのアルバムは何なんだ。

 

 

個人的に本作は

"過去最大の振り幅を持つ実験的な奇作。不可思議な魅力に彩られた中毒性があるが、鋼鉄成分は過去最低"

という感じです。

 


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