- 最初から最後まで哀メロ大洪水
- 圧倒的手数のドラムが生み出すエクストリームな疾走
- 起伏は少なく、良くも悪くもボリューム大
哀しい。とっても哀しい。
何がって、このアルバムがですよ。今回取り上げる『CHAOSBRINGERS』の音が、とにかく哀しい。
2016年結成という、比較的キャリアの短い新進気鋭のメロディックデスメタルバンド・the Art of Mankindの、フルアルバムとしては3作目となる新作。
メロディックデスメタルというジャンルにおいて、日本はかなり実力派揃いといえるような状況になってきてる訳ですが、このthe Art of Mankindも、THOUSAND EYESやSerenity In Murder、Veiled in Scarletといったバンドにも、引けを取らないポテンシャルを秘めていると思います。
シャープな切れ味鋭いギターがザクザクとリフを刻み、手数足数が半端ないことになっているドラムがつんのめるように疾走しまくり、獰猛なシャウトヴォーカルが喉笛に噛み付かんとする、非常に粗野でエクストリームなサウンドを出しています。スタイルとしてはThe Black Dahlia Murderに近い感じか。ミシンみたいにバカッ速いドラムが一番そう感じさせる要因ですね。
そして、そんな熾烈極まるサウンドに、徹底的に哀しみのエモーションを大量注入しているのが最大の特徴。リードギターにもリフにも、猛烈な悲哀がこもっていて、哀しい旋律が大盤振る舞いの垂れ流し。
楽曲に込められた感情を喜怒哀楽で分けるとするなら、本作に込められた感情は「哀」がほとんどを占めると言っていいでしょう。デスメタルだから「怒」の感情もあるかな。「喜」と「楽」はまったくと言っていいほどありません。非常に潔い音を鳴らしている。
ギターだけにとどまらず、楽曲によってはオーケストレーション(シンフォニックメタルと呼べるほどではなく、あくまで楽曲を活かすためのアレンジの域を出ない)を活用して、より劇的な印象を強めているのもポイントです。
これほどまでに哀愁バリバリのスタイルながらも、前述の通り音作りは非常にエクストリーム。ドラムは超速、ヴォーカルも獰猛であり、デスメタルとしての攻撃性がまったく損なわれていないのも嬉しいですね。
疾走!哀愁!咆哮!を貫き通し、アルバム全体通してあまり起伏は無い。その潔さは美点であるのは間違いないのですが、攻撃力マシマシのサウンド、多量の哀メロが二人三脚で全力疾走する様を、50分以上に渡り聴き続けるという構成は、どうしても聴き疲れとは無縁でいられないのも事実。個人的にはあと10分くらい短ければ、より好きになってたかな。
とはいえ捨て曲なんてものは無く、ド頭から本作の方向性が1発でわかるM1「Burn It Down」に始まり、哀しみの旋律が大乱舞するタイトルトラックM3「Chaosbringers」、劇的極まりないラストのギターソロに酔えるM5「Sword of Obsidian」など、悲壮感を纏って爆走する楽曲のオンパレード。
特にラストのM9「Mechanical Sanctuary」〜M10「Omen」〜M11「Before the Dawn」の流れにおける哀愁の波状攻撃は凄まじいですね。溢れんばかりの哀しい旋律と、怒涛の突進力が一切おさまる気配がないどころか、さらに気合いの入った哀メロギターが盛りだくさん。
特にラストを飾るM11のサビにおけるリードギターは、海外のメロデスではなかなか聴くことができない、歌謡的な泣きを帯びた劇メロが炸裂。アルバムの締めくくりに相応しい劇的さを誇ります。このむせかえるような激情!たまらん!
強靭なエクストリームサウンドで暴れながら、抑えきれない哀しみに塗れた旋律に泣く、この激しさと泣きのコンビネーション。メロデスの「メロ」に「哀しみ」を求めている人(メロデスリスナーは大体そうだろうけど)はマストで聴くべき強力盤。人によってはやりすぎと感じるでしょうけどね。この洪水のように溢れる哀愁がたまらんのです。
個人的に本作は
"超速ドラムで爆走するエクストリームサウンド。そこへ加減なく大量投入された、哀しみに塗れた泣きメロが絶大なインパクトを放つ"
という感じです。