- 前作の流れを汲む荘厳なシンフォニックメタル
- メロディーの普遍的キャッチーさを全曲で担保
- ボートラに至るまで全曲隙無しの名盤(並びは考えてほしかったが)
アメリカ出身ながら、アメリカのメタルらしさを一切出すことなく、シンフォニックメタルというジャンルを代表する存在にまで上り詰めたKAMELOTの、前作より5年ぶりとなるフルアルバム。
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このバンドに関しては、ヴォーカルも演奏も、そして作曲に関しても何も心配はいらないレベルで安定しているので、本作の出来もきっと間違いはないのだろうと思っていました。
そして蓋を開けてみて、やはり期待を裏切られることはない、それどころか上回ってくるような快作を出してくれるのだから、このバンドの実力はただごとではないことがわかります。
ライナーノーツによると、中心人物であるトーマス・ヤングブラッドはコロナに罹患して、コロナ禍前から本作収録曲の作曲はしていたものの、スケジュールに大幅なズレが生じてしまったらしい(同じような境遇のバンドもたくさんいるでしょうね) 5年という、このバンドにしては長めのスパンでのリリースになったのはこのためでしょう。
基本的には前作までと同じ流れを汲む作風で、美しく荘厳な響きを轟かすシンフォニックサウンドに、軟弱さを感じさせないモダンなヘヴィさをまとったバンドサウンドが織りなす、シリアスな世界観に彩られたシンフォニック・パワーメタル。トミー・カレヴィックによる、しなやかで、艶やかさと色気を持ち、かつ芯の通った見事なヴォーカルがバッチリとハマっていて、KAMELOTらしい格式高いメタルを存分に堪能できます。
何より本作が素晴らしいのは、わかりやすいキャッチーなメロディーが豊富にあること。サウンドの芸術点が高くなると、凡人には理解し難い領域にまで小難しく、とっつきにくい作風になってしまいそうなものですが、彼らにはそれがあまり無いのが嬉しい(さすがにまったく無いとまでは言わないけど)
どの楽曲にも、メロディックメタルを好む者の琴線に引っかかるフックを持った歌メロが息づき、メロディアスな音楽として魅力的なレベルまで持っていけてる。音の荘厳さに圧倒されつつも、パワーメタルらしい親しみやすさすら感じさせる、このバランスが本作最大の強みだと思います。
オープニングを飾るM2「The Great Divide」は、その本作路線を端的に示した力作で、ややテンポを落としたミドル曲から、バラードに至るまで、その方向性が狂うことはない。
どの曲も練りに練ったアレンジとメロディーで楽しめるのですが、特に素晴らしいのは後半。どこかオリエンタルな響きと、チェロの儚い音色、染み渡るトミーの歌唱で魅了するM6「Midsummer's Eve」を挟んでからというものの、KAMELOTらしいシンフォニックメタルが立て続けに投下される。
気高く勇壮なメロディーを奏でるリードギターと、そのスケールをそのまま持ち合わせたサビが大きな聴きどころとなるM7「Bloodmoon」、劇的なクワイアと女性ヴォーカルを立てて、さらに気高さに磨きをかけつつ、デスヴォイスによるアグレッションもプラスしたM10「New Babylon」、パニック映画のサントラ並みに緊迫感を演出するシンフォアレンジに、強烈なエモーションに満ちたトミーのヴォーカル加わる、極上のミドルチューンM12「My Pantheon (Forevermore)」などなど、名曲揃いと言ってもいい。
もともと楽曲作りに安定感あるバンドでしたが、本作はそれに輪をかけて曲全体の完成度が高いような気がします。とにかくKAMELOTらしい豪華絢爛な音作りを逸脱していないながら、全曲にわたり聴き馴染むキャッチーさが担保されているのがポイントです。こりゃ名盤では。
唯一気になる点としては、M12で圧巻のクライマックスを迎えたあと、M13「Ephemera」がアウトロとして来る構成なのに、すぐさま国内盤ボートラとしてM13「Call Of The Void」が来て、アウトロの余韻をかき消してしまうこと。
これで大したことない楽曲であれば「こんなボーナスいらねえよ」と再生をストップできるのですが、本編曲に一切引けを取らないほどアグレッシヴ&キャッチーな名曲に仕上がっているんですよね。なんでこんな良曲が本編から漏れたん?
個人的に本作は
"気高きシンフォアレンジと、それに完璧にフィットしたヴォーカルが織りなす極上のフィンフォニックメタル。ドラマ性と聴きやすさのバランスが絶妙"
という感じです。