タイ出身のメロディックスピードメタルバンドの4thフルアルバム。
前作『Episode Ⅲ: The Archangels And The Olympians』は、辺境国のメロスピとは思えぬほどヴォーカル・演奏共に高い水準で、かつ鼻がひん曲がるほどの強烈なクサさを秘めた、メロスパー大喜びの良作に仕上がっていました。
show-hitorigoto.hatenablog.com
そして本作、前作とメンバーが大きく異なり、ギタリストのビギー・ファンラス以外のメンバーは2019年に一新されています。
そんな大幅なメンバーチェンジにおいて最大のトピックとなるのは、もちろんヴォーカルでしょう。元GALNERYUSのヴォーカルにして、現在はGUNBRIDGEやREKIONといったバンドで活動しているYAMA-Bさんが担当しています。
日本のミュージシャンが海外のバンドに加入してる例って、THRICEのテッペイ・テラニシさんとかがパッと思いつきますけど、バンドの顔であるヴォーカリストが日本人って、僕はあんまり前例が思いつきません。去年来日したそうですが、そこでつながりがあったんでしょうかね?
そんな日本での話題が盛り上がりそうな本作ですが、聴く前は二つの懸念点により不安が大きかったというのが本音です。
まず一つ目はYAMA-Bさんのヴォーカル。
本作最大の話題ではありますが、個人的にはGALNERYUS時代から、彼の芝居がかったというか、仰々しい感じの低音ヴォイスがどうしても苦手でして...。GALNERYUSの過去音源を聴くときはもっぱら小野さんヴォーカルで録り直された方ばっかり聴いてしまうのです。ヴォーカルからして僕の耳に合わないのではというのが一つ。
もう一つは「プログレッシヴメタル要素を増強し、演奏が強力になった」という前評判。
元々パンク・メロコアという非常にわかりやすい音楽からロックにハマった身なので、ストレートなわかりやすさ以上に小難しさ、敷居の高さを感じさせるプログレッシヴメタルというジャンルがこれまたどうにも苦手。前回感想文を上げたDGMとか、メロディアスな歌メロを武器とするCIRCUS MAXIMUSとかなら聴けるんですが。
show-hitorigoto.hatenablog.com
とはいえ中心人物がまだ残っているわけだし、前作は強烈な臭いまみれの作品だったから、クサメロの期待はしていいだろう!と思い直し、いざ聴いてみる。
......そして聴いてみた感想。大変残念ながら、僕が期待していたアルバム像とは大きく異なるものになってしまいました。
まず言えるのは、客観的な音楽としてのクオリティーは間違いなく上がっています。インストであるM1「Destructive Chaos」からして、複雑に織り交ざる技巧的な演奏が舞う。技術的にははるかに前任メンバーを上回り、音質もチープさとは無縁。「辺境国のメタルなんて全部B級もしくはC級でしょ?」と考えている人を驚かせるレベルに到達しています。
懸念の一つであったYAMA-Bさんのヴォーカルも、それほどネックにはならず(まあ苦手とはいえ、聴くだけでイヤになるほど拒否感を持っていたわけではないですし)、音圧が増した怒涛の演奏の中、存在感を失わずに堂々とした歌唱を繰り広げています。
では何が良くなかったのかというと、前作にあった強烈なクサメロ。これがものの見事に失われてしまっているのです。これがホンット~~に痛い。
盛り上がりそうで盛り上がらず、どこがサビなのかもイマイチ掴みづらい、キャッチーさの抜けきった印象に残らないメロディー。大仰なコーラスや流麗なキーボードが前に出てきて、「オオッ!イイ感じかも?」と一瞬思わせてくれても、その期待を超えてくることなくフェードアウトしていく様は、聴いているだけでもどかしくなってくる。
どれだけYAMA-Bさんが雄々しい歌声で吠えようと、僕の琴線に引っかかることはなく、「なんか演奏もヴォーカルも上手いけど、メロが平坦でよくわからん」とスルスルと流れ切ってしまうのです。む、虚しい...。
やはりメロスピはどれだけバックの音圧が見事になろうと、演奏技術が飛躍的に向上しようと、肝心要なのはメロディーの充実度。これに尽きる。前作には少なくとも、そんな僕を熱く盛り上げてくれるドラマチックなメロディーが息づいていたのですが。
M10「Novelist」は、多くのメロスピファンが「これを待っていた!」と快哉を叫ぶであろう、見事なキラーチューン......なのですが、1stアルバムに収録されていた楽曲のリレコーディング。過去の曲がブッチギリで印象に残るという事実が、新曲群の充実度の低さを物語ってしまっているような。
前作に比べて良くなったところといえば、20分にも及ぶインストという訳わからん曲を入れず、ボートラ全部含めても一時間以内に収めてくれたところかなあ。この収録時間のおかげで、濃密な演奏ばかりでも聴き疲れを引き起こすことはないです。
しかし、過去曲からここまでメロディーの質が様変わりしているとなると、今後彼らからクサメロスピが生まれるのかが心配ですね...。この方向性は本作だけで、次作からまたメロディアスな方向に舵を切ってくれるとありがたいけれど、もしこの路線で固まるというのであれば、今後このバンドの新作を聴くことはないかもしれない...
演奏やヴォーカルはイマイチでも良いもんは良いし、どれだけ完成度が高かろうと響かないもんは響かないという当たり前のことを再認識させられました。ひょっとしたらもっとたくさん聴きこめば本作の魅力がわかってくるかもしれないけど、これ以上時間かけて聴きこむくらいなら、他に聴きたいアルバムいっぱいあるしねぇ...
個人的に本作は
"前作から遥かにパワーアップしたサウンド。それと引き換えに失ったクサメロ"
という感じです。
MELODIUS DEITE - Malicious Envy (OFFICIAL VIDEO) | Art Gates Records