- 明確なコンセプトは持たないスペシャルアルバム
- スピードをやや抑え、メロハーの存在感が大きい
- 各楽曲の個性がかなり明確に表れる
日本のメタルシーンの代表格ポジションを担う存在になって久しいGALNERYUS。前作『UNION GIVES STRENGTH』に続いて、2作目となるスペシャルアルバム。
前作がリードトラック「WHATEVER IT TAKES (Raise Our Hands!)」の歌詞、ダークな楽曲からポジティヴな魅力溢れる楽曲へと移りゆく様により、コロナ禍を嫌でも想起させる内容になっていましたが、本作においてはそこまでコンセプチュアルな構想はなかったらしい。
だったらスペシャルアルバムじゃなくて、普通のフルアルバムとして作ってくれよという思いも無くはないんですが、まあこのミュージシャン冬の時代において、ここまでコンスタンスに新作を作ってくれることがそもそも大変でしょうからね。ちゃんと音源をリリースしてくれるだけで感謝しなきゃいけません。
50分弱というコンパクトさながらも、イントロとアウトロのトラックを設けて、ラストに小野さんソロ曲のバンドカバーという、ボーナストラック的楽曲を配置するなど、フルアルバムではなくとも、ちゃんと一枚通して単体の作品であるという作りになっています。
もちろん彼らのことですから、楽曲のクオリティーはどれもすこぶる高い。疾走曲が少なく、前作のリードトラックほどの輝きを放つ曲はなく、総合的な満足度では前作には及ばないか。ただどの曲においてもフック満載のメロディー、異様にテクニカルかつハイテンションな演奏で彩られています。
早速の速弾きが投げ込まれるインストから続くM2「RUN TO THE EDGE」は、「これぞGALNERYUS!これこそがGALNERYUS!」と言いたくないような、超・王道の疾走メロディックパワーメタル。冒頭からアクセル全開でバンドらしさを発揮させてくるのはやはり強い。
聴きごたえ満載の長大超絶ギターソロを盛り込み、ハイトーンが冴えるヴォーカルメロディーは号泣必至の哀愁を轟かせる。SNSでサビだけサラッと聴くのが主流(?)の昨今にあって、そんな流れに逆行するかのような9分超えのクドいまでに濃厚なメロパワ。
YUHKIさん作曲のM3「TIME WILL TELL」は、M2と比してGALNERYUSらしさ直系の勇壮な泣きを少し控えめにし、普遍的なメロディアスさを強く表出させた楽曲。途中のウォーウォーいうシンガロングに、サビのメロディーがとにかくキャッチーで良い!耳に馴染みやすい良質なメロディーが、小野さんの歌声によって淀みなく届けられてとっても爽快。本作の中ではこの曲が一番好きかな。
M4「LET US SHINE」とM5「WITH PRIDE」は、SYUさん曰く「メロハー区画」とのことで、スピードを抑えたメロディアスハードが続けざまで聴ける。前者はポップな歌メロを強調させつつ、ギターソロの泣きはバッチリ。後者は歌謡的な哀愁が非常に強く、イントロの段階から切ない旋律バリバリなのがいいな!
どちらの曲もYUHKIさんのキラキラしたキーボードの主張が強く、演奏の濃度が濃いガルネリサウンドの中での、ある種の清涼剤的なアクセントになっています。
M6「BRAVEHEARTS」は、曲タイトル通りの勇壮なムードがムンムンなミドルナンバー。ヴァイキングメタル的とも言えるような雄々しいメロディー(小野さんの歌声により過剰に暑苦しくはならない)が支配的で、オーディエンスが合唱できるようなパートも満載。この男気溢れる、メタルならではの空気感は否応にも熱くさせられるでしょうね。途中ちょっとテンポアップして、バリバリのギター&キーボードソロを入れ込んでくるのが熱い。
アウトロを挟んでのラストM8「祈」は、小野さんのソロ曲をバンドでカバーしたもの。バンドカバーとは言いつつ、演奏はそこまで重要な役割は担っておらず、あくまで主軸は小野さんの歌。こういう曲を歌わせれば、やはり小野正利という人は天下一品。
パワーメタル的な疾走感、痛快度は前作に比べて落ちてしまうのは事実。それでもなおGALNERYUSらしい哀愁・勇壮・ドラマチックなメロディーと演奏の妙、クリアに天上まで行き届くヴォーカルパフォーマンスはやはり素晴らしいの一言に尽きます。
熱きパワーメタルに、キャッチーなメロが主軸の疾走曲、ポップさ、哀愁をそれぞれ際立たせたメロハー、メタルらしい勇壮さに満ちた曲と、各曲の個性はかつてないほど明確で、飽きもダレも一切感じさせないところが嬉しいですね。
まあ欲を言えば最後に一曲疾走パワーメタルがあった方が、なお印象が良かっただろうとは思いますけど。
本作の初回限定盤には、僕も札幌公演に行った「"FIND THE WAY TO OVERCOME" Tour 2021」のツアーファイナル、新宿BLAZEでの映像が収められたDVDつき。セットリストは札幌で観た時とほぼ同等のもので、相変わらずの素晴らしきパフォーマンスを目にすることができます。
show-hitorigoto.hatenablog.com
MCで話してる内容も同じようなもので、小野さんの午後ティーの思い出を聞いたときには、cube gardenの光景が脳裏に浮かびました。
ただ、こうやって引いた映像で改めて見てみると、人と人との間に均等の隙間があり、暗転してメンバーが登場してもパラパラと拍手が起こるのみで、観客から大きな反応が返ってこないライヴというのはやはり違和感が強いな。コロナ禍に慣れて、この風景にも一切疑問を抱かない感性にならなくて良かったと言えますが。
個人的に本作は
"前作ほどの疾走感と完成度、強力なアンセムは無いが、パワーメタルからメロハーまでそれぞれ独自の個性を主張する、良質なメロディックメタルが集められた一枚"
という感じです。