- It ain't heavy metal
- ロックもポップスもヒップホップもダンスミュージックもブッ込んだ
- ロック/メタルの枠を超えたアイコンとなり得るか
もともとは新世代デスコアの旗手として注目されていたものの、今やすっかりコアな要素を廃した恐れ知らずなロックバンドBRING ME THE HORIZONの去年発表した最新作。
去年SUMMER SONICのライヴを観て、単なるコア上がりのバンドに終わらせないスケールのライヴを披露してくれ興味を抱き(今の今までロクに聴いてなかったの)、そこからしばらく経ってからようやく本作を購入しました。
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もうデスコアの要素を取っ払って久しいようですが、本作はもうデスコアどころかヘヴィメタルの要素すらゼロ。ホントに皆無と言ってもいいです。何も知らない人がこの音を聴いて「これはヘヴィメタルバンドのアルバムだ」と感じる人はまずいないはず。
さすがにデスコアキッズが未だにかつての姿を取り戻してほしいとは思っていないでしょうが、ここまでくるとメタルコアやポストハードコアをメインに聴く層も「こりゃ自分向けに作られたコンテンツじゃねえな」と判断してしまうのではないでしょうか。
トランスのようなリズムやサウンド、ボイスパーカッション、ラップにブラスまで使用。グロウルなんかもちろん存在せず、時折聴けるシャウトもメタルっぽさのない激情ハードコア系。とにかく歌に振り切ったポップなメロディーで占められたりと、メタルとは畑違いの要素てんこ盛り。フロントマンのオリヴァーは「他人がどう思うかは考えず、とにかく自分たちがやりたいことをリスクを恐れずにやった」みたいなことをインタビューで言ってましたが、それにしたってここまで冒険できるとはすごい。
ロックシーンからはもう何年も顔となるビッグなアーティストが出ていない事を嘆き、自分たちがシーンに変革をもたらそうという気概が、彼らの音をここまで劇的に変化させたんでしょうね。ヘドバンのインタビューでSlipknotのコリィが「音楽のシーンは古い世代と新しい世代が中指を立て合い、波風を起こしていくことで作られる」と言っていたように、彼らは停滞した現在の音楽シーンに波を巻き起こそうとしてるんだと思います。
閉塞的な環境の中で変わらない自分たちを、これまた変わらないファンたちに好意的に評価されるより、安住を捨てて毀誉褒貶の台風の目になることを選んだ彼ら。音楽性はどうあれ、僕は彼らのアティテュードを「ロックなもの」だと思っています。
まあそんなこんなで本作『Amo』。結論から言うと個人的には普通に楽しめました。メロディアスさ重視で、デスコアはあまり聴いてこなかったリスナーなだけに、こういうメロディーがダイレクトに響く曲のほうが受け入れやすい。
もちろんハードに歪んだ音に親しんだ者としては、ちょっと平坦すぎたりタルく感じられる瞬間も多いのは事実。とはいえ、とてもかつてはギャウギャウ喚くようなヴォーカルだったとは思えない、オリヴァーによるエモーショナルな歌唱がしっとりと胸に染みる場面もたくさん。
特に印象的なサビメロが聴ける珠玉のポップチューンM7「Medicine」、これまたキャッチーさを有しつつ軽快な疾走感と、怪しげなコーラスが彩られるM8「Sugar Huney Ice & Tea」の並びは文句なしのハイライトです。
このジャスティン・ビーバーやカーリー・レイ・ジェプセンを聴いてる人が聴いていてもおかしくない音(知らんけど)をどう評価するかは、もう完全にリスナー側の懐にかかっています。音楽のクオリティー自体は間違いなく高いので、ポップミュージックに親しめる人であれば、何かしら得る物があるんじゃないでしょうか。
個人的に本作は
"アングラ界出身のバンドが到達できる音楽的多彩さの最果て。「挑戦作」「意欲作」という言葉すら生ぬるい、変革のロック・アルバム"
という感じです。
M7「Medicine」 MV
M8「Sugar Honey Ice & Tea」 MV