- スロー/ミドル曲の存在感は過去作一の異色作
- どんな楽曲でも変わらずSlipknotらしさは一貫
- やっぱりエクストリームナンバーの安定感が頼もしい
現代ヘヴィメタル界のトップをひた走り、来年にはKNOT FESTでの来日も予定している、9人組エクストリームメタルバンド・Slipknotの7thフルアルバム。
もう彼らもデビューアルバムをリリースしてから23年もの年月が経ったんですね。とても大衆ウケしそうにないサウンドを提示してから、やや音楽性を軟化させてはいるものの、「不気味なマスクを被り、ヘヴィで激しいメタルをプレイする」という基本線は、これまでまったくもってブレていない。
もちろん本作においても、かつての作品の内容を踏襲したアルバムには仕上がっていて、Slipknotらしさをしっかりと感じることができる。できるんですが...
ちょっと本作は過去作とは少々様相が異なる点も多く散見されるのです。それが、ダークで重苦しくも、ゆったりとしたテンポで進みゆくスロー/ミドル曲の存在が大きいこと。
もちろんメンバーも年齢は重ねるもの。メンバーみんな50手前くらいまで来ているし(ショーン・クラハンに至っては50過ぎ)、いつまでも狂気的で激しい楽曲を満足にプレイすることは難しいことは明白。大人になっていくことで、音楽的な趣向も成熟してくるという影響もあるのかもしれません。
オープニングとエンディングを飾るM1「Adderall」、M12「Finale」の2曲は、ゴシックロック的ムードを醸し出す淡々とした楽曲で、M12に至っては最後に美麗なコーラスが流れる。
他にもコリィのシリアスな歌い出しから、シャウトが支配的なサビになるまでずっと重々しいM4「Yen」や、ヘヴィリフと極悪なシャウトに、もの悲しさを押し出す歌メロの交錯が聴けるM7「Medicine For The Dead」、強烈な哀愁バリバリのイントロに、力強いパーカッションがインパクトを放ち、ズルズルと引きずるような退廃的暗さがやまないM8「Acidic」など、スロー曲の存在感が従来作に比べかなり大きくなっているのが特徴。
まあ前作『We Are Not Your Kind』も、後半においてスロー曲の主張が強くはあったんですが、本作は頭とお尻がこういった曲調なので、そこで印象が決定づけられるというのが大きいかもしれない。
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Slipknotというバンドには、やはり強烈無比な怒り狂うエクストリームメタルが望まれてるはずで、こういった方向性はあまり歓迎されないかもしれず、正直なところ僕も本作を「すごい!これは彼らの最高傑作だ!」と言うつもりはありません。むしろ彼らが出してきたアルバム群の中では地味な部類に属する作品かもしれません。そういう意味で、特に賛否が割れやすいでしょうね。
それでも、スローな楽曲においても一貫して彼ららしい不穏さ、ダークさ、大衆に媚びていかない負の感情がしっかりと息づいているのは素晴らしいですね。アルバムのどの瞬間においても「Slipknotを聴いてる」とわかるバンドの個性が備わっている。
そしてアグレッシヴなメタルナンバーの完成度はさすがの一言。M2「The Dying Song (Time To Sing)」、M3「The Chapeltown Rag」は、コリィの見事な歌唱力を生かしたメロディアスなサビ、ターンテーブルやカンカン言う特徴的なパーカッション、音こそ軽めながら、尋常ならざる手数で叩き込まれるドラムと、Slipknotの要素を全部盛りにしたかのようなキラーチューン。
この2曲の並びだけで「Slipknot is Slipknot」を実感させてくれるのが心強く、マシンガンのような早口ヴォーカル(これをデスヴォイスでやってのけるコリィの能力の高さがすごい)が、絶大なインパクトと勢いを持つM10「H377」も良いですね。
これまでの作風に比べ、怒り狂う勢いでひたすらに圧す、という側面が縮小されてしまったのは確か。それでも、バンドが20年以上積み重ねて表現してきた個性や、ネガティヴな感情をそのまま吐き出したかのようなサウンドにはブレることがない。
あと内容とは関係なく気になるところですが、アルバムタイトルと最後の曲名で、どうにも終わりを連想させてしまう作品ではある。今後はどうなるのだろうか...
個人的に本作は
"Slipknotらしいエクストリームメタルとともに、バンドの成熟を表すスロー曲の存在も大きくなった一枚。バンドらしさは健在だが賛否別れやすいかも"
という感じです。