ひとりごと ~Music & Life-Style~

HR/HMを中心としたCD感想、足を運んだライヴの感想をメインにひとりごとをブツブツつぶやくブログです。

SKYLARK 『Gate Of Hell』

  • クサメタル」の源流
  • 演奏・ヴォーカル・音質はどれも厳しめ
  • 局所的ムーブメントを巻き起こしたクサメロの威力

 

音楽のアルバムCDというものは、もちろんジャンルによって異なってはくるものの、ヴォーカル、演奏、音質、曲構成、参加ミュージシャンなど、様々な要素で評価されるもの。一般に名盤とされるものは、数々の要素のうち多くが優れているものでしょう。

 

反対に、アルバムを構成する要素がことごとく質の低いものであった場合、凡作だったり駄作だったり、迷盤扱いされてしまうのが常。

 

しかし中には、多くの要素が凡作以下で洗練されていないにも関わらず、(一部において)名盤扱いをされている作品もあります。

 

ヴォーカルのハイトーンは今にもひっくり返りそうで危なっかしい、演奏力にも粗が目立ち、超絶技巧とはとても言えない、音質もスカスカ気味でチープ寄り...などなど、作品としてのクオリティーはお世辞にも高いとは思えない。

 

それなのに、「メロディーのクサさ」という美点を突き詰めることによって、そんなマイナス要素を挽回しきり、ごく一部の界隈において歴史に名を残す名盤と扱われるまでに到達したアルバムがあります。

 

それが今回取り上げる『Gate Of Hell』。イタリアのメロディックスピードメタルバンド・SKYLARKが1999年に残した3rdフルアルバムです。

 

90年代後半から00年代初頭にかけて日本で勃興した、クサメタルムーブメントの立役者といえる伝説的存在。メロスピ/メロパワに精通している人であれば、多くの人がその名を知っているのではないでしょうか。まったくリアルタイム世代ではない僕ですら知ってるレベルですから。

 

なんでも、インターネット普及期にメタルレビューサイトを運営していたJINさんという方が、このSKYLARKのサウンドに衝撃を受け、「メロディーが過剰に哀愁があって、やり過ぎなほどドラマチックな要素を取り入れたメロディックメタル」に対し、「クサメタル」という名称をつけたのだとか。そう言う意味では、「クサメタルはSKYLARKから始まった」と言ってもいいのかも。

 

収録されている音は確かにかなりチープ。速弾きはなかなかに頑張ってる箇所こそあるものの、リードギターになったら一気にポンコツな印象が増量するし(活字で表すなら「プー」)、ヴォーカルのハイトーンはギリギリすぎて、ライヴで再現できる気配が微塵もしない。音質も薄っぺらいし、所々挿入される女性ヴォーカルも言っちゃ悪いですがヘタ。

 

演奏面で唯一良いのは、キーボーディストのシンフォニックアレンジですね。優美で壮麗な印象をグッと底上げするシンフォサウンドは、楽曲の魅力にしっかりと貢献しています。しかし良いのはシンフォアレンジのみで、単音の鍵盤になると一気にコミカルでダサくなってしまう。

 

1曲の中で何の前触れもなく急にスピードアップしたり、前半に7分以上の大作を固めておいて、中盤から後半になると1〜2分台の曲がゴロゴロしてたり、インタールード的役割を果たすM5「The Last Question」が4分近くあって、そこからシームレスにつながる疾走曲M6「Earthquake」が1分半くらいしかないなど、曲やアルバム構成においても「?」となります。こりゃB級通り越して、C級と言われても仕方ないな。

 

しかし、そんなネガティヴな面を補って余りあるものこそがクサメロの存在。シンフォニックなサウンドからも、歌メロからも、劇的でクッサ〜いメロディーが掻き鳴らされている。

 

前述したように前半に大作が続くのですが、どれもが非常にメロディアスでしてね。長い曲を好まない僕ですら、ダレずに一気に聴き通せちゃうんですよ。ヴォーカルも演奏もクオリティー高くないのに。

 

劇的なキーボードが頭から登場し、ドラマチックな疾走を見せながらも、中盤のチェンバロ風シンセがあまりにチープなM2「Welcome」、キーボードがクサさ全開で、後半には何を思ったか一気に爆走しクサメロを垂れ流すM3「The Triumph」、サビの"べゼブ〜ッ!"が真似したくなるくらいキャッチーで、ラストに三流魔王の語りが入るM4「Belzebù」。この3曲の連打はまさにクサメタル界の名曲ラッシュ。

 

後半に鎮座するM9「Why Did You Kill The Princess 」を初めて聴いた時の衝撃はすごかったですね。中盤にアクセルをグッと踏み込みどんどん加速、そこに合わせるように、指一本で弾いてるのかと思わせる単音キーボードが重なるパートは、

 

「すごい!劇メロがどんどんスピードを上げていくぞ!」

という興奮と、

 

「ガハハハ!何だよこのチープなキーボードは!」

という笑い

 

まったく異なる二つの感情が同時に去来するというミラクルが発生しましたからね(笑)

 

2024年現在は、日本でもZemethのようなやりすぎなまでのクサクリエイターがいるので、このアルバムのクサさもある程度は常識の範囲内なのかもしれません。これをリアルタイムで喰らったクサメタラーは、僕以上の衝撃を受けたんだろうなぁ...と思わずにはいられませんね。

 

どこを切っても一流のメタルにはなり得ないクオリティーであるのに、クサさという武器一本で局所的ブームを巻き起こした、まさに伝説のクサメタルアルバム。

 

 

個人的に本作は

"メロディーのクサさという一点のみで、「C級メロスピアルバム」から「カルト的人気を誇る伝説の名盤」と成り上がった作品"

という感じです。