- サウンドの軽さやネタ臭さは前作の延長線上
- 疾走曲の爽快感の高さはさすがの安定感
- 個々のキャラが際立っているのはミドル曲の方
キャリアを重ねることで、爆走しっぱなしの激烈スピード狂っぷりもだいぶ落ち着きを見せだした、イギリス出身のメロディックスピードメタルバンド・DragonForceの最新作。
前作『Extreme Power Metal』のリリース直後に、ベーシストのフレデリク・ルクレールがKREATOR加入のために脱退したのも記憶に新しいですが、その後にサポートベーシストを務めていたアリシア・ヴィジルが正式加入。新体制として初の作品となります。
もうすでにスタイルが確立されているバンドですから、体制が変わったところで音楽性には変化無し。モダンなシンセに音数詰め込みまくりのピロピロギター、爆速のドラムでかっ飛ばす、安定のDF印メロディックメタル。
一時期は、少々エクストリームメタルのテイストが顔を出すようにもなりましたが、本作に関してはそういった要素は控えめで、近未来的なシンセの音色がポップなメロディーをより強調している。前作の方向性を踏襲したような出来栄えに感じました。ジャケットのネタっぽさも含めて。
DragonForceをDragonForceたらしめている疾走曲の存在はもちろん健在で、アルバムのオープンニングを飾るM1「Astro Warrior Anthem」は、まさにアンセムの名に相応しい名曲。細かくザクザク刻まれるリフとピロピロ速弾き、異様な速度で踏まれるバスドラ、そして勇壮さを感じさせるキャッチーなヴォーカルと、彼らに求められる要素がしっかりと取り揃えられた安心安定のメロスピ。
これまた人智を超えた速度のドラムが本領を発揮するM4「Burning Heart」に、いきなりブラストから始まり、ギターフレーズもリフもカッコいいM7「The Killer Queen」と、やはり爆走ナンバーの爽快感はお墨付きですね。ここで彼らに裏切られることはありません。
ただし本作においては、ゼルダの伝説シリーズを歌詞のコンセプトにしたM2「Power Of The Triforce」、"Kill, kill, kill!"をはじめとした、やたら耳に残るシンガロングが特徴的なM5「Space Marine Corp」、メタルなコスプレ(?)をしたメンバーがダンスするMVもさることながら、楽曲自体もインパクト抜群なM8「Doomsday Party」など、むしろスピードを抑えた楽曲の方が印象に残りますね。どの曲もキャラがかなり立ってるんですよ。
このため、従来の楽曲スタイルからややネタっぽい彼らの中でも、本作は特にコミカルというか、遊び心が強く感じられる作風になっています。これをどう評価するかは人によって分かれるかもしれませんが、僕としては楽しく聴けました。
欲を言えばM1以外の疾走曲は(テイラー・スウィフトのカバー曲M10「Wildest Dreams」も含めて)、やや歌メロにおいてキャッチーさが控えめなので、ミドルチューンにも負けないくらいのメロディーのフックが欲しかったな。
アルバム全体通しての平均速度は控えめながら、前作の流れを汲んで、本作もまたポジティヴなエナジー溢れるアルバムへと仕上がっていて、ファンならしっかりと欲求を満たせる安定作ですね。
個人的に本作は
"前作同様エクストリームメタル要素を抑え、モダンなポップさを突き詰めたアルバム。疾走曲以上にミドル曲の方が個性が強い"
という感じです。